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黒鉄の剣 3

 何も起きることなく、二週間が経った。

「大問4の3の回答は、Dだったと思うぞ。」

「(もう少し早く言ってくれよ)」

 今日は期末考査の日だった。数学と、英語だ。どちらも多くの生徒が苦しむ科目だが、米噛(まいかみ)は特に英語に苦手意識を抱いていた。

 彼は他人が持っていないものを持っている。精神や才能の話ではなくて、物理的なものだ。

 剣だ。

 黒い鉄でできた、剣である。名を(ごう)()()(ごう)と言う。(ごう)()は、持ち主の影に潜って姿を隠すことができる。普段はそうして、(やいば)外界(がいかい)に向けずにおとなしく収納されている。また人間のような知性を持っており、テレパシーを用いて影の上に立つ者との意思疎通も可能だった。米噛(まいかみ)は、こうした豪頭の特性に注目し、なんとかテストのカンニングに利用できないかと考えていた。

 しかし、剣の持つ知性とは、自我のことだった。あいにく豪頭は別世界で長年かけて凝り固まらせた我流の「騎士道精神」を持っていた。カンニングなどというコスいことには、手を貸したがらなかった。そのためテストの時間中、米噛の影は終始無言だった。

 そうして、考査の帰り、もう解答用紙の字を消したり書き直したりのできなくなった今になって豪頭は答を教えてくれるようになったのだった。

「(今さら教えてもらっても、もうおせえよ)」

「クロが流している洋楽を聴いていれば、英語はすぐ出来るようになると思うが。」

 豪頭はクロのことを「クロ」と呼ぶようになっていた。

「あの激しい変な洋楽か」

 坂を下ると、中学校が見えてくる。つい、上を見上げた。旧棟の大鐘。あれ以来、鳴った様子はない。()()()()()()()()()、二週間が経ったのだ。豪頭が剣の気配を感じることもなかった。

「(ま、なんにせよ。一週間もすれば夏休みだ。今はテストが終わって嬉しい、それだけだな)」

 米噛が口を「o」のかたちにして、息を吐いた。

「長期休暇か。」

「(四十日間くらいの休みだ)」

「引きこもってばかりではいかんぞ。体がなまる。」


「ただいま、クロ」

 クロは部屋で音楽を聴いていた。さっき米噛が言っていたところでいう「激しい変な洋楽」である、『マイ・ケミカル・ロマンス』だ。

 クロは腹を見せて寝転がっているのを止め、背を伸ばし、あくびをした。「くあぁ。」それから、横に置いてあるスマホの画面をたたたんと叩いた。音楽が止まった。

「おかえり、米噛。コストコ」

 自分のベッドから出て、米噛のベッドへと飛び乗る。それでも人間の顔を見るには、見上げなければならない。目線の先では、米噛がにたにた笑っていた。

「にたにた笑ってどうした。気持ちが悪いぞ」

「テストが終わったんだよ。これからアニメ、ゲーム三昧だ!」

 米噛は笑ったまま、答えた。

「あ、そう。」素っ気なく言った後、思い出したように、「そうだ。その前に風呂に入らないか」

「風呂? 晩ご飯の後でいいだろ」

「ワガハイ、今朝に外出したんだ。汗を流したい 」

「外のホースから水を出して洗えばよかったろ。別に、蛇口が捻れないわけでもない。なんでわざわざオレの帰りを待って、風呂なんだよ」

 米噛の手は既にパソコンに触れていた。具体的には、右人差し指が電源ボタンに触れていた。

 液晶がぴかりと光り、しばらくすると数段階暗くなる。米噛はいつも、「明るさ」を暗めに設定して使っているのだ。当人は世界の節電に貢献しているつもりだ。美少女キャラクターのイラストの前面で、システムがログインのためにパスワードを入力しろと要求している。

「冷水をかぶるだけでは素っ気ない。ワガハイは、湯船にぷかぷかと浮かびたい」

 ベッドから飛び上がり、さっきから椅子に座っている米噛の肩に乗った。ずしりと重い。

「しゃあない。先に風呂に入るか」

 立ち上がる。

 当然だが、米噛の影と米噛は生来、離れたことがない。影とはそういうものだ。だから今も米噛と影は、くっついている。そんな米噛の上に、クロは乗っているのだ。影から米噛、米噛からクロへと、豪頭のテレパシーが開通した。

