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元動物園の飼育員、ダンジョン産の魔物を引き取ってのんびり暮らす 〜ダンジョンが出現した世界の魔物保護施設経営〜  作者: ヲワ・おわり


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第12話 松田さんがやってきた

十時ちょうどに久保田が来た。


 後ろにもう一人いた。三十代前半くらいの男で、背は久保田より少し低い。黒いジャージの上下で、手をポケットに突っ込んでいる。施設の入り口で一歩だけ入って止まった。


「松田です」と男は言った。声が少し硬い。


「神崎です。どうぞ」


 悟が中に入るよう促すと、松田はゆっくりと一歩ずつ前に進んできた。


 久保田が横に来て声を下げた。「探索者仲間なんですよ。松田さん、Cランクで。信頼できる人ですよ」


「そうですか」


「一緒に丘ダン行くことも多くて。なんかここの話したら、一回行ってみたいって」


「ありがたいですね」


 悟は施設内の案内を始めた。最初にリンのとまり木がある部屋だ。


 松田が入り口で足を止めた。リンが高い場所から松田の方を見ていた。半透明の羽が淡く光っている。


「……でかっ」


 リンはスズメより少し大きいくらいだ。悟には何がでかく見えたのかわからなかったが、そのまま案内を続けた。


「フェアリーバード亜種です。普段はあのとまり木にいます。光るのは感情が乗っているときが多いです」


「光るんすか……」と松田が言った。やばい、とも言った。


 次にムクの水槽の前に来た。ムクが水槽の壁面を伝って上の方に移動した。色はベージュで落ち着いている。


「タコ……」と松田が言った。「タコじゃないすか。魔物にタコいるんすね」


「テンタキュラスモールです」


「ちっちゃくないですか、これ」


「成体でこのサイズです」


「そうなんすか」


 松田が水槽に近づいて中を見た。ムクが松田の方に触腕を向けた。松田がわずかに後退した。が、水槽から目を離さなかった。


「臭くないですか、これ」


「潮の臭いがしますね」


「やっぱり海の生き物みたいな感じなんですか」


「ダンジョン由来なので海とは違いますが、似た成分が体表にあるようです」


 松田がもう一度水槽の中を見て、「ふーん」と言った。嫌そうな顔だったが、二秒以上見ていた。


 次にガッシュのスペースへ向かった。


 ガッシュが屋内スペースで草を食んでいた。幼体三頭がガッシュの足元をうろついている。


「でかっ」


 今度は本当にでかかった。ガッシュの体高は成人男性の腰あたりまである。


「アームドボアです。草食です。温和です」


「でも、角あるじゃないすか」


「ありますね」


「やばくないすか」


「今のところやばくないです」


 松田が久保田の後ろに少し下がった。ガッシュが顔を上げてこちらを見た。興味があるのか、ないのか、判別がつかない顔だった。それからまた草に戻った。


「……食欲あるな」と松田がぽつりと言った。


 そこでレグが廊下から出てきた。


 新しい人間の臭いを嗅ぎつけたのだろう。レグが松田の方へゆっくりと近づいていった。橙色の鱗が廊下の光で少し輝いている。


 松田が無言で久保田の後ろに回った。


「大丈夫ですよ、レグは噛みません」と久保田が言った。


「でもドレイクじゃないすか」


「ウォームドレイクです。小さいサイズで、温和です」と悟が言った。


「温和って言葉多くないすか」


「温和なので」


 レグが松田の足元まで来て、靴の臭いを嗅いだ。松田は動かなかった。久保田の背中に手を置いたまま固まっている。レグが一回りして、悟の横に戻ってきた。


「……行ったか」と松田が息を吐いた。


 最後にリンのエリアで悟が世話をした。とまり木の掃除をしながら、松田の方に振り返らずに声をかけた。


「触ってみますか」


「結構です」


「そうですか」


 松田が首を振る気配がした。悟は作業を続けた。


 一通り回り終えて、施設の外にパイプ椅子を三脚出した。日当たりのいい場所で、ガッシュの屋外スペースの柵が見える場所だ。


 缶コーヒーを三本持ってきて、久保田と松田に一本ずつ渡した。


 しばらく三人で黙って飲んだ。


 松田が施設の方を見た。ガッシュが屋外スペースに出てきて日向ぼっこしていた。


「……あんな施設、よく毎日やってられますね」


「慣れですよ」


 松田が缶コーヒーを持ったままうなずいた。しばらく間があった。


「気を遣わせてすみません、さっきの。ドレイクのとき」


「別に」


「久保田さんの後ろ隠れたのは、自分でもどうかと思いましたけど」


「慣れるかどうかは人によります」


「慣れる人もいるんですか、魔物に」


 悟は缶コーヒーを一口飲んでから答えた。「いますよ」。


「Cランク帯の探索者って、魔物苦手な人も多いですよ。俺みたいに。ダンジョンでは相手にするのに、こんな近くで見るとまた別で」


「そうですね」


「久保田さんはよく来てるんですか」と松田が久保田に聞いた。


「まあ、何回か」


「慣れてんじゃないすか、それ」


 久保田が少し得意げな顔をした。「まあ多少は」


 松田がしばらく柵の方を見ていた。ガッシュが遠い場所で、のんびりと草を食んでいる。


「悪い場所じゃないですね」と松田が言った。


 それだけ言って、缶コーヒーを飲み干した。


 帰り際、松田が施設の入り口で少し立ち止まった。


「……次は、外から見てるだけでいいですか」


「どうぞ」


「ありがとうございます」


 松田が先に歩き出した。久保田が悟に小声で言った。


「松田さんって、絶対悟さんのことが好きになってますよ。帰ったら言われる気がする」


「そうですか」


「いい人ですねって言うと思います」


 悟は特に答えなかった。


 久保田が苦笑いしながら松田の後を追った。

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