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11/22

11:大切だから

 オレにもたれかかったまま、晴秋は意識を手放した。

 規則的に呼吸している事を確認して、晴秋を担ぎあげる。このままでは風邪を引いてしまうかもしれない。

 晴秋はオレより少し背は高いが華奢なので抱え上げるのに手間はかからなかった。

 勝手に着替えさせるのは少し気が引けるが、このままにはしていられない。

 その時、玄関から父さんの声がした。

「夏生!」

「父さん! 晴秋運ぶの手伝って! 勝手に家でたのは後でちゃんと怒られるから」

「当たり前だ!」

 父さんは強い言葉で言うが、晴秋をそっと背に乗せてオレの家まで運ぶ。

「お前はそうやって後先考えないから危ないんだ…晴秋くんが心配だったのは分かる。優しいのはいいことだ。でも、お前の周りにいる人たちの思いも大切にしなさい。お前に何かあったら、父さんも母さんも、晴秋くんも心配する。それをちゃんと考えてから行動しなさい」

 声を荒げることはないが、父さんは優しい言葉で釘を刺してくる。


 玄関につくと、母さんは少し狼狽えながらも、晴秋の頭や体を拭いていた。

「…本当に大丈夫? 病院に連れていったほうが…」

「落ち着きなさい。今は体が冷えてるだけみたいだから、ちゃんと温まってから必要に応じたほうがいい」

 父さんは不安そうにする母さんに言う。

「着替えとかはオレが診ておくよ」

 オレは晴秋を抱え上げた。


 そのままオレの部屋に連れていく。

 びしょびしょになったシャツや制服のズボンをオレの部屋着に着替えさせた。

 元々色白な晴秋がいっそう蒼白に見える。

 本当にちゃんと息をしているのか、疑いたくなるほど、冷たい。

 オレのベッドに寝かせた後、冬用に片付けた毛布を取り出してそっとかける。

 その上からオレは晴秋の胸に耳をあてた。

 規則的に響いてくるその鼓動に安心する。

 オレはその横顔をずっと眺めていた。

「……」

 晴秋はそっと瞳を薄く開けた。何度か瞬きをして言う。

「…コスモス…」

「大丈夫だよ。雨はもう止んだし、コスモスもちゃんと芽を伸ばしてるよ」

 こんな状況でも花壇のコスモスの心配をする晴秋が、少しだけ哀れに思った。形だけの、嘘をつく。でも、それが今オレにできる唯一の事だと思った。

「…そうか…」

「だから安心して。ゆっくり寝てるといいよ」

 オレは晴秋の額に優しく手のひらを当てた。

「ありがとう…」

 そういうと、晴秋はまた目を閉じて寝息を立て始める。

 オレはそれを見てやっと気づいた。


 家族になりたいとか、大切な人になりたいとか、そんなの一つの答えしかないじゃないか。


 オレは、晴秋のことが好きだ。


「こっちこそ、ありがとな…」


 オレはその言葉を噛み締めると一つの決断をした。


 探すんだ。

 今と過去をつなぐその種子を。


 オレは携帯を取ってそれを検索するためにブラウザを立ち上げた。


 流されてしまった晴秋のコスモスに代わるその種子。


 夏に植えても、秋に花を咲かせるコスモス。


 きっと、まだ間に合うはずだ。


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