20:秋
季節は八月後半。もう少しで夏休みも終わりを告げる。
あれからというもの、何かにつけて夏生は俺の家に居座る事が多くなった。
…そしてベタベタとくっついてくる。
自分の部屋のローテーブルで課題をやっている俺に絡んできた。
「…だから、暑苦しいって」
「えーいいじゃん」
俺の背中にくっついて頭をぐりぐりと押し付ける。
「痛いって」
それでも夏生は俺を後ろから抱きしめる。
「お前、成人しても絶対酒飲むなよ」
「なんで?」
「酔って絡んでくるおっさんまっしぐらだからだよ」
「誰それ絡むわけじゃないよ」
その小さな言葉や行動が、俺にたくさんの感情を与えてくれる。
…愛おしい。
そんなこと直接言えないけれど。
俺と夏生が植えたコスモスは、意外と早く育っていった。夏生が必死に探し回ってくれただけある。
背丈が出る前に開花するものらしく、摘心しなくても良さそうだ。
「お前、ずっと俺んちいるけど、課題ちゃんとやってんのか?」
「んーあんまりやってない」
「踏み倒すと卒業できないぞ」
それを聞いて、夏生はやっと背中から離れた。
「それは困る」
急に真剣な声を出して俺の顔を覗き込む。
「ずっと一緒にいたいから」
そのストレートな表現に俺は面食らった。
「照れた?」
「ないない。さっさと課題こなせよ」
俺は手を振ると夏生を追いやる。
「じゃあちょっと家から課題取ってくる」
「自分の家でやれ」
「嫌だ!」
「お前さっきからしつこいぞ」
「だって…ほら…せっかく…」
夏生の声はなぜかどんどん小さくなっていく。
「両思いになったのに…」
そこまで言って、夏生は自分の手で顔を覆った。
「恥ずかしくて言えない!」
俺が何か言う前に、夏生はすごい勢いで俺の部屋を出ていった。
「…ったくなんなんだ…」
あんなに暑苦しかったのに、急にクーラーの風を冷たく感じた。
俺はクーラーを一旦止める。
それから俺たちは、何となく距離が近づいたような、そうでないような、くすぐったい時期を過ごしていた。
夏休みが終わり、秋が始まる。
授業中、俺が何となく夏生の背中を見ていると、気づいたのか、目を合わせると笑顔を向ける。
あいつ、わざとやってるな…。
自然と、学校で一緒にいることも多くなった。
どういう風の吹き回しか、夏生は毎日俺の弁当を作ってくれる。
屋上で二人、爽やかな中にも少しだけ寒さを感じる風に吹かれながら、弁当を開ける。
俺は絶句した。
弁当箱を開けるのを、教室でやらなくてよかった…。
蓋を開けるとそこにはギッチリと詰まったオムライスにハートマークが書いてあった。
勘弁してくれ…。
俺は一度蓋をしめた。
夏生は涼しい顔で自分の弁当箱を開ける。そこには普通のオムライスが入っていた。
…悪ノリのように思うが、こいつなりの感情表現なんだろう。
俺の庭のコスモスはというと…。