「クロ。」

 豪頭のテレパシーがしっかりと、クロへと伝わった。

「よう、コストコ」

「よう、クロ。」

「よう、コストコ」

 剣と猫の会話を聞いて、人間はため息を漏らす。

「どういう会話だよ、それは」


 体をぶるぶる震わせて動物用ソープを飛ばしているクロに、声をかける。

「今日、どこに行ってたんだ?」

「別にどこだっていいだろう。……と、ツンと跳ねのけるほどのことでもない。別に、近くに住む猫に会いに行ってただけさ。猫にも社会というものがある。たまには顔を出さないといけない」

「そういうもんか」

「そういうもんだ。」水が入らないように目を閉じたまま、「シャワーこっちに頼む」

 極限までぬるい温度に設定した、弱弱しく水を垂れ流すシャワーを向ける。白い泡が猫の臀部から床に落ち、穴へと吸い込まれてゆく。

「ぷはぁ」

「そういえば、コストコの手入れはしたことがないな。剣って洗わなくていいものなのか?」

 尻の下の風呂椅子を覗き込むようにして、床に淡く広がる自身の影を見つめる。こうするとテレパシーの聞こえが良くなる……といったことなどはないが、なんとなくこうしてしまうのだった。

「他は知らないが、ただ吾輩は特に手入れは必要としない。影の中は清潔なものだ。汚れることもない。」

「それは楽で助かるな。よかったな、米噛」

 クロが米噛の膝を踏み台にして、湯船へと飛び込んだ。大きな水の冠が立つ。

「オレも入るか」

 ゆっくりと立ち上がる。湯気で満ちた風呂場は、外よりも空気の重量が感じられた。


 顔を火照らせたまま、パンツを履くよりも先にパソコンにパスワードを打ち込む。画面が切り替わり、指の爪ほどもないアプリケーションのアイコンがずらりと並んでいる様子が目に入る。それらには目もくれず、カーソルを下に動かしてカラフルな丸いアイコンをクリックした。

 検索窓の下に今日のニュースがいくつか表示されている。机の上に四足をついて座っているクロが、ニュースタイトルを熱心に読んでいる。米噛はさっさと検索窓に「steam セール」と打ち込んでゲームのセール情報を確かめたかったが、クロにつられてニュース記事のカードに目をやってしまった。くそどうでもいいような芸能人のニュースに並び、「どうでもいい」と表現するのは不謹慎となりそうな事件・事故が、前者よりも小さいカードで表示されている。

 そんな中、クロは一つのニュースをまじまじと眺めていた。 別に、クリックを促す様子はない。「少し気になっている」程度に留まっているらしかった。

「なんか気になるニュースでもあったのか?」

 尋ねると、猫は

「ここの地名が見えた」

「ここ? 兵庫の?」

「兵庫の、ここだ」

「どうせ観光だろ。隣町の。」隣町は観光地として多少名前があり、この時期にはたまにネットニュースに特集されることもあった。「そろそろ夏休みのシーズンだからな」

「違う。隣じゃなくて、ここだ」

「ええ? ついにこの街も観光の目を見ることに──」

「違う。」今度のクロの声は、遮るような強さだった。

「……じゃ、どうしたんだ?」

 クロの肉球の先に示されたカードは、下に見切れている。少しスクロールし、全体を映す。

「事件か。」影の中から豪頭が言った。

 こくりと、クロが頷く。

 暖色の机の上には、輪郭もぼやけるほど薄っすらだが、米噛の影が一部広がっている。腕や手の部分だ。その上にクロが乗っている。

 パソコンの画面左下には、現在地と温度、 天気が表示されている。35度の酷暑。くもり時々晴れ、だ。今見ているニュースも全国で報道されるような程度のものではない、ローカルなものだ。全てはサイトに住所を設定しているからだった。

