黄金の剣 5
店の中は賑やかだった。今日は土曜日だ。人が多い。
「相変わらず、賑やかだねー!」
「そうだね」
三千代は、スイを見て頷いた。
三千代たちの住む町では、一か所にこんなに人が集まることなんてない。中学校も高校もおろか、夏に神社で開かれる祭りでさえ、このモールの一階フロアより人は少ないだろう。
「(もし、こんなところで剣が──“傀儡剣士”が暴れでもしたら)」
そんなことを考え、恐ろしくなった。
別世界で数本しかない“名剣”のうち二振りが、三千代たちの町で拾われた。そのことを根拠に、彼女たちは「別世界の剣は私たちの町にまとめて送られてきた」と考えていた。いや、今になって分かる。「そう考えていた」のではなくて「そう考えたかった」のだと。
人口の少ないあの町でさえ、既に剣によって「小動物の惨殺事件」が起こされた。より人の多い町で剣が振るわれようものなら、傷つけられたヒトやモノの数は比べ物にならないだろう。
「三千代さん?」
鈴鉢の声に、三千代は我に返る。
「ああ、ごめん。なんだっけ?」
「スイさんが、もうええ時間やから、一緒にここでご飯食べませんか、って」
「いいね、そうしよう」
三人はフードコートへと向かった。一階フロアの、真ん中からやや東にずれたところにある。真ん中はイベントスペースになっている。その上は二階から四階までくり抜かれており、上層から何のイベントがやっているのか見えるようになっている。
三千代はモールを見上げた。興味深そうに一階を見下ろす人々の顔が見えた。
「(杞憂だったかな)」
そう思い込むことにした。王敬は「この町に“気配の隠せぬ名剣”がいる可能性は低い」と言っていた。ならば、きっとそうなのだろう。きっと、この町に剣はいないのだろう。傀儡剣士だっていないはずだ。傀儡剣士が剣を振るとき、周囲の人々もまた意思を持たぬ人形のように呆っとなってしまうのだが、流石にこんな巨大なモールで同じような現象が起きるとも思えない。
運よく、フードコートでは小さなテーブル席がひとつ空いていた。4つ椅子がある。
「私は席に残っておくから、二人で先に何を注文するか、見てきなよ」
「ほんとー? ありがとうね、みっちょん~」
スイは手提げかばんを肩にかけたまま、そう言った。その隣で鈴鉢がぺこりと頭を下げる。三千代はひらひらと右手を振って、二人の背中を見送った。
「なんと騒々しい処であろうか。」
三千代の膝の上で、ドンキが言った。流石にコレを尻ポケットに入れたまま座るわけにもいかなかったので、こうして出してやったのだ。
「普段のドンキほどじゃないよ」
「何を言う。人工音声の出す声と、集る人々の声を比較するとは。さながらケーキと塩辛を比較するかの如く、ナンセンスなり。」
よく分からない喩えだったが、一理あるように思えた。確かにドンキのスピーカーから発される人工的で合成的な声と、人々の出す喧噪では、うるささの種類が違う。
いずれにせよ、ここまで周囲がうるさいと、ドンキの妄言もほとんどかき消されてしまう。誰も、三千代とドンキを奇異の目で見てくることもない。おもちゃの剣とおしゃべりしている少女程度の変人には、誰も気づかない。
「そう考えると、居心地いいね」
乾いた笑いで一息吐いて、そう言った。
「ぐぬぬ。小生は好かん!」
「私も、何を食べるか、軽くあたりをつけておかないと……」
ドンキを無視し、三千代は座ったまま周囲を見渡した。ここからでも、コート内でどのような出店があるのかはある程度見える。うどん屋が見えた。うどんも良いが、その隣で売られているオムライスも美味しそうだった。
