6:提案
オレは見ていられなかった。毎年減っていくその種子を大事そうに持っている晴秋を。大事そうにすればするほど、両親のへの思いが強くなるんだろう。毎日その様子を確かめる。ただのガーデニングとは思えないほどの執着を感じた。
…あの最後の「種子」がなくなったら晴秋はどうするつもりなんだろう?
多分、まだ本人もどう受け取ればいいのか分からないままなんだと思う。
最後の種子がなくなっても、晴秋はあの花壇から逃げられないかもしれない。
救い出したい。あの花壇から。
両親を一度に失ったその悲しみは、未だに晴秋の心に傷をつけたままだ。あいつに必要なのは、絶望じゃない。温かい場所だ。
そのためには、オレだけじゃなく、オレの両親の力も必要となるだろう。すっと息を吸い込み、拳を握る。オレはその「提案」をする覚悟を決めた。
「……」
オレは晩ご飯が終わったあと、茶の間でくつろぐ両親に向き直った。
「父さん、母さん、話が…いや、提案したい事があるんだ」
珍しく真面目なトーンでオレが切り出したからだろうか、二人は驚いたような顔でこちらを見た。
「あのさ……晴秋の事なんだけど……」
オレが話終わると、両親は一瞬の間を置いて同時に言った。
「…いいんじゃない?」
余りにも即決すぎてオレはびっくりした。
「え、いいの…?」
「一緒に育ってきたようなものじゃない。今更水臭い」
母さんは逆に渋そうな声でお茶を啜る。
父さんはその隣でうんうんと相槌を打っていた。
「その代わり、その提案はお前から晴秋くんに伝えなさい」
父さんはオレの目を見つめて言う。
「…わかった」
晴秋を上手く説得できないかもしれない。でも、この気持ちは伝えたい。
明日、話してみよう。
オレの家の、家族として、養子に来て欲しい、と。
お前はオレの、大切な人だから。