 だからこうして、近所のガキしか来ない、花火の一発も上がらないようなシケた夏祭りのお知らせも、ニュースとして並べられているわけだ。

「そういえば、祭りの時期か」

 一転し、クロは声を明るくした。その様子を見て、

「さっきのニュースはもういいのか?」と尋ねる。

「ああ、良い、良い。暗い話ばかり見聞きしていても気が滅入る。それより今年は行くのか?」

「行きたいのか?」

「猫の集まりがある」

「じゃあ、オレもついて行こうかな」

 縁日の屋台がずらりと並ぶ見出し画像から目を左にスライドさせ、事件のニュースを見る。

 クロはもうパソコンの画面を見ておらず、窓の向こうで滑空している謎の鳥を目で追いながら、

「猫の集まりに人間が来てどうする?」と言った。


 剣。と言うと物騒だが、米噛は豪頭を剣として扱う気はもはやなかった。元いた世界でどれだけの猛威を振るったのか知らないが、そんなものに興味はない。力よりも圧倒的に便利な特性を持っているではないか。

 そう、テレパシーだ。

「(初めまして、)」米噛は提灯の灯りを背に、影を伸ばす。「(クロの友人です)」

 期末考査の結果は散々だったが、前日のことなど、ハレの日になってしまえばどうでもいい。

 今日は祭りの夜だった。

 未練たらしく空に浮いていた太陽もすっかり地平の向こうへ沈み、闇の中を蝉と人間が賑やかしている。小さな神社へと通じる道に、屋台をごろごろ並べただけの小さな祭りだったが、地元から訪れる人は多かった。高校生は少ない。中学生や小学校高学年に見えるグループが多く、それ以下の歳の子どもは保護者と一緒に来ている。誰もが頭頂部に赤い提灯の光を受けながら、洋服のまま練り歩いている。

 猫の集会は、神社の裏で行われていた。花火が上がらないので「花火を見る穴場」などというものもないこの祭りでは、本当に何も無い神社の裏になど誰も来たがらない。それどころか「不眠」と謳われる神主が近くのベンチに腰掛けて酒を煽っているので、発情した男女も、ガラの悪い青年もあまり近寄ることはない。

 猫の集会というものは自然発生的に形成されるものらしいが、人間たちの祭日に重ねて開催される大集会には明確な創設者がいた。クロだ。他の猫よりも永く生きているクロは、近辺の猫界隈では長老のような存在となっているらしい。

 大集会は今回で何十回目となる。人間の参加は初めてとのことだった。片耳に切り込み──桜カットの施された面々が、鋭い眼光で人間を睨んでいる。その中の一匹は、耳が丸々欠けていた。ワイルドな雰囲気だった。“野良”というよりは“野生”といったカンジだ。それでもかわいいのだけど。

 かわいいのはいいが、そんなかわいい存在たちに自分が歓迎されていない……というのは、なかなかショックである。

 米噛は自分の足元に座っているクロのつむじに目を逸らし、助けを求めた。こちらを見上げたクロと目が合う。

「(やれやれ)」と言うクロの心の声が、テレパシーとなって伝わってきた。

 ここは外だ。流石にクロも人間の言葉を使うわけにはいかない。

 にーー、と鳴きながらおもちゃの招き猫のように黒い手をくるくる数回回転させる。くるくるくるくると何度も回す。回転数が二桁の大台に乗ろうとしたあたりで、ようやく大集会常連らしい面々は眼光を(すぼ)めた。

「(助かったのか?)」

 クロは前に座る大勢の猫の方を向いたまま、

「(一応、受け入れられたぞ)」

 見ると、猫たちは一心に、クロへ尊敬の眼差しを向けていた。果たして何を言っていたのだろう。ゲティスバーグ演説並みの熱弁が振るわれていたのかもしれない。猫語さえ分かれば良かったのだが、と米噛は悔しがった。