そうして、しばらく眺めていた。少し前まで、イベントスペースの方から、知らないアイドルグループの知らない歌が聞こえていた。しかしそれも拍手を最後に終わった。三千代が「うどんでいいか」と思い始めたあたりで、スイと鈴鉢が帰ってきた。
「決まったの?」
「私はオムライスにしたよ~」
二人は手に、ポケットベルを持っている。注文を終えたようだ。料理ができれば、ベルが鳴って知らせてくれる。それより先に三千代が注文するだけの時間はあるだろう。席番の交代だ。
スイと鈴鉢が席についた。入れ替わるように、三千代が立ち上がる。
「じゃあ、私も行ってこようかな」
「いってらっしゃーい」
かばんを背もたれにたてかけたスイに、おもちゃの剣を手渡す。流石にドンキを持ったまま料理の注文に乗り込むわけにはいかない。
鈴鉢とスイ、こちらを見つめる両者の顔がよく見えた。うどんを注文するため、すぐに向きを変えて歩き出すつもりだった。しかし、ふと──
二人の目線が同時に、上を向いた。それが三千代は気になった。次の瞬間、三千代は自分の手をスイが引いていることに気づいた。
「剣が現れた。」王敬のテレパシーが流れた。「二本だ。」
鈴鉢は既に、こちらに目線を戻している。位置的に、スイの顔は見えていないだろう。しかし「行ってこようかな」と立ち上がった三千代がいつまでもここに留まっていては、不思議に思うだろう。
三千代は席について、
「あれっ、私財布どこやったっけ?」
尻ポケットをまさぐったり、服をぱんぱんとはたいて財布を探すふりをした。
「しっかりしてよ~」
スイが、三千代の肩に手を置いて言った。その間も、王敬のテレパシーが流れてくる。
「かなり微弱だが、真上30メートルに感じた」
「(二本……)」
「そうだ。二本だ。それと――二つはほとんど重なっている状態である。」
二本の剣が、重なった状態で現れた。それは気になる話だったが、三千代からも、スイと王敬に伝えるべきことがあった。心の中で唱える。
「(もしかしたら、鈴鉢ちゃんは剣士かもしれない)」
かもしれない、なんて語尾に付けているが、ほとんど確信していることだった。
「(ええ?)」
スイは驚いているようだが、当然声には出していない。
三千代は続ける。
「(オーケーが上にいる剣の気配を感知した時、スイは目線を上にやったね?)」
「(うん)」
「(全く同じ瞬間に、鈴鉢ちゃんもまた、目を上に向けた。それに、目の色も変わった)」
「(何を抜かすか。変わらず淡い紅の瞳ではないか。)」
ドンキが以心の会話に割って入った。スイの手の中のドンキの、蒼い宝石をかたどったカメラは鈴鉢を向いていた。
「(……喩えだよ。目つきが鋭くなったってこと)」
三千代はドンキに呆れながらも、声を出さないでくれたことに感謝した。
三千代はスマートフォンを取り出し、
「ごめんごめん、今日は電子マネーしか持ってきてないんだった」
とわざとらしくならないよう気を付けて、言った。
「しっかりしてよ~」
にへらと笑うスイ。
鈴鉢もにこにこと笑って、三千代たちを気にしている様子は見せない。
スイの手と戯れる風にして、三千代は立ち上がった。スイの身体に触れられるのは──つまり王敬のテレパシーを聞けるのは、あと数秒もない。
「では、鈴鉢が今も服のどこかに剣を忍ばせており、その剣が――上に居る剣の気配を感じた、と?」
「(多分ね)」
王敬の問いに、三千代は短く答え、席から一歩離れた。スイと手が離れた。
「(え? でも……)」
疑惑の少女と共に席に残され、スイは考える。
道に倒れている彼女を介抱した時のこと。彼女の周りには、スマートフォンや財布、日傘など、彼女の私物が散らばっていた。そして、それ以外に彼女の荷物はなさそうだった。どこに剣を隠せる場所があるのだろう?
