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13.決戦の地へ

 俺たちはエネドがいる場へ足を進める。どうやら、その場所はボスが認知しているようで、そこはボスにとって宿命が始まった地のようだ。

 そこは、普通なら信じがたい話ではあるが、数千年前にエネドとボスが出会った場所らしい。といっても、そのままの建物が残っているとは考えづらい。エネドが同じような構造に建て直したのだとボスは言っている。さすがは、現代の権威だな。多少の無茶は目をつぶられるということか。

 しかし、いよいよ大詰めだな。その場所にエネドはいる。捕らわれたアオイもな。だが、ボスの言うことの妙な点は、アオイはもうヴェルに支配されたアオイではなく、普通の女性に戻れたということだ。ボスはヴェルとエネドが合体すると言っているが、それがエネドの最終目標だというのか。

 そうだとすれば、俺は何のために存在しているのだろうか。俺はアオイの中和剤として頑張ろうと心に誓った。だが、もうその必要はなくなってしまう。そうなれば、俺はどんな風にして役に立てばいいのだろうか。中和剤としての力を発揮できない俺など、やはり無力に違いはない。もし、それでアオイを助けられたとしても、俺はみんなと一緒に笑えるだろうか。みんなで頑張った結果だと胸を張れるだろうか。

俺も役に立ちたい。そして、笑顔で軽口を叩き、最後はハッピーエンドで締めくくりたい。

「大勝負にでようというやつがそんな顔でどうする。堂々と行ってやろうじゃないか」

「そうだよ。ここにはパパとお兄ちゃんがいる。これほど心強いものはないよ!」

 そうだ。俺にはこんなことを言ってくれる心強い仲間たちがいる。俺が役に立つとかはこの際関係ない。ただ、アオイを救うことができれば、それが一番だ。


 ここがその決戦の地か。これはまた趣味の悪い外観だ。人気のない森の中なかに大きくたたずむそれは、まさに頂点から人間どもを見渡すような権威に相応しいな。

「遅かったじゃねえかヒーローども。待ちくたびれたぜ」

「まずはお前か」

 そんな決戦の地の前にフェイドはいた。相変わらずにたにたとした顔をして俺たちの前に立ちはだかる。こいつもボスやエネドやヴェルと因縁がある一人のようだが、俺には関係のないことだ。俺の目的はアオイを救いだし、エネドを打ち倒すこと。それをフェイドが邪魔するのならば、フェイドも打ち倒すしか道はないな。

「そんな怖い顔するなよナイト。お前じゃ俺は止められねえよ」

「そんな大物ぶられても困るな。お前はしょせんエネドの犬だろう?」

「なかなか言うようになったじゃねえか。だが、お前はその犬以下だということを覚えておきな。俺はナイトのこと嫌いじゃないぜ。だが、まだ力を出し切れてねえ。今のお前は、ちょっと強い半端者ってだけだ。それなのによくここまで来たよ。俺はそれだけでも称賛に値するね。この世に暴力なんてものがなければ、俺はお前らのだれにも勝てねえよ」

 だが、こいつは相変わらず憎めないな。正直、なぜ敵になっているのかはよく分からない。ボスやフェイドは宿命だというが、何をもって宿命であるかは俺には分からない。

「お前はどうして俺たちに立ちはだかる」

「言い飽きたが宿命だね。それ以上でもそれ以下でもない」

「宿命とはいったいなんなんだ? 謎解きは苦手なんだがな」

「分からない方がいいぜ。こんなもの伝えていくべきじゃないんだ。決して人に自慢できるようなもんじゃねえよ」

「……」

 結局、分からずじまいだ。だが、それはとてつもなく悲しいものなのだろう。何千年と生きてきたデッドもフェイドもそこから抜け出せていない。おかしなものだな。同じ境遇を持ち合わせる二人は拳をかわしあう敵同士だ。

「だからお前じゃ俺を止められねえ」

「そうだな。レッドが止めるべきはお前じゃなく、その先にいる」

「ロンド……」

「あれっ、それじゃあ俺はスルーってことかな? 一応、お前らの足止めでここにいるんだけど」

「お前の相手は俺がしてやる。宿命に縛られた者は、縛られた者同士で決着をつければいい。そもそも、お前の目的は俺だろ?」

 そう言って、ボスはフェイドの前に立ちはだかる。数千年の時を経た決着をつけられることに喜びを感じているのか、フェイドのにたにたにさらに拍車がかかる。まるで、この展開を待っていたかのようだ。

「レッド、サラ。お前たちは先へ行け。アオイと……そして、ヴェルを頼む」

「絶対に生きて……また私と遊んでね? 約束だよ」

「あぁ。約束だ。娘の約束を破れるほど強くできていないさ」

 サラがボスを優しく抱擁する。サラも相当怖いだろう。こんな強者と闘うボスの目の前からいなくならなければならないんだ。

 だが、そんな不安な気持ちを、約束という形で無理やり消化する。見えない細い糸でつなぎとめる安心というものはとてつもないほどに不安定だが、あるとないのでは大いに意味が変わってくる。

 俺はアオイにそんな細い糸をつかませてあげられているだろうか。いや、そう信じよう。アオイが掴んでくれていても、俺が離していては意味をなさないからな。

「……行くよお兄ちゃん。私たちでお姉ちゃんを救いだそうね!」

 俺とサラは前を向いてフェイドの横を通り過ぎる。これで、俺たちの相手はエネドに絞られた。


「ナイト。餞別だぜ。こいつを持っていきな」

 そう言うと、フェイドが俺に何かを投げ渡す。これは……

「……ナイフか」

「そうさ。大事に使えよ。俺の思いがこもったナイフだ。雑に使われると泣くぜ」

「エネドはお前のボスじゃないのか? これは、敵に塩を送るのと同じ行為だぞ」

「さてね。ひとつだけ言えるのは、俺はエネドの野郎をぶっ殺したいってことさ。これは宿命じゃなく本気でな」

 本当、どこまでもつかめない男だ。何を考えているか分かったものではないが、エネドを殺したいと言うフェイドの言葉には何か説得力のようなものを感じた。もしかすると、ただのナイフではないのかもしれないな。俺でもエネドを打ち倒す手助けができるくらいのきっかけになってくれるとありがたい。

「……さてと、決着付けようぜデッド。俺は今日で宿命を終える」

「最後まで宿命か。お前らしいといえばらしいが、そうはさせん。俺だけの問題ではないのでな」

 その瞬間、ボスとフェイドの目つきが変わる。正直、ボスのことが気にならないのかと言われればそんなことはない。だが、俺はここで歩みを止めるわけにはいかない。俺は前へ進む。そして、エネドを打ち倒し、アオイを救う。

 最後の戦いだ。ここが暗い空の最終地点だ。空はいつもここを乗り越えている。俺も、乗り越えてみせるさ。

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