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2:二つの誕生日

 両親は俺が生まれてから、毎年春、秋に咲くその花の種子を庭の花壇に植えていた。俺の誕生日に咲きほこる色とりどりのコスモスは思い出の結晶だった。

 ちょうど俺が生まれた九月ごろから、その花は咲き始める。いろんな色をしたコスモスたち。風に揺られて毎年俺の誕生日を祝ってくれる。

 でも、両親が死んだ三年前、俺は最後にしようと思った。コスモスの種子を集めることを。

 独りになった俺の前で、秋になるとその花は美しく開花した。独りで迎える初めての誕生日。そして、花が咲き終わり種子をつける。

 ほら、まだここに居るよ、とその種子は俺に語りかける。それがとりわけ苦しかった。

 もう、最後にしよう。俺は泣きながらその種子を集めた。

 採れるだけ沢山の種子を採集し、乾燥させて保管する。

 乾燥剤と共にタッパーに入ったコスモスの種子。


 今年は、どんな風に咲いてくれるだろうか?


 俺はそうやって、毎日コスモスの世話をする。

 どんな色の花が、どれほどたくさん咲くだろうか。期待と、過ぎていく日々に感じる痛み。秋が近づくほど、その感情が強くなっていく。俺はこの三年間、ずっとそれが怖かった。誕生日に見る満開のコスモス。そして、もういない父さんと母さんとの思い出。毎年減っていく「種子」は、俺に時間の経過を否応なく叩きつけてくる。 


 それでも俺はその残った種子を植え続ける。

 忘れたくない。この種子を一緒に植えた両親との思い出。高校生にもなって親と誕生月に咲く花を一緒に植えるなんて、少し恥ずかしい事だったのかもしれない。でも、俺が生まれてからずっと続くその優しい儀式。

 まるで誕生日が二つあるように思った。春に、今年はどんな花が咲くか、と話しながら母さんは俺の好きなチーズケーキを焼く。あまり料理が得意ではなかった母さんが焼くチーズケーキは少し歪だけどとても美味しく思った。あの味を懐かしく思う。俺がレシピを習う前に亡くなってしまったから、もうあの味を楽しむ事はできないだろう。何故かミキサーを使っていた覚えがある。それに何が入っていたのかはわからないが、母さんは楽しそうにその撹拌される騒音に耳を傾けていた。


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