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8.日陰に咲く鬼灯(いつわり)の花

「よし…二人組みつくれー」

授業が始まって数学の教科担任の田島はそう言った。 1人、冷や汗を流して周りを見渡す女が1人…

(ど、どうしよ…)

話しかけようにも人の顔を見れない彼女はどうしようもなかった。唯一の希望だった葵は新庄と既にペアを組んでおり、幼馴染の市野や昨日助けてもらった柴田なども他の女子の隣に寄って話していた。

コミュニケーションに難のある少女、美山春は静かに1人立ち上がると、いつものように教室の隅に1人で歩いていこうとしていた。

「ちょっと、どこ行くのよー」

自分の近くで声がかけられ、声の方を振り返った春。

目の前には自分よりも美人の少女が立っていた。

「余っちゃったんだ。ペアくもー」

鴉色の長い髪、つぶらな瞳、白くて細い手足。

「…あ、あの…」

顔を真っ赤にする自分とはすむ世界が違う彼女を見て春はただ開いた口が塞がらなかった。

「私須藤夏樹。よろしくね、春ちゃん」

自分のことをいきなり下の名前で呼ぶ人を初めて見た美山春。

須藤夏樹は自分とは対照的で明るくて愛想のよい人間だった。


「春ちゃんさー、眼鏡取った方がかわいいんじゃないの?」

「え?」

春は授業中だけ眼鏡をつける。ただ、眼鏡をつけているか否かなどを見ている人間にそうそうあったことがない彼女は、今の須藤の言葉に驚かされた。

「あー、あと奥二重でわかりにくいけどまつげ長いねー…うらやまし-」

ここまで人の顔を細かく人間がいるのか。

(…すっごい私の顔見てる…あと須藤さんの方がまつげながいのに…)

須藤の尽きない興味。途切れぬ会話。春もいつのまにか彼女のペースに乗せられていた。


しばらくして落ち着きだした春は教室の隅から辺りを見回す。かなり早い段階でペアを組んだ春と須藤から見ると、まだペアを組めていない人たちがいるのが自然だった。

(余ってるだなんて嘘じゃん…まだ一杯ペア組めてない人いるのになあ)

彼女がわざわざ自分とペアを組んだ理由が未だに理解できない春は彼女の笑顔を上目遣いでしか見れなかった。


授業が終われば須藤はたくさんの友達の元で笑っていた。 自分と話しているときと変わらぬ眩しい笑顔で。

(やっぱり、彼女も日向の似合う人なんだなー)

そう考え込み俯く春の机を、隣を通った和島海が揺らしてしまう。

「あ、ごめん」

「い、いえ…」

目をあわせようとしない春を見た和島は、入学式の柴田の様子を思い出す。

(そういえばこの子コミュ障か… あー絢佳に宿題見せてやるって言ってたの忘れてた…)

短いスカートをひらりとなびかせて春から離れていく和島。柴田の元へ行くと、春の方を一瞥した。

「…あの子、虐めたげよ…」

「へ?」

和島の邪を含んだ笑みに、柴田はぽかーんと彼女の口元のほくろを眺めていた。

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