とある王国の話
異世界転生。
それは、何らかの要因で死んだ生物が、異なる世界へと生まれ変わることだ。
ただ、異なる世界がファンタジー世界とかゲームだった世界とかだったりする。
また、その世界で生きるための転生の特典とでもいうべき才能や、能力が備えて生まれ変わることが多い。
たとえば、チート的な能力、優れた容姿、天才的学力。持つものはさまざまだ。
けれど、どれだけたくさんの人が異世界転生をしようと、必ず備わるものがある。
それは、生まれ変わる前の記憶。つまり、前世の記憶だ。
記憶を利用して、成り上がることもある。
もし、ゲームの世界であったなら持っている原作知識でハーレムなんかも作れたりする。ギャルゲーに限るが。
さて、長々と説明してきて、結局何がいいたのかというと、つまるところ俺は、異世界転生をしたようだ。
しかも、ゲームであった世界に。
原作知識?ありますとも。
つまり、俺は勝ち組になるのだ!
とか思ってた時期が俺にもありました。
改めて、説明しよう。
俺が、転生した世界は、「さぁ、あなたも王様に!」というシュミレーションゲームだった世界だ。
「さぁ、あなたも王様に!」略して「サー王」は四つに分かれている国の中の一つのスティス王国の王様が主人公だ。
王様という設定だから、内政を行いながら攻略キャラである自国の女性や他国の姫なんかを攻略しなければならない。
攻略キャラの攻略は簡単だ。いや、本当に。
だがしかし、内政がおかしい。
選択肢が出てきてそれを選べばいいだけだろ?
なーんて一瞬でも思ったあなた!
サー王をなめてはいけない。
サー王には四季があって、日にちが動いていく。
そんななかで、攻略キャラとのイベントが起こるんだが、内政のイベントや説明は一切ない。
常に、セレクトボタンで内政を行うことが可能だったのだ。
裏を返すと、どのタイミングで内政を行えばいいのかさっぱりだったのだ。
タイミングを逃し、内政を行わなければ、終盤になってから主人公は民衆によって謀反を起こされ、打ち首の晒しスチルでゲームは終了する。
ご丁寧にセーブデータを消して。
セーブデータの保存をこまめにし、99とある保存場所を全て埋めてあったセーブデータをきれいに消して、タイトル画面に戻るのだ。
こんな意味のわからない、セーブがセーブじゃないふざけたゲームなんかやらないほうがいいじゃないか。
そう思うだろう?
だけど、だけどな。
攻略可能なキャラがくそかわいいんだ。
世のどのゲームと比べても圧倒的にサー王が勝つ。
しかも、この理不尽な全ての状況に打ち勝ちクリアすれば。
好きな攻略可能なキャラの等身大模型を買うために必要な整理券を手に入れられるというご褒美があるんだ。
のどから手が出るほどほしいから諦めがつかない。
がんばって、がんばってようやくクリアしたと思ったとき俺は、死んだのだった。
ゲームに夢中になりすぎて、体に限界がきていたことに気がつかなかったのだ。
この説明でも意味わかんなーいっていうやつはいるだろう。
簡潔にいうと、原作知識があってもあんま意味ないから、打ち首のあとの晒し首のフラグ。
死亡フラグがビンビンにたっているんだ。
しかも、ほぼ回避不可能の。
内政を行わなければならないが、行えないんだよ!
今までは何とかやってきたけど、もう何をすればいいのかわかんねーんだよ!
スティス王国の城の大広間。玉座に座っていろいろな考えを巡らしていたが限界がきた。
俺は、玉座から立ち上がってそばに控えていた近衛兵を指差し、叫んだ。
「あー!もういいや!お前今から王様な!俺、市井に降りるから。王様辞めるから。だいじょーぶ、だいじょーぶ。お前は、俺が死んだ後、王様になってたはずだから。
ちょっとはやまるだけだし。俺、死にたくないから。んじゃな。」
もう、俺はあきらめた。
ハーレムとか夢見たけど、無理だわ。
こえーし、しにたくない。
死ぬ寸前、いろいろ後悔して、もっと生きたいって思ったのに、先が見えてんのに、この座にすがっていてもしょうがない。
死にたくないのなら行動しなきゃ。
で、言うだけ言って、颯爽と出て行こうとしたのに。
俺に、指名された近衛兵が俺の腕をつかんだため、失敗に終わった。
「な、なんだよ?」
動揺で、言葉につまりながらも問う。
「はぁー。」
と、大きな、深いため息を近衛兵が吐いた。
「まったく、それならそうと、さっさと言ってくださいよ。王様も転生者だったんならもっとさくさく話が進んだのに。無駄な時間を浪費しなくてすんだのに」
「は?」
今こいつなんていった?王様”も”?
「この城に勤めている、メイドや兵士、料理人から門番まで全ての人間が転生者ですよ。」
「はぁぁぁぁぁ!?」
もう叫ぶしかない。
何だよ転生者って。俺だけじゃないのかよ!つーか転生者いすぎだろ!
「世界一の大国にこのスティス王国がなるとわかっているのに、違う国になんて行かないでしょう?」
「いや、うんそうだな。ってそうじゃなくて! まじでか!?」
「では、ハッピーエンドへと進みましょう」
俺の全力の叫びをスルーし、近衛兵がそういった時、広間の扉が勢い開き、ザッと一列に城に勤めている全員が並んだ。
「了解です!王様の為に、ひいては自分の為にがんばります!」
広間に決意の言葉が木霊した日から、数ヵ月後。
スティス王国はゲーム通り、世界一の大国となった。
俺が王様でいいのか?
とは思ったが、城にいる皆が力を貸そうと思ったのは、自分の為もあるが、俺が一生懸命足掻いていたからだそうだ。
つまり、俺以外が王様になることに何の意味もないと。
俺が俺であったから世界一の大国になったのだと。
そんなうれしい言葉を貰ってから、疑問に思うことはなくなり、この国の人々に尽くそうと思うようになった。
転生して死亡フラグが立って、逃げ出そうともしたが、失敗に終わってよかったなと思う。
今日も、この世界の、この国の平和は続いている。
ありがとうございました。