「どないか、しましたか?」
「んーん、なんでも」
スイはにっこりと笑って、鈴鉢の顔を見た。いや、正確には、顔の少し上だ。麦藁の帽子を見ていた。……しかし、あそこにも剣を隠せるようには思えない。
だとすると、一体どこに剣を収めているのだろう。まさかまた、影の中に潜る剣だったなんてことは、ないだろう。
「(米噛さんところのコストコさんみたいに、完全に姿を隠せるみたいな? ……ねえ、オーケー)」
「なんだ。」
「(オーケーってば、元いた世界で著名な剣は、ある程度知ってるでしょう? 何か心あたりない?)」
「と言われてもなあ。手の内が明かされている剣など、朕のような超有名剣か、あるいは世界的に報道されるような大犯罪者の剣のみよ。あまり知らぬぞ。思い出してはみるが……。」
王敬は「ウーム」と唸るばかりだ。
鈴鉢は本当に、何も知らないといった顔で、ゆらゆらと白い髪を揺らしていた。
「オムライスって、どれくらいでできるんやろ」
独り言のように言っている。鈴鉢はスイが注文しているのを見て、「私もそうしよかな」と決めたのだった。
「(こんなカワイイ子が、剣士だとはとても思えないよ~)」
「気を抜くな、スイ。かわゆくても凄まじい剣士は、ごまんといる」
「(そっちの世界にはね? この世界じゃ、そういないと思うよ)」
などと思っている間にも、王敬を通して、30メートル上にいるという「二本の剣」の気配が伝わってくる。微動だにしていない。
ピ、ピ、ピ。ピ、ピ、ピ。
ポケットベルが鳴った。細かく振動して、机の上で弧を描くように蠢いている。
「できたみたいだね」
「どうしよ、まだ三千代さん帰ってきてへん」
おろおろする鈴鉢。
「大丈夫。鈴鉢ちゃんの分も、私が一緒に取りにいってくるよ」
手を差し出す。すると鈴鉢は、そこにポケットベルを置いてくれた。
「ありがとうございます。ほな、私は席を守ってます」
こくりと頷き、バイブレーションがむず痒いポケベル2つを握り締める。立ち上がろうとする。しかし、
「あれ。かばん、置いてかないんですか?」
鈴鉢の一言で止められてしまった。
確かに不自然だ。これからプレートに載ったオムライス2つを受け取りにいくには、右肩から下げたかばんは邪魔だ。置いていくのが、自然だ。
「重そうやけど……。や、やっぱり私が、取ってきましょうか? オムライス」
鈴鉢に悪意が無いのは分かる。あるいは、極めてそう見える。
どうしようか、と悩んでいると、遠くに三千代の姿が見えた。注文を終えて、帰ってきたらしい。三千代は早足で席に歩み寄った。
「ごめん、なるべく急いだんだけど」
三千代はうどん屋から貰ったポケベルを机の上に置くと、スイの背中に触れた。
「三千代殿。上の剣に動きはなかったぞ。」
「(了解、オーケー)」
動きがないのなら、考えていても仕方ない。三千代は、スイと鈴鉢ができた料理を取りに行くのを促そうとした。
「それじゃ──」
しかし、テレパシーと、そして人間の肉声によって遮られる。
「待て! 来るぞ!――ここへ!」
「三千代さん、スイさん、今すぐここから逃げて!」
──がっしゃぁあん。
硬いものが同時にいくつも砕け散ったような、鼓膜をかりかり掻き回すそうな、そんな音が響いた。
次いで、モール内に悲鳴が沸き上がる。
「きゃぁああっ!」
どん、と三千代に肩をぶつけて若い女が逃げていった。周りを見ると誰もがそうしている。
剣が、現れたらしい。
上から、降ってきたらしい。
「でも、どこだ!?」
三千代は、先ほどまでスイが座っていた椅子からおもちゃの剣を拾い上げた。
「現れたか、邪悪の青龍が。」
「剣だよっ!」
いちいちドンキに構っている暇はない。
「みっちょん、あっちだよ!」
