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8月1日(金)  『桜の樹に住む、双子のキノコ姉妹』

「あたたかいな……カナ」

「お日様が気持ちいいね……おねえちゃん」


 白い粉雪を被った、小さな(かさ)―――。

 ちっちゃい毛に覆われた、硝子のような()―――。

 この白く小さな、キノコの呼び名は―――

 

 『シロコナカブリ』―――。


 姉の、白雪 久那(シラユキ クナ)

 妹の、白雪 香那(シラユキ カナ)


 初夏の緑が目に眩しい……

 大きな、桜の幹にくっついた、

 双子のキノコの姉妹たち。


◇◇◇―――――◇◇◇―――――

■学名:Mycena alphitophora


■食毒:食毒不明

■分類:ラッシタケ科 クヌギタケ属

■和名:シロコナカブリ


■菌解説:小型のクヌギタケ属菌。

傘、柄ともに全体が白色で―――

表面に雪のような―――純白色の粉が付着。

キノコ自体に、特別な匂いはない。

傘の直径は3mm~8mm……柄の長さは2cm程度。

微細な毛に覆われた柄は、糸状で上に向かって

細くなり、まるで硝子細工のように透明。

桜や、クヌギの朽木などに群生するきのこ。

◇◇◇―――――◇◇◇―――――


 ―――8月1日(金) 晴れ 午後 14:21


 雨上がりの―――午後の二時―――。


 緑の葉の隙間から顔を覗かせた、

 お天道様を眺めながら……

 今日も二人で仲良く、日向ぼっこ。


「ねぇ、おねえちゃん」

 久那に比べ、ちょっぴり背が低い香那の白い傘が揺れる。


「ん? どうしたカナ?」

 白い毛が生えた、硝子細工のような柄をかしげる久那。


「あれ……誰だろう」

「ん……見た事がない男の子だな」

 

 桜の樹から、100mほど離れた

 大きな武家屋敷から、

 お母さんの後ろを、

 ゆっくりと歩きながら……

 双子のキノコが住む家の方へと、

 歩いてくる……ヒトの男の子。 


 親子は、言葉を交わさず、

 姉妹が住んでいる家……

 大きな桜の前を、通り過ぎていく。


「……男の子、元気ないな」

「……お母さん、寂しそうだね」

 そして校舎の壁を伝いながら歩き、

 その先にある小学校の門を開けてると

 二人で、中へと入っていった。


「転校してきた子かな? おねえちゃん」

「ん……」

 夏休みの真っ最中……。

 今日は、小学校の登校日ではないのに……。


「「ふーむ」」

 久那と香那はしばらく考えていたが……。

 やはり新しい子が、気になったようだ。


「よし……新しい『ヒトの子』がどんな子か」

「そうだね、見に行こう」


 双子のきのこがまばゆい光に包まれ……。

 白く小さい、『キノコ』の姿から、

 ヒトの女の子の姿―――『キノコの娘』に変わった。


◇◇◇―――――◇◇◇―――――

■娘名:白雪 久那(シラユキ クナ) / 白雪 香那(シラユキ カナ)

