14:道標
夜まで降り続けた雨はようやく矛を収めた。
晴秋はまだオレのベッドで寝ている。きっと張り詰めていた緊張の糸が切れたんだろう。
その時、軽快な音と共に携帯にメッセージが送られてきた。
明日学校は休みになる、という連絡が学級委員から伝えられる。
まぁ、そうだろう。雨が上がったとはいえ、未だ電車やバスは機能していない。オレの高校には遠方から来ている生徒も多いので、そういう措置になったんだろう。
せめて、明日一日晴秋を外に出すわけにはいかない。
オレが持ってくるから。
その「種子」を。
ネットで調べてわかった事がある。
確かに短期間で咲くコスモスは存在する。植えてから五十日から六十日で咲く。つまり、ギリギリ後二ヶ月あれば、晴秋の誕生日までに咲くかもしれない。
今は七月半ば。まだ間に合う。
日照時間との兼ね合いもあるので確実に、とは言えないが、可能性が少しでもあるのなら、それに賭けるしかない。
窓の外を見ると、雨に打たれて散ってしまった夏椿の花びらが庭一面に広がっていた。
でも、オレはコスモスじゃない。
花が全部落ちたとしても、夏椿は力強く成長し続ける。
「…夏生…?」
目を覚ました晴秋はぼんやりとした声でオレを呼んだ。
「まだ起き上がるなよ。ずぶ濡れだったんだから、ちゃんと体温めないと」
「なんで…お前の部屋に…」
先ほどから感じる違和感。
晴秋は直前に起こった「崩れた花壇」の記憶が曖昧になっているようだ。あれだけ動揺していたんだ。心が無意識に拒絶したのかもしれない。
「大風邪引いて部屋でぶっ倒れてたんだよ」
オレはまた嘘をついた。
「…ああ、それでこんなに怠いのか」
納得したのか、晴秋は大人しく布団を被る。
「まだ熱あるかもしれないし、治るまでしばらくオレんちにいろよ。一人じゃ不便だろ」
「助かる…」
それだけ言うと、晴秋はまた寝息を立て始めた。
それを見て、オレは少し安心して部屋をでる。
「二人とも」
オレは両親に話しかける。
「晴秋、花壇のこと忘れてる。風邪引いてることにしておいたから、口裏合わせて」
二人は静かにうなづいた。
何でもない事に思われるかもしれないが、それくらい、晴秋にとってコスモスは大きくて重要なものなんだ。
オレはできる限り、その種子が手に入りそうな花屋やガーデニング専門店、ホームセンターをピックアップしていく。
ネットはダメだ。間に合わない。
きっと晴秋を引き止めるのは一日が限度だろう。
こいつは頭がいいし察しもいい。どんなにオレの両親が何気ないふうを装っても、きっと家に帰りたがるだろう。
それまでがタイムリミットだ。
ピックアップした場所をどうすれば効率よく回れるか、詳細な地図をプリントして印をつけていく。
ぐっすりと眠っている晴秋を見て、オレは床に布団を敷いて寝転がる。
そして部屋の照明を落とした。
どうか、その種子が晴秋に届きますように。