スイが指さすのは、イベントスペースだ。そこから蜘蛛の子を散らすようにして、人々が逃げ惑っている。フードコートも近い位置にあったせいで、すぐに混乱の渦に飲み込まれてしまった。右も左も、何が起こったのか分からない、でも何かが起こっている、大変だ、といった顔で人々は慌てふためいている。
三千代とスイも完全に冷静ではいられなかった。
そんな中、ただ少女だけは、この真っ白の少女だけは、冷静だった。
「三千代さん、スイさん、落ち着いて。信じられへんと思いますけど、今暴れてるヤツは、こっちが何もしやんかったら、向こうから攻撃してけえへんみたいなんです」
「……!」
声を出せないでいる三千代とスイ。
鈴鉢は気にせず続ける。
「私らも、逃げましょう!」
声は張っていない。しかし、鮮明な言葉だった。慣れた様子だった。
「鈴鉢ちゃん。」三千代は確信した。「君も剣士か……!」
がしゃん、ごしゃっ。何かが壊される音は止まない。
何かのあおりを受けて麦藁帽が脱げていた。首の真ん中で切られた白い髪が、ぱたぱたとはためいている。白い顔、白い手、白い肌に、透明の汗がツツウと流れている。地面に落ちた桜の色をした目は、世界を眩しそうに睨んでいる。鈴鉢は、別世界の剣の保持者だった。
「うそ、まさか三千代さんも──」
ここでようやく鈴鉢は顔に驚きの色を出した。
しかし三千代は答えあぐねている。「三千代さんも」剣士なのか。果たして自分は剣士なのだろうか。手に握っているのは、おもちゃの剣だ。別世界の手に余って追放された剣ではない。この世界で造られた高級なおもちゃだ。
果たして──
「その通り! 小生と三千代は正義の侍ぞ! ゆくぞ!」
ドンキが声を張り上げた。
気が付くと周囲に人はいなかった。
鈴鉢は冷静を取り戻し、再び口を開く。
「なら話は早いです! どうも向こうは、剣士にしか攻撃せんのです! やから、剣士やないフリをしましょう!」
こちらこそ話が早くて助かる。と三千代は思った。鈴鉢はどうやら「傀儡剣士」についても知っているようだ。そう──剣士のみを襲う、寄生虫に操られた剣士。
今、イベントスペースで暴れているのは十中八九、傀儡剣士だろう。
三千代とスイは常に発見するたびに戦ってきた。一方で、「剣士でないフリをすればやり過ごせる」という発想自体はあった。
今回は初めて、それを実行してみてもいいかもしれない。なんせ、相手は正体不明で意味不明の剣が「二本重なった状態」なのだ。
三千代がその考えを固める頃までに、いつの間にかスイが手をつないでいた。右手を三千代と、左手を鈴鉢とつないでいた。つまり三人は今、なかよしこよしで手をつないでいた。
そして、それは。
剣の保持者と手をつなぐということは。
テレパシーによる会話が成立するという意味だ。
「(分かりました!)」
鈴鉢が心の声でそう唱えた。
鈴鉢が一体どのような人物でどのような剣を所持しているのか、それはまだ定かではない。しかし悪い奴でないことは確かだ。だったら今は、それで十分だ。今自分達三人は同じ状況に置かれている。三人全員でこの場から逃げることが、何よりも優先された。
しかしここで、新たな問題が発生した。
ひと際大きな破壊音が響いた時だった。
三人は音の方向を向く。
一階と二階を繋ぐエスカレータ―に大きな亀裂が走っていた。「二重の剣」が、あれを切ったらしい。支えを失ったエスカレーターは、壊れたカセットテープみたいにびゅるびゅると、手すり部分のベルトやチェーンを吐き出している。崩れ落ちるのは、時間の問題だった。僅かな時間の、問題だ。
その下に、小さな男の子が見えた。小学三、四年だろうか。足をからませてこけてしまったようだった。
「なっ!」
なぜだ。傀儡剣士は、一般の人は傷つけないのではなかったか。あるいは、あそこで暴れているのは傀儡剣士とは別に、単純に悪意を持った剣士なのか。分からない。驚いた。しかし、驚いている場合ではない。