 真っ白な白いフード付コートに身を包んだ

 双子の―――『きのこの娘』

 瞳の色は、二人とも明るい翡翠色。

 髪の色は、雪のような、白。

 猫目の姉の久那は、すこし癖毛がついたショート。

 可愛いタレ目の香那は、ロングのストレート。 


 見た目は、普通の女の子。

 大人は、ちょっと苦手。

 でもヒトの子供は……とても大好きな双子たち。

◇◇◇―――――◇◇◇―――――



 ―――8月1日(金) 晴れ 午後 14:32


 誰も居ないはずの、小学校の校門が―――

 ゆっくりと……ひとりでに開いていく。

 見た感じは、まるっきり、怪奇現象―――。


「がんばれカナ……ぐぎぎ!!」

「なんとか……んーーー!!」

 白いコートの力で、他の者から姿が見えなくなった

 双子たちの仕業だった。


◇◇◇―――――◇◇◇―――――

 双子のきのこの娘は―――かくれんぼが上手―――。

 なぜならその白いコートには、

 カメレオンのように、周りの景色と同化して

 姿を隠してしまう……

 『光学迷彩機能』が備わっているのだ。

◇◇◇―――――◇◇◇―――――


 ―――誰にも気付かれる事なく、

 錆びて重くなった鉄の門と格闘……およそ三分ほど。

 ひとりひとりの力は、とても弱いが、

 姉妹は力を合わせ、なんとか門を開ける事に成功する。


「ふー……やっと入れたな、カナ」

「すっごく重かったね、おねえちゃん」 

 『門が重くて、開けるのがとても大変です』

 そう書いた手紙を―――みんなの意見箱に

 今度、匿名で書いて入れておこう―――。

 キノコの娘になって姿を消しながら、

 校庭で、子供たちとアリさんを観察するのが大好きな

 二人は、強く心に誓う。 


「えーと……職員室はどこだっけ」

「あっちから入れるよ……あれ?」

 校舎から校門に向かって、三人の人影が向かってくる。

 先程の親子と、スーツに身を包んだ、長身の女性の姿。


「あ……高橋先生だ」

「相変わらず、美人な先生だね……はふぅ」

 久那の顔が、ぱっと明るくなり、

 高橋先生を強くリスペクトする香那の顔が、にやける。

 

 大人は苦手なキノコの姉妹であったが、

 何故か高橋先生だけには、夢中だった。

 将来、先生のようにクールビューティーな女性になるのが、

 双子の『きのこの娘』の夢らしい。


 高橋先生は、男の子のお母さんと談笑している。

 例の男の子は……やっぱり少し離れながら、

 ゆっくりと歩いてきている。


「あれ……もう帰るのか」

「挨拶だけだったみたいだね、おねえちゃん」

 

「じゃあ慶太くん……8月5日が午前中だけの登校日だから、

 その時にみんなに紹介するわね」

 高橋先生は、校門の前で立ち止まると、

 元気の無い男の子に、笑顔を向けて話しかけた。


「……はい」

 返事をしながらも、

 うつむき、相手と目を合わせようとしない男の子。


「やっぱ元気ないなあいつ……もう反抗期か?」

「……どうしたんだろ」


 男の子のお母さんは、

 少し困ったような……寂しいような顔で

 男の子を見ていたが……。

 高橋先生にお辞儀をして挨拶をすると、

 開いていた門を出て、男の子と一緒に元の道を帰っていく。


「慶太君、この学校では上手くやれるといいんだけど……」

 親子を見送った後……高橋先生はそう呟いて、

 錆び付いた重い門の角に、白く細い手をかける。


「あれ……滑車の滑りが悪いのかしら……。

 しょうがないわね」


「フンッ!!!」

 ギギギッ―――ガシャーンッ!!


 閉まりにくいと判断したのか……。

 高橋先生は、気合の掛け声と共に、

 片手で、なんなく錆び付いた門を閉めた。


「「…………」」

「よし……あとで油でもさしておこう」

 門の下に付いた滑車から、立ち上る摩擦の煙……。

 クールビューティーの意外な一面とパワーに、

 呆然となる二人の『キノコの娘』


「……すごいね、高橋先生」

「たしかにすごいが……」

 職員室に戻っていく先生の勇姿を、

 尊敬と畏怖の眼差しで見続けていた……が。


「これ……またあたしらで開けるのか?」

「…………」

 再び始まる重労働に……

 双子の目の前が真っ暗になった。


◇◇◇―――――◇◇◇―――――

 ずっとこの街を見守り続けてきた―――

 樹齢62年の―――桜大樹。


 小学校の道路の傍に、一本だけ残った

 大きな桜の木の家に住む

 キノコの双子の姉妹……

 この街の子供たちの事を、何でも知っている。

◇◇◇―――――◇◇◇―――――


 その日……。


 久那と香那の―――双子のキノコの姉妹は―――

 街にやってきた新しい子供に、興味を持った。


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