第五章:覚醒 ── 揺れる独楽
【目覚め】
目が、開いた。
耳がまず、飛行機の静けさを捉えた。
低くうなるエンジン音、雑音のような天井の送風。
それから、身体の重さ。
首の筋肉が痛い。手の感覚が鈍い。
夢の中ではありえなかった、疲労感と重力が俺を現実に引き戻す。
だが、まだ完全には信じられなかった。
俺の目の前には、サイトーがいた。
彼はゆっくりと、視線だけで俺を見た。
目が合った。
そして、ほんのわずかに頷いた。
それだけで、十分だった
【入国ゲート】
空港の廊下を歩くとき、全ての物音が少しだけ遅れて聞こえる気がした。
周囲の人間の表情。
係官の無表情な目。
入国スタンプの乾いた音。
この光景すべてが、“本物のようすぎて”、夢のようにも見えた。
だが俺の足は、止まらなかった
【帰宅】
家のドアを開ける。
見慣れた部屋。壁の質感。光の入り方。
以前と、同じだ。とても….
俺の子供たちの笑い声が、庭から聞こえてきた。
その瞬間、
あの“顔の見えなかった記憶”が、ひとつの輪郭を取り戻した。
男の子の後ろ姿。
女の子の髪の揺れ。
声。手。呼吸。
俺は、ゆっくりと歩いていった
【独楽】
ポケットから、トーテム――独楽を取り出す。
俺は、回す。
それは、いつものように音を立てて回り始めた。
現実か、夢か。
それを確認することは、以前の俺にとっては生きる条件そのものだった。
だが今の俺は、すでに答えを知っていた。
子供たちが振り返る。
その顔が、確かに俺の記憶にはなかったはずの“今ここ”の顔として、そこにある。
そして俺は――独楽が止まるかどうかを見ないまま、彼らに歩み寄った
【終章の独白】
夢は、人を囚える。
現実もまた、人を裏切る。
だが、そこに“誰かとともにいたい”という思いがあるなら、
それがたとえ夢でも、そこに戻る理由になる。
俺が探していたのは、証明じゃない。
選択だった。
夢でも、現実でも構わない。
あの子たちと、“今を生きる”と決めた瞬間が、俺の“現実”になる。
だから――独楽が回り続けようと、止まろうと、