5:夏へむけて
ゴールデンウィークが終わり、俺が蒔いたコスモスはすくすくと育っていった。本葉が生え揃い、瑞々しく背を伸ばしはじめる。俺は少しそれを可哀想だなと思いながらも摘芯していく。沢山咲かせるためにこうするのだ。
「なんで一番上の芽を摘んでんの? 毎年沢山咲いてるのに」
隣で同じく摘芯している夏生は聞いてくる。
「こうやって芽を摘むことで、脇に生えてくる枝が増えて花が沢山咲くようになるんだよ。あと、育ちすぎると背丈が出て倒れることが多くなる」
もともとガーデニングが好きだった両親の言葉が自然と出てくる。
「へえ…」
興味があるんだかないんだか、そんな声で夏生は言う。
「それにしても暑っちいな」
夏生は着ているTシャツを扇ぎながら風を起こしていた。
「今年の夏も早そうだな」
コスモスを咲かせるには十分な日光が必要だ。夏に向けて、どんどん育っていくだろう。
「そいや、アイス買ってきたの冷凍庫いれといたから食わねえ?」
「気前いいな」
「一個だよ一個!」
言いながら勝手口から台所に入って冷凍庫を開ける。
ひやりとした気持ちの良い風が少しだけ入ってきた。
「また半分こ…」
「昔からだろ? いいじゃん二人共チョコミント好きなんだから」
そういって、慣れた手つきで食器棚から二つの皿とスプーンを取り出す。
「お前、取りすぎるなよ、俺の分が少ない」
「買ってきたのはオレだっつの」
ぶつくさ言いながらも夏生はぴったり同じ量を俺の皿に取り分けた。
杜撰そうにみえて、実はやたらと細かい夏生はずっと変わらない。
…ずっと、今日も明日も。あの日から。
それが温かくて、つい甘えてしまう。
俺の持つ、崩れてしまったパズルのピースになってくれていた。