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1.プロローグ

『私たちのかわいい天使。さあ、好きなだけお食べ』


 子供の頃、大好きな両親に毎日甘い言葉をかけられた。


 好きなものを好きなだけ食べさせてやりたい。かわいい我が子が喜ぶ姿を見るのがうれしい。そういう気持ちで、おいしいものをたらふく食べさせてくれた。


『エリザベスが好きなチーズとステーキとシチューのパイ包み焼きに、デザートにはクリームパイとチョコレートケーキもあるんだよ。遠慮せずに食べなさい』


 子供は遠慮する必要はない。

 女の子は少しふっくらしているくらいがかわいい。

 呪文のように甘い毒を聞かされ続けて、甘やかしてくれる両親の言葉になんの疑いもなく従った結果――私、エリザベスは当然ながら肥えた。

 食べたら食べただけ太る。運動しなければ太る! そんな当然のことを教えてくれる大人はいなくて、齢7歳にして成人病まっしぐら。

 顔も腕も脚もぷくぷく太り、ドレスはいつもはち切れそう。


 すぐにキツくなるため頻繁に買い替えられて、それができるだけの財力がローズウッド侯爵家にあったわけで……不幸にも私は自分がどれだけ大変な状況にいるかを理解していなかったのだ。

 だって実害がなければ危機感など抱かないでしょう?

 食べ物は豊富にあって、お金にも余裕があって、困ることなんてひとつもない。キツくなるのは成長している証。私に太っているという真実を教えてくれる大人がいなければ、なおさら自分で現状に気づくしかない。


 でも私の周囲にいた大人はとことん甘かった。きっと「甘やかして育てる」侯爵夫妻の方針に従っていただけだろう。

 誰も真実を教えてくれず、病気になると心配してくれることもなく、食っちゃ寝を繰り返して幸せに過ごしていたある日。私は自分の醜さに気づかされた。王宮のお茶会で、本物の天使に出会ったのだ。


 陽の光を浴びてキラキラ光る金の髪。神秘的な紫水晶の瞳。

 大聖堂に飾られている絵画にそっくりな天使が目の前にいた。等身大のお人形と言われても納得がいくほどの美しさに息を呑んだ。

 その天使の名前はエルドレッド。この国の第二王子だ。そして王妃様の美しさも眩しくて、私ははじめて“美”というものを意識した。


 そして同時に気づいてしまった。「美しい」ものがあれば「醜い」ものもあるということに。


 同年代の令嬢たちの囁きが耳に届く。クスクスとした嘲笑が自分に向けられていることに気づいた。

 「ブタさんみたい」という意味を理解して、私はようやく自分の身体に意識を向けた。


 ずんぐりした脚は常に重くて、靴だってすぐに小さくなってしまう。汗をかくのが気持ち悪いから運動も嫌いで、少し動くとお腹がぽよんぽよんと弾んで呼吸も苦しい。

 お腹が出ているからつま先をちゃんと見たことがないかもしれない。そもそもなんだか目も重くて視界が遮られている気もしていた。

 両親は私のもっちりした両手を「気持ちいい」と褒めた。白くてふっくらしたパンのようにおいしそうだと。指の関節などどこにあるのかわからない手を握って喜んでもらえるのが単純にうれしかった。


 私のことを「子供らしくてかわいい天使」だと褒めていたから信じていたのに、それがすべて身内の欲目であることに気づいてしまい、私ははじめて恥ずかしさを知ったのだ。


 そして王子はぽつりと呟いた。「子ブタみたいにおいしそう」と。


 もしかしなくてもそれって私のこと?

 猛烈な羞恥心に襲われた。本物の天使のように美しい王子の隣には近づけない。近づきたくない、と。

 大人の言う「かわいい」なんて嘘。天使のようなんて言葉も戯言じゃない。


 子供の健康を顧みず甘やかすだけ甘やかして、好きに食べさせることが親の愛? そんなのは無責任ではないか。

 王子はその場に佇むだけで空気が煌めているみたいだった。そんな彼の視界に、だらしなくて醜い私が映るなんて嫌だ。清浄な空気が穢れてしまう。


 美しい人の隣には同じくらい美しい人しか並べない。私にはその資格がない。

 ぽよん、と弾むお腹の肉が忌々しい。邪魔な脂肪などすべてそぎ落とさなくては。


 エルドレッド王子の視界に入り込むことがたまらなく嫌で恥ずかしくて、その日から私は徹底的に美しい人を避けた。二度と王子には会わないと決めて、甘い物の誘惑も断って、自分磨きに励み続けた。


「もう二度とブタなんて呼ばせない!」という気持ちを抱きながら。



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