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元動物園の飼育員、ダンジョン産の魔物を引き取ってのんびり暮らす 〜ダンジョンが出現した世界の魔物保護施設経営〜  作者: ヲワ・おわり


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第3話 飛べない鳥の話

久保田が施設に持ち込んできたのは、布袋に包まれた鳥型の魔物だった。


「暴れるかと思ったんですけど、今朝から全然動かなくて」


「いつから飛べなくなってたんですか」


「昨日ダンジョン内で報告があって。脱走した感じではなく、何かに巻き込まれたみたいで。翼を見てやってください」


 悟は手袋をはめてから袋の口を開けた。


 中にいたのは小型の鳥型魔物。ウィングキャット亜種、と悟は判断した。羽の一部に猫科の柄が入る珍しい種だ。第17号ダンジョンの中層で確認されているが、地上で人間に保護されるのは珍しい。通常は素早く飛び回って近づかせないはずだが、今は羽を体に張り付けたまま固まっていた。


 全身が緊張しているのはわかった。威嚇もできないくらい消耗しているのだろう。


 右翼が下がっている。


「よし、見せてくれ」


 声を落として近づいた。鳥型は首を反らして威嚇しようとしたが、力が入らない様子だ。悟はゆっくり右翼に沿って指を這わせた。骨の位置を確かめる。折れている感触はない。


「骨折じゃないですね。捻挫と、付け根の炎症。翼を使って何かに激突したか、バランスを崩して地面に叩きつけられたか」


「治りますか」


「安静にすれば。動かさないように固定して、炎症を抑えれば二週間もあれば。飛べるかどうかはもう少し見てみないとわからないですけど」


「神崎さん、どこでそういうの覚えたんですか」と久保田が処置の手元を眺めながら言った。


「動物園ですよ」


「猛禽類の骨折も?」


「猛禽類も、爬虫類も、一通りは。自分で完全には治せないことも多いですけど、応急処置と状態判断くらいはできます。獣医さんに回すかどうかの判断もしないといけないですから」


 固定のためのテーピングを丁寧に当てた。強すぎず、緩すぎず。鳥の翼は構造が複雑なので、押さえる位置を間違えると逆効果になる。


 作業しながら横目で部屋の奥を見ると、リンがとまり木の上で身を乗り出している。


 普段はあまり動かないリンが、じっと新入りの鳥を見ていた。


 それからリンが鳴いた。歌うような、柔らかい声で。


 新入りがリンの方向を向いた。初めて、緊張が少し解けたように見えた。


「あれ、なんか落ち着きましたね」と久保田が言った。


「リンが鳴きかけてる。同種じゃないけど、鳥系だから何か伝わるんですかね」


「鳥語で挨拶してるんですか」


「わかりませんよ。そうかもしれないし、リンが単純に気になっているだけかもしれない」


 悟には動物の言葉はわからない。わかろうとも思わない。ただ、リンが鳴いて、新入りが落ち着いたのは事実だ。それで十分だった。


 処置を終えて安静用のスペースを準備した。隣にリンのとまり木が見える場所に設置する。意図的ではないが、結果的にそうなった。


「しばらくここにいてもらいましょう」


 悟は抗炎症成分を含む植物系の素材で湿布を作った。ダンジョン産の薬草は市販の薬より生態への適合性が高い場合がある、というのは管理局の研究報告で読んだ知識だ。実際に動物に使ってみてどうかは、やってみるしかない部分もある。今日もそれを記録に加えるつもりだった。


 久保田が「えっと、引き取り費用って」と言いかけた。


「今回は無料でいいですよ。ちゃんとした飼い主がいるわけじゃないですし」


「そういうことは言わなくていいんじゃないですか」


「実際問題ですよ。今日の処置代を請求するとしても、請求先がないですから」


 久保田が何か言いかけてやめた。


 悟はそれには気づかずにノートを広げた。「ウィングキャット亜種・右翼捻挫・炎症あり・処置内容・安静環境の記録」。


 記録はすべて残す。この個体が回復して施設を去った後でも、次に似た状態の魔物が来たときに役立てられる。経験を形にしておく、それだけだ。


 ノートを閉じて悟は立ち上がった。棚には過去二年半の記録が並んでいる。薄いものも、厚いものも。それぞれに名前か種別が書いてあって、日付がある。


 久保田が棚を見ていた。


「すごい量ですね」


「まあ、毎日書いてますから」


「この量、動物園でもやってたんですか」


「動物園では一頭あたりのシートが決まってたんで、このやり方は自己流ですよ」


「神崎さんらしい」と久保田は言った。どういう意味かはよくわからなかったが、悪い意味ではなさそうだった。


 夕方になって施設が落ち着くころ、リンはまだとまり木から新入りの方向を向いていた。


 新入りは安静スペースの隅で丸まっていたが、首だけをリンの方に伸ばしていた。


 リンはその夜も鳴き続けた。静かに、繰り返し。


 新入りは安静スペースで丸まりながら、時々首をリンの方向に向けた。眠れていないのかもしれないが、怯えているようには見えなかった。鳴き声が届いているのだろう。


 悟はその様子をしばらく見た後、施設の電気を落とした。後は安静にさせておく。それ以上のことは今夜はできない。


 裏庭に出て施設の外周を確認してから戻ろうとしたとき、庭の隅に何かが光っているのに気づいた。


 草の根元。青白い光。小さいが、確かに光っている。


 悟はしゃがんで目を細めた。草をゆっくりかき分けると、丸みを帯びた形が出てきた。


 卵だ。

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