16:独りじゃない
オレはまだ走り回っていた。
その時、ポツポツと雫が落ちてくる。上を見上げると、どす黒い雲が空を覆っていた。
「くそっ!」
オレはまた悪態をつく。
雨は勢いを増してオレにその粒を打ち付ける。
握りめた地図は、いつの間にか濡れてぼんやりとしたものになってしまっていた。もう、地図としては機能しなくなっている。
記憶を頼りに、最後になるそのホームセンターに駆け込む。
「あの、今から植えても九月に咲くコスモスの種子はありますか?」
息をあげ、雨で濡れそぼったオレを見て、店員は少し驚いていた。
「ありますよ」
店員は売り場に案内してくれながら、育て方のコツや、効率的な世話の仕方を教えてくれる。
でも、オレの耳にそれは届いていなかった。
早く、手に入れないと。
売り場に着くと、店員はそのこじんまりとしたパッケージをオレに示す。
パッケージのコスモスは、とても綺麗に咲いていた。
「あの、ここにある分、全部ください」
店員はその棚にあった分のパッケージを手に取ると、オレに渡して会計レジへと連れて行ってくれた。
早く、これを持って帰らないと。
オレはレジ袋を握りしめながら家に向かって全力で走る。
間に合え…。
あいつが失望でまた自分の中に引き篭もるその前に。