 いや、違う。それを確かめるためにも、ここに来たのだ。

 そう、米噛がこの猫の大集会に参加した理由。それは、豪頭のテレパシー能力を使い猫とのコミュニケーションを試みるためであった。

「(しかし……)」

 先程、クロが「にーー」と鳴いて他の猫に説得らしきことをしていたが、その内容も分からなかった。もしかして、という顔をクロのつむじに近づける。

「(それは、そうだろう。猫は心の声も猫語だ)」

 クロが米噛に向けて人間語でこう語ったのを最後に、大集会が開催された。

 提灯が米噛の影を伸ばす。影を猫たちが踏んでいる。影から猫たちの心がテレパシーで伝わってくる。「にゃあ」とか「にぃ」とか、喃語よりも何を言っているか分からない心の声が、米噛の身体の中で反響した。


「(誰も事故に遭った者や、……事件に巻き込まれた者はいなかった。一安心だ)」

 米噛の腕の中で、クロが言った。

 クロは全身が漆黒だ。漆を塗ったような、艶やかで深い黒の色だ。そのため、こんなに人の多い日に、こんな遅い時間に地面を歩かせては誰かに踏まれてしまうかもしれない。それを危惧し、米噛が抱きかかえてやっている。

「(そんなこと話していたのか)」

「(日本語話者なら、猫語は英語よりも遥かに易しいぞ。同じSOV型の言語だからな。勉強してみるか?)」

 米噛は少し考えたが、やがて昨日返却された英語の答案用紙のことを思い浮かべた。赤いペンで「26点」と殴り書きされている。

「(よしておく。語学はニガテだ)」


 人間の作る境界というものは、自然の生むそれよりもはっきりとしているものだ。賑やかな屋台の並んだ大通りから一歩外れると、暗転した部屋のように世界が闇に包まれている。夕暮れの見せる輪郭のぼやけたオレンジと藍色の分かれ目とは、比べ物にならない。向こうが眩しいまでに明るいせいでむしろ、この完全な暗さはゾッとするほどだった。

 道は、猫たちの集まっていた神社の裏よりももっと暗い。神社の敷地から住宅街へ出るまでの道は、人の多い大通りを除くとほとんど林のようなものだった。黒い空の下で、黒い地面に生えている黒い植物がゆらゆら揺れているのを(かろ)うじて視認していると、身体に吹き付ける蒸し暑い風までもが黒色なのではと思えてくる。

「暗いな」

 と言うと、クロは、

「そうでもない。」と言った。

「猫はそうだろうよ」

 そろそろ林を抜けようとしていた。その時──

「来る!」

 豪頭が叫んだ。無論、テレパシーだ。外界に音は一切立っていない。

 米噛も、音を立てない方がいいと直感で悟る。テレパシーで返す。

「(どうした?」」

「剣の気配が来る。後方、約50メートルから、走ってきている!」

「(50メートル!?)」

 クロが驚いた様子で言った。日本人の成人男性の平均的50メートル走タイムから考えると、相手は遅くともあと9秒後にはここに到達する。博識なクロが算出した心の中のイメージが、テレパシーを通じて米噛と豪頭に伝わった。

「(隠れるぞっ!)」

 迷うことなく、米噛は隣に(しげ)る草木へと飛び込んだ。がさ、がさと短く雑な音を立てたきり、再び辺りは静かになった。

「(戦わないのか?)」クロが尋ねる。

「(豪頭の気配は隠しているんだから、相手もオレたち目当てで走ってるんじゃないだろう。ほっとこう)」

 豪頭は何も言わなかった。

「(しかし。こんな祭りの日に、剣を携えた者が走っているのだろう。事件のニオイがする)」

 クロの言葉を受け、米噛も少し考える。

「(それは、そうだけれど──)」

 そいつが悪意も持った人間だとは限らない。

 しかし。

 ……しかし、善良な人間とも限らない。

 もしも剣という力を振りかざして街の人間に危害を加えるような者だったり、昨日ニュースで見た事件を起こすような者だったら、見過ごすべきではないように思えた。なにしろ相手は、剣を持っている。普通の剣ではない。その強大な力を恐れられ別世界から追放されてきたような剣だ。剣の危険性を知っているのは、自分の他にいないように思えた。少なくとも、この場では。

