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元動物園の飼育員、ダンジョン産の魔物を引き取ってのんびり暮らす 〜ダンジョンが出現した世界の魔物保護施設経営〜  作者: ヲワ・おわり


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第10話 管理局の人

夜の八時過ぎに来客は珍しい。


 悟はインターホンのモニターを覗いた。女性が一人、施設の入り口に立っている。スーツ姿で、手元に書類を持っているように見えた。


「はい」


「東楠市ダンジョン管理局、白石と申します。まもの預かり所『さとる』さんに伺いたいことがあって参りました」


 管理局。


 悟は少し考えてから、「少し待ってください」と言って入り口まで歩いた。


 ドアを開けると、三十代前半に見える女性が立っていた。グレーのスーツ、肩までの黒髪。表情は落ち着いている。職員証を出して悟に見せた。白石奈々、管理局施設確認担当。


「夜分に失礼します。管理局では施設系の確認は夜間も対応しておりまして、日中に営業中の施設に伺いにくい事情もあり、この時間になってしまいました。事前連絡なしにお邪魔する形になってしまいましたが、施設の実態確認に参りました」


「どうぞ」


 悟は扉を開けた。白石は一歩だけ入ってから、施設の内側を一通り見渡した。それからポケットから小さな手帳を出した。


「拝見してよろしいでしょうか」


「はい」


 悟は先に立って案内した。


 飼育室に入ると、白石がすぐに手帳にペンを走らせ始めた。リンのとまり木のそばで立ち止まり、種別を確認するように観察している。書き込む。次に水槽。エコゾルスライムが揺れているのを見て、また書く。ガッシュのスペースに来たとき、幼体三頭が重なり合ってガッシュのそばで眠っているのが目に入った。白石の手が一瞬だけ止まった。が、すぐに再開した。


「アームドボアですね。幼体が複数いますが、これは」


「三日前に孵化しました。親のガッシュが施設内で産んでいた卵です」


「産卵は事前に把握していましたか」


「していません。発見して保護しました。記録はあります」


 白石が何かを書いた。悟には角度で見えなかった。


 保温スペースに来ると、レグが頭を持ち上げてこちらを見た。それから体ごと立ち上がり、白石の方へゆっくりと近づき始めた。レグは人間に対して基本的に友好的だ。悟以外の人間にも近づく。


「触れますか、その魔物」と白石が悟に聞いた。声は平静だが、体が少しだけ後ずさりした。


「噛みません。嗅ぎたいだけだと思います」


「……そうですか」


 白石は動かなかった。後ずさりを止めた。レグが白石の手の甲に鼻先を当てて、臭いを嗅いだ。白石は視線だけをレグに向けたまま、手を動かさなかった。


 レグは満足したらしく、悟の横に戻ってきた。


「ウォームドレイクですね」と白石が書きながら言った。「施設に記録されている個体は六体。これで全体ですか」


「今ここにいるのは全員です。一時預かりで来る個体が別にいますが、現在は不在です」


「一時預かりの記録も」


「あります」


 白石が頷いて、手帳にまた何かを書いた。


 一通り案内を終えて、悟はパイプ椅子を勧めた。白石は座らずに立ったままで、手帳を見直した。


「届出は出していただいていますが、魔物の飼育・保護に関する法的根拠が現状では曖昧です。施設の規模が拡大していること、繁殖個体が発生していることを踏まえて、今後、正式な書類提出を求める可能性があります」


「わかりました。その時はご連絡ください」


 白石がペンを止めた。


「……それだけですか」


「それ以上のことは今言っても仕方ないので」と悟は言った。「書類が必要になったら準備します。記録は全部ありますし」


 白石がしばらく悟を見た。何かを言いかけて、止めた。それから手帳に一行書いた。


「対応は了承しました。正式な案内が来た際はご確認ください」


「はい」


 白石が帰り支度をしながら、廊下を歩いた。悟が前を歩いて玄関まで案内する。


 その途中、ガッシュのスペースの前を通った。


 幼体三頭がガッシュの腹のまわりでぴったり寄り添って眠っていた。ガッシュの背中のプレートの隙間から、小さな鼻先がのぞいている。


 白石の足が少しだけ遅くなった。


「……かわいいですね」


 小さい声だった。


 悟は振り返った。白石はもう前を向いていた。表情は特に変わっていない。手帳を持ったままだ。


「まあ、そうですね」と悟は言った。


 玄関で白石が職員証をしまいながら言った。「今後もご協力をお願いします」。


「はい」


 ドアを閉めると、廊下が静かになった。


 レグが悟の横に来て座った。「ふるる」と一声鳴いた。


「終わりましたよ」


 レグは特に動じた様子もなく、保温スペースの方へ戻っていった。幼体ドレイクが眠っている場所だ。


 悟はパイプ椅子に座って、ノートを開いた。


 「管理局・白石氏来訪。施設実態確認。書類提出を求められる可能性あり。記録の整備を継続すること」。


 ペンを置いて、悟は少しだけ天井を見た。


 「今後、書類提出を求める可能性があります」。


 その言葉が頭の中で一度だけ繰り返された。問題になるかどうかは、なってみないとわからない。今できることをやっておけばいい、というだけのことだ。


 翌朝、悟はいつも通り七時に起きた。レグが布団を剥がした。幼体ドレイクが後ろからついてきた。ガッシュの幼体が三頭、裏庭で草を食み始めていた。ムクが棚の定位置から朝の目線を向けていた。リンがとまり木で羽を整えていた。


 悟は給餌の順番を頭の中で組み直しながら、フリースを手に取った。


 なるようになるか。

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