黄泉比良坂
残酷描写レベルとホラー小説レベルは共に一です。
そいつは突然やって来た。
「お前の嫌いな人をひとりだけ殺してやるよ」
それが発端だった。俺はそいつの言葉に興味を持った。
「え?」
「だから、お前の嫌いなヤツをひとりだけ殺してやるっつってんだよ」
俺に嫌いな奴は勿論いる。だが、俺が嫌いなのはクラスのリーダー気取りの仲野だ。俺はアイツが大嫌いだ。いつもいつも俺に文句つけてくる。具体例は此処ではいえないが、とにかく嫌いなのだ。反吐が出るほど嫌いだ。反吐を通り越して身体中の消化液や血液などの体液が全部出てくるほど大大大嫌いだ。1%から100%の間で言うと、800,000,000,001(八千億一)%以上は嫌いだ。hateだ。
「殺してやるよ」
「本当に、できるのか?」
「できる」
そいつは絶対的な自信をもって話す。
「じゃあ、やってくれ」
「俺と契約するかい?」
「ああ」
「後悔しても知らんぞ」
「誰が後悔するか」
こうして、俺はそいつと契約したのであった。
次の日、そいつは学校についてきた。
「ついて来るな」
「大丈夫だぜ、木村。俺の姿は他の人間には見えない」
「不思議なヤツだ」
俺はいつも学校に着くのが早い。いつも一番か二番か、というところだ。
今日は二番だったようだ。あ、あそこにいるのは……
「アイツだ。あいつを殺してくれ」
「分かった。少し離れていろ」
三人目の生徒が教室に入った頃、二つの死体があった。ひとつは仲野のもの。もうひとつは……
「木村………?」
「まったく、馬鹿なやつだな、人間というものは。失われる命の代償、もう少し考えやがれ」
そいつは、そう呟いた。