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19/22

19:ふたりで

 その日は快晴で、からりとした暑さだった。俺と夏生は、花壇に向かう。

 少し震えている俺の手を、夏生は優しく握った。

 それが、泣きそうになる程嬉しい。


「…どうする…?」

 雨で荒れた花壇には、まだコスモスの残骸があった。

「…()こう」

 俺は小ぶりな(くわ)を片手にその残骸を土に戻していく。

「あと、腐葉土も足さないとな」

 荒れてしまった花壇は一度土を豊かにしなくてはいけなかった。

「これでいい?」

 夏生は庭の物置から腐葉土が入った袋を取り出してくる。

「半分くらい花壇に出してくれ」

 その言葉に合わせて、夏生は土を花壇に盛っていく。

 俺はそれを花壇の土と丁寧に混ぜていった。

「他にすることある?」

「そこで見ててくれるだけで十分だよ」

 俺は後ろにいる夏生に言う。

 その通りなんだ。

 今の俺を見て欲しい。父さんと母さんが残してくれた花壇を、俺がまた耕していく。でも、もう独りじゃない。

「…そろそろ、蒔こうか」

 俺は後ろにいる夏生に声をかける。

「うん」

 夏生は少し緊張した声で、そのパッケージを片手に俺の隣にしゃがみ込んだ。

 封を切ると、小さなその粒が溢れ出す。

 

 俺が土に指で印をつけると、夏生がそこに数粒の種子を入れていく。

 等間隔に、それは続いた。

「これ、いつ咲くかな」

「まだ植えたばっかなのに分かるわけないだろ」

 俺は少し笑いながら言う。

「……」

 夏生は俺を見ながら何故か泣いていた。

「おい…どうしたんだよ…」

「やっと、笑った」

「…え?」

 俺の疑問に答えないまま、夏生は俺を抱きしめてくる。

「お前、ずっと、本当に笑ったことなかった」

 夏生は静かに言った。

 確かに、そうかもしれない。

 あの日から、まるで世界がモノクロになったような気がしていた。

 でも、今は違う。

 隣に夏生がいるから。

 夏生は俺の手を引っ張って、色のついた世界にもう一度立たせてくれた。


「…早く水撒かないと乾燥する」

 庭にある水道からホースを引っ張ってきて、花壇に優しく水を撒いた。


 これで様子見だ。


「早く、芽が出るといいな」

 呟く夏生の声に頷いた。


 どこからか、蝉の鳴く声がしてきた。


 もうそんな季節か。


 なんとなく、無言の空間が広がる。

 俺は鍬を片付けて夏生の隣にしゃがみ込んだ。

 

「…俺、養子の件断ったよ」

「なんで…」

「お前がいるから」

 俺は夏生の瞳を真っ直ぐに見る。

「…どんな形であれ、俺はお前の事が好きだよ。お前の家族も、すごく大事だし、大事にされてるのも分かる」

「…でも、そうじゃないんだ」

「父さんと母さんの事も含めて、『俺』だから。…囚われてるわけじゃない。俺の一部分なんだよ。この家も、花壇も」

 俺は花壇に向き合う。そこに父さんと母さんがいる気がした。もう、俺は独りじゃないよ。

「ちゃんと、頼るから。お前を」

「うん…」

 夏生はそれ以上踏み込んではこなかった。これが、俺なり折衷案なんだ。


「…コスモス、咲くといいな」

 夏生は花壇を見ながら隣にいる俺の手を握った。


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