8月11日(月)『あ、お邪魔しますね(´・ω・`)』
―――8月11日(月) 曇り 午前 8:24
「うわ~……」
「間近でみると、すごく大きいお家だね~」
―――古い武家屋敷のような佇まいの家。
ここが、慶太の家である。
「でも、どうやって慶太さんを呼び出すの?」
「シッ……隠れろカナ」
息を深く吸い、光学迷彩を発動させる姉妹。
その姿が消えると同時に、入り口の引き戸が
カラカラと音を立てながら、開いた。
家から出てきたのは、慶太の母親だ。
「慶太、お昼には戻るからね……」
慶太の母親は、家の中にいる息子に声をかけるが、
返事はない。
「…………」
小さくため息を吐き、白い日傘を広げながら、
街へと出かける、母親。
「「…………」」
慶太の家の壁に寄りかかりながら、母親の姿を見送る
双子のキノコの娘たち。
その姿が、交差点の角を曲がったのを確認すると……。
「……よし、大人はでかけたわね」
「おねえちゃん……やっぱりまずいよ」
久那は、ためらわずに―――
正々堂々と引き戸の取っ手に手をかける。
「ちょっ!? おねえちゃん!?」
姉の大胆不敵な行動に、慌てふためく香那。
さすがに、これは予想できなかったようだ。
「開いてますカー? 開いてますネー、お邪魔しまーす」
何も見えないのに、カラカラと開いていく引き戸。
……まるっきり、怪奇現象である。
恐らく良い子が見たら、泣く。
「……侵入、成功」
「おねえちゃん、さすがにこれはまずいデスヨ!」
「うるさいわね……一応、挨拶はしたわよ。
それに……虎穴に入らずばなんちゃらよ」
「うう……ごめんなさい慶太さん」
―――見事に正面からの侵入を果たした、
双子のキノコの娘たち。
「さて……」
玄関を見渡すと……
子供用の靴が、一足だけ置いてあった。
泥が付いておらず、ほとんど新品のスニーカーだ。
「まったく……いいご身分ですね慶太くん」
それを見た久那の口元が、ひくつく。
「……って、結構、古風な家ね」
外見もそうだが、内装も近代化される事はなく、
古き良き日本の家……といった感じだった。
「ここに住んでいたおじいちゃん……
昔、小学生たちに、
体育館で剣道を教えてなかったっけ?」
香那が思い出したかのように、久那に尋ねる。
「ああ……思い出した。 あのカミナリ爺ちゃんか。
じゃあ、慶太はその孫なのかな……」
「でもお正月とか、一度も見た事無いよね……
慶太さんの……姿」
「「うーん……」」
姉妹はしばし考え込むが、答えは出そうに無い。
―――見た限り、一階にはヒトの気配がない。
どうやら、この広い家に、母親と二人だけで
慶太は住んでいるようだ。
「とにかく、いまは慶太の様子を見る事が先決だ。
とりあえず二階にあがろう……カナ?」
「このサボテンさん……すごく……かわいい」
香那は……目を離した隙に、
玄関の靴置き場にある小さなサボテンに夢中になっていた。
サボテンの針を小指で突きながら……愛でる。
針が刺さって、泣かなければよいが……。
「……カナちゃん? 行きますよ?
「あ、はーい」
サボテンに片手でさよならすると、
香那は階段を登る姉の後ろに付いていく。
ミシッ……ミシッ……と。
木製の階段が、見えない双子を乗せて、
軋みの音を響かせる。
……まるっきり、心霊現象である。
こんなものを見たら、夜、一人で
トイレに行けなくなるであろう。
「……あそこね」
半開きになった扉を見つけた、久那。
部屋の中からは、なにかのBGMと、
ボタンを叩く音が、聞こえてくる。
キノコの双子は、床を軋ませないように
ゆっくりと……歩きながら……
扉が半開きになった部屋を……そっと覗いた。