三千代は駆け出していた。がしゃ、がしゃん。フードコート内で倒れている椅子をいくつも蹴り飛ばしながら、何の迷いもなく、三千代はイベントスペースへと駆け出していた。
その後ろを、スイと、そして鈴鉢が追った。
三千代の足は速かった。多くの運動部、もちろん陸上部にも、何度も助っ人として駆り出されたことがあった。その運動の能は才だった。生まれついたときから、運動が抜群に得意だった。そこに、きっかけや要因や物語はなかった。ただの生まれつき。ただの才能だった。しかし今は──いや最近は、こう思う。
「(私のこれは、人を助けるためのものだ……!)」
褐色の少女は、質量を持った風となって疾走した。
少年との距離はどんどんと近づいた。
一歩、また一歩、褐色の脚を前へ繰り出した。
イベントスペースで暴れている「二重の剣」は傀儡剣士だった。傀儡剣士は意図して一般の人間を傷つけることはしない。しかし、意図の外、偶然傷つける可能性はあるものなのだ。今回は、運悪く、そういうことだった。偶然傀儡剣士の破壊したエスカレーターの下に、偶然転んだ少年がいた。それだけのことだった
そんなこと、今の三千代は知る由もない。考える余裕がない。仮に知ったとして、それが三千代の行動を変えはしなかっただろう。三千代は変わらずこうして手を伸ばしたはずだ。そして──
手が届いた。
ぎゅう、と少年を抱きしめる。このまま横に転がって、落下物を避けようとした。しかし、
「(間に合わない!)」
巨大な陰が落ちてくる。
せめて、と思い、三千代は少年の上に被さる。丸まった背中に、崩落するエスカレーターが迫る。
自分は死んだ。と思った。
「……!」しかし目は開いた。「あれ?」
視界があるし、思考もある。これはどういうことだと思っていると、背後から声がした。
「間に合った!」
スイの声だ。
少年から手を離すことなく、三千代は振り向く。
スイが、剣を宙に向けていた。青い銅の剣。王敬だ。王敬は蔓を伸ばし、緑青のドレスを身に纏ったスイを支柱に、三千代の僅か頭上にまで迫っていたエスカレータ―を宙に固定していた。凄まじい光景だった。
「は、はは……」
乾いた笑い声をひとしきり漏らし終えると、三千代は少年を抱えて走った。エスカレータ―の下から逃れることができた。
「なんとか助けられた」
少年は規則正しく呼吸していた。
「よかったぁ……!」
スイの声は、ほとんど泣きかけていた。
「スイ。ありがとう、助かったよ」
そう言って振り返る。改めて、凄まじい光景だ。宙に固定されたエスカレーター。
「ん?」
ここで気づく。崩落したエスカレーターは一つの大きな塊だと思っていたのだが、王敬から伸びる青い蔓の先にあるものは、一つ一つがレンガ大の礫だった。まるで落下中に、何かに細かく切り裂かれたみたいだ。
三千代の腕の中で少年が目を開けた。何が起こったのか分かっていない様子だ。三千代はなるべく優しい表情を作り、
「ここは危ないから、逃げて」
と言ってやる。少年は素直に従ってくれた。素直な少年だ。あるいは、これもまた傀儡剣士出現の際の、いつもの影響によるものでしかないのか。
どちらでもいい。
場に、一般の人間はいなくなった。
スイは、ゆっくりと息を吐いた。それに合わせて、緑青の蔓は脈動し、宙に浮かべていた無数の礫を床に降ろした。
「驚いたのう。」
王敬が言った。当然、今はスイにしか聞こえない。
「うん……」
「まさか、こんなところで、“黄金の剣”に――“名剣”に出会うとはな。」
先程まで三千代と少年がいた、エスカレーター落下予定地。そこから一歩退いたところに立つスイ。そこから更に三歩ほど離れたところに立つ、鈴鉢。新雪の少女の手には、黄金に輝く剣が握られていた。スラリと伸びる、黄金の刀だ。




