6.四月の暖かい日と、日陰の似合う人
四月の日差しの暖かさをも疎ましく感じていた。
――今すぐ日陰へ行きたい。
その思いが彼女の歩幅を大きくしていた。
結局、私は日陰の似合う女なのだ。 そう言い聞かせて帰路への足を一歩一歩進めていく。
家の扉がいつもよりも重たく感じた。
扉を開けたことで、家の中に春の陽光が差し込み、暗い色したフローリングの床が少しだけ明るい色になる。
春はその様子を冷たい視線で眺めた後、自分の影でその明るくなった箇所を覆い、扉を閉めて再び暗い色に戻す。
「…ただいま…」
春の細い声に特別心配する様子も見せない母、香澄。
「入学式どうだった?」
底抜けに明るい表情をする春の母親とその正反対の表情をする春。
「普通だった…」
悪いときは『普通』と答える。春が学校で色々あることを母である香澄が知らないわけなどない。
「そう…」
何かあったことを知った上で何も問わない。
部屋に戻った彼女は自分のベッドに身体を預ける。
保健室の白いベッドに比べれば柔らかさこそ敵わないものの、自分の家の匂いがして落ち着くのだ。
―やっぱり…高望みもいいところだったのかなあ…
彼女の頭の中にこの言葉が過ぎった。
火照る顔を右手でそっと覆う。 掌に感じる熱と無意識に覚える脈に焦りを感じた。
何でだろう…
何でこんなに悲しいんだろう…
太陽が完全に西側に沈み、外も暗くなる頃、美山春はベッドから身体を起こすと、時計に目をやった。
「7時…夕飯…」
そう呟いて部屋を出て行く。何の変哲もない夕食の時間だったが、彼女は何かが一味違った。
切なさ、焦り、苦しさ…これらの感情が複雑に絡まって、食事が喉を通らなかった。
朝、部屋に差し込む陽光とけたたましく鳴り響く携帯電話の目覚まし時計の音で美山春は目覚める。
携帯電話のアラームの停止ボタンをしっかりと押し、身体をベッドから起こす。
彼女にとっての、中身のない空虚の一日がまた始まった。