イケメンsp、登場
「王女様、こちらへ」
透き通るような美しい声に第三国王女、エレンは思わず頬を赤らめた。
「今日も素敵なお声ね。本当に、結婚できたらいいのに。」
思わず口からこぼれ出た言葉にまた頬が赤くなってしまう。
すると少年は苦笑しながら言った。
「身分の差が違いすぎます。王女様のような可愛らしい方なら、私でなくてもきっと良い方が見つかりますよ。」
「でも・・・。」
王女は改めて少年の顔を見た。
まるで夜空のような色をした紺色の髪、星のように輝いている瞳、顔のパーツは全て完璧に揃っていた。
「spは勿体無いわ。」
目を伏せて言う。今までいろんな国の王子と会ってきたけれど、こんなにも彼女の心がきらめいたことはなかった。
「ありがとうございます。とてもありがたいお言葉です。」
柔らかく笑ってspのなぎとは王女をエスコートした。
「好きな方はいらっしゃるの?」
中庭を散策しながらエレンは聞いた。
「そうですね。仕事柄、好きな人はいませんよ。」
なぎとは空を見ながら答えた。
「でも、モテているのでしょう?」
「ふふ。そうかもしれないです。ですが、もし、結婚したいと思える方に出会ってもできないのです。我々spは」
「そう。」
しばらくの沈黙の後、なぎとはじっとエレンの顔を真っ直ぐに見た。
「実は、先ほど転勤することが決まりました。」
「え」
エレンは固まった。
「幹部からの命令です。今日限りで王女様と別れなくてはなりません。」
「そんな・・・。」
時間が経っていくにつれ、悲しみがひしひしと増えていってしまう。
「私は結婚できません。ですが、あなたの幸せを祈ることはできます。」
「・・・。」
「急で申し訳ありません。どうか、幸せになられてください。」
最後に一度、柔らかな笑みを浮かべる。しかしエレンにはよく見えなかった。泣いていたから。
「おーい。なぎと、そろそろ時間だ。」
遠くでなぎとの上司の声が聞こえた。
泣いているエレンを少しだけ困っているように見つめて、
「泣かないで」
小さく、消えそうな声で言った。
エレンに伝わっているのかは分からないが、最後にもう一度だけ礼をして、上司の方に走っていった。
「ありがとう。」
「え」
一瞬、エレンの声が聞こえた。驚いて立ち止まり、振り返るとエレンが礼をしていた。
その姿を見た後、なぎとは目を伏せてまた上司の方へと走った。
「なんだ、またお前本気で好きになられたのか?」
ついた途端、ニヤニヤしながら上司に言われた。
「そうだと思います。」
いつものパターンに苦笑しながら答えた。
「大変だな、好きでもない奴に美しい言葉を並べて嘘を言うのは。」
「・・・はい。」
上司のレオは驚いてなぎとを見た。
「お前まさか好きだったのか、王女様のこと。」
「・・・好き、がなんなのかは分からないのですが、さっきいった言葉は全部が全部、嘘ではありません。」
神妙な顔で話すなぎとを見て、レオは困った顔になった。
「弱ったなー。」
車が見えてきたところで急にレオがそう言った。
「何がです?」
「いや、車の中で話す。心の準備をしておくんだな。」
不思議に思いながらもなぎとは車の中へ入った。
「早くドアを閉めろ。」
「え、ええ。」
いつもと完全に違う様子の上司になぎとは戸惑っていた。
「なんですか。」
するとレオは何度か咳払いをして口を開いた。
「君には偽装結婚をしてもらう。」