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第四章:リムボ ──罪の対話

【リムボ──沈む街】


降下した瞬間、世界は音を立てて沈んでいった。


建物が、遠近感のない水平線に並んでいる。

記憶の断片でできた都市。

それは、かつてマルと二人で構築した、**永遠の都市(City of Forever)**だった。


ビルの輪郭は曖昧で、窓は同じ光を何百回も反射している。

ここでは、時間も法則も、記憶すらも――すべてが溶け合っている。


俺の身体は確かに存在している。

だが、「俺」という意識が何で構成されていたのか、それすら定かではない。


呼吸の感覚が消えた瞬間、マルの声がした。


「おかえりなさい、ドム


【マルの部屋】


彼女は、昔のアパートメントの中にいた。

キッチンの窓には、朝焼けの光。

子供たちの笑い声が、奥の部屋から聞こえる。


だが俺は分かっている。

これは、俺の記憶であり、俺の欲望が作った風景だ。


「あなた、また来たの? また私を置いていくつもり?」


「……違う。迎えに来たんだ。

今回は、お前じゃない。“サイトー”を連れて帰る」


「嘘よ。あなたは、現実になんて戻りたくない。

あなたの現実には、私がいないから」


その言葉は痛かった。

だが真実でもあった。

マルがいない現実は、俺にとって“失われた世界”だった


【罪の確認】


俺はテーブルに独楽を置いた。


回す。

独楽は回転する。強く、一定のリズムで。

だがここは夢だ。止まることはない。


「これが現実じゃないと、証明したいの?」


「いや……。

お前が、現実じゃないってことを、俺自身に言い聞かせたいだけだ」


マルが微笑む。その笑みは、優しさと残酷さの両方を孕んでいた。


「あなたが私に“インセプション”をしたのよ。

“ここは夢だ”っていう考えを、私の中に植えた。

……そして、現実で私は飛び降りた」


「……そうだ」


「じゃあ償って。ここにいて。

この夢を、現実として生きて。

それがあなたの罰でしょう?」


「違う。俺は、もう“夢に住む”ことはできない。

俺には、戻らなきゃいけない“場所”がある」


「あの子たち? 彼らの顔も思い出せないくせに」


その瞬間、俺の内側で“何か”が決壊した


【赦し】


「……だから、戻るんだ。

あの子たちの顔を見るために。

“記憶”じゃなく、“これから”として」


マルの表情が変わる。

目の奥が、ほんのわずかに揺れた。


「……あなたの夢の中の私は、あなたを許さない。

でも、それでもあなたが行くというなら――

せめて、最後に、私のことを忘れないで」


「忘れないよ。

けれど、“君にもう僕の支配を望んで欲しくない


【サイトーとの再会】


街の奥、海に近い建物の中で、サイトーは一人、テーブルに座っていた。


手にはピストル。目は老い、視線は虚ろ。


「……これは夢か?」


「夢だ。でも、“戻る”ことができる。

お前がまだ、そのことを信じられるなら」


「証拠は?」


俺はポケットから、独楽を取り出した。


「これが回り続ける限り、俺は夢を疑う。

けれど、お前と一緒に目を覚ませば、

……現実に帰れるかもしれない


発砲音


サイトーが頷いた。

次の瞬間、銃声が響く。


夢が終わる。


光が、音が、意識を裂くように突き抜けた

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