「(クロはそのまま隠れていろよ)」

 屈めていた腰を上げる。腕から、ぴょんと黒猫が跳ねていった。

「(気を付けろ)」

「(なにも、迎撃するってわけじゃない。顔を見ておこうと思ったんだ)」

 米噛は丈の高い草の間から、顔を覗かせる。この林道に入って既に十分以上が経過している。目が、暗闇に慣れてきた。ある程度、この闇の中がどうなっているのかが見えている。

 対する相手はここを走っているのだ。提灯と屋台の並んだ大通りから外れ、走って林道に入ったのだとすると、まだ数分と経ってないはずだ。加えて草むらに隠れているのだから、相手からこちらの顔を見られる可能性は高くない。

「10メートル!」

 豪頭のテレパシーを受け、目を大きく開く。次の瞬間、

「待て!」

 短く叫ぶ、少女の声が聞こえた。

 米噛は咄嗟に、草むらから足を突き出した。一秒と数瞬の後、彼の足に大きな黒い影が衝突し、前方へ盛大にずっこけた。

「がぁあっ!」(うめ)くような叫びだった。

 しっかりと自分以外の叫び声を耳にしながら、米噛は顔を苦渋の表情に変える。

「いってえ……。」小声で言いながら、足を引っ込める。

 (すね)のあたりをさする。ジンジンと痛んだ。それから、立ち上がり、何が足にぶつかったのかを確認しようとした。

 スマートフォンを左のポケットから取り出し、ライトをつける。そこには、死んだ魚のようにピンと身体を伸ばしてノびている、短髪の男がいた。不気味に白目をひん剥いている。年齢は米噛と同じか、少し下くらいだ。暗い青色の洋服を着ている。サイズの合っていない長ズボンの先から、すね毛が見えていた。鼻から血を出しており、顔面全体が土で汚れている。米噛の足にひっかかり、顔面を地面につっこむようにしてこけたらしい。

「こいつが、剣を持ってるのか?」

 米噛は、ライトに照らされた自分の影に向かって話した。

「そうらしい。」豪頭が答える。

 見ると、そいつの右手に剣のようなものが握られていた。(つか)の大部分は手で隠されていて見えないが、球体のような(つば)に、そこそこ大きな(やいば)がくっついている。部分によってグラデーションがあるが、全体的に淡い水色をしている。しかし輪郭には赤い光がちらちらと踊っている。変色ガラスのような何かでできているらしいそれは、間違いなく剣だった。

 がささっ。

 少し遅れて、もう一人、人が来た。そいつは口を開き、

「だ、誰?」

 そう言いたいのはこっちだ、と思いながら、ライトをゆっくりと、そいつの胸のあたりに向ける。そいつは眩しそうな顔をした。

「待て! ……って、キミが叫ぶのが聞こえたから。足をひっかけてころばせたんだ」

「あ……ありがとう、」と言ったそいつは、少女だった。

 少女の声の主は、この少女で間違いなさそうだ。首の半分あたりまでしかない短めの黒髪に、褐色の肌。活発そうな女の子だった。

 少女は米噛に向かってぺこりと頭を下げ、律儀に一度上げてから、再び頭を下げて地面を睨みつけた。地面には、短髪の男が転がっているまま動かない。

「ええと、そのこいつは、その」

 少女は動揺を隠すように努めているが、あたふたとした雰囲気が漏出してしまっている。

 米噛は少女の腰に挿してあるおもちゃを見て、隠された解答を(あば)く。

「剣だろ?」

 その答を聞いて、少女の雰囲気が変わった。

「……はい。」短く答える。「そうです。」少女は動揺自体は続けている。「あなたは?」しかし、その性質が変わっていた。無関係な人間にトラブルを目撃されたような動揺から、こちらを脅威と見なし、どうしてやろうかあれこれ考えているような臨戦的な“動揺”となった。

 褐色の肌に玉のような汗が走っている。少女は手を宙に泳がせた。まるで早撃ちをする数秒前のガンマンのようだった。少女の腰には、おもちゃが挿されている。この時期にドン・キホーテで安売りされているような──剣のおもちゃだ。

 そのとき、神社前大通りに繋がる道から、また別の声が聞こえた。目の前の少女と同年代くらいの、高い声だ。

「みっちょ~ん、待ってー!」




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