第3話 冒険者登録
楽しんで頂ければ幸いです。
異世界にショットガンチートを持って転生した俺は、直後にゴブリンに襲われている女の子を発見。手にしていたダブルバレル・ショットガンでこれを撃退。女の子、リーナさんを助けたのだった。
ゴブリンを倒した後、俺はリーナさんに道案内してもらいながら町を目指していた。その道中、時間はあったので彼女と話をしながら歩いていた。
「そう言えば、どうしてリーナさんはあんな所にいたんです?」
「実は、私これでも冒険者なんです」
俺が問うと、彼女は苦笑を浮かべながらそうつぶやいた。が……。
「えっ!?冒険者なんですかっ!?」
その単語が予想外過ぎて、俺は驚きのあまり聞き返してしまった。
『冒険者』。俺のように現代日本でラノベを少しでも読んだ事のある奴なら知っているであろう単語だ。もし、俺の知っている冒険者とリーナさんの言う冒険者が同じような存在だとしたら……。
「もしかして、リーナさん何か依頼を受けて森に?」
「えぇ。そうなんです。薬草採取の依頼を受けて、それで森に」
そう言って彼女は手にしていた籠に目を向ける。確かに彼女の持っていた籠の中には色々な、薬草らしい植物が入れられていた。
「そうだったんですか。でも冒険者なら、武器とか持ってなかったんですか?」
「……武器を扱うのは、苦手で。剣や槍、弓なんかもまともに扱えなくて」
苦笑いを浮かべる彼女の顔を見て、俺はすぐにやってしまったと思った。
「す、すみませんっ。今の質問はぶしつけでしたね。ごめんなさい」
「いえ。良いんです。気にしてませんし、本当の事ですから。……冒険者なのに武器の一つもまともに使えないなんて、可笑しいですよね」
「えっ?い、いえっ、そんなことは無いと思います、けど?」
そう言って笑う彼女だけど、その笑みは自虐の類の笑みだった。何とかそこを否定するものの、そこからは気まずくなってしまったのもあるし、街も見えて来た事もあって、俺と彼女は何も話さずただ歩いていた。
「見えてきましたよ。あれが『エルト』の町です」
「ようやくか。これで、とりあえず森で野宿は避けられそうだ」
ハァ、初日から色々あったし早く休みたい。町に付いたら、リーナさんにお礼を言って、あぁそうだ。折角だから安い宿でも知ってたら紹介してもらって……。ってっ!あぁっ!
「やっべっ!」
「ふぇっ!?ど、どうしたんですかっ!?」
俺が思わず声を上げると、リーナさんも驚いた様子でビクッと体を震わせこちらを向く。やべ、驚かせちゃったな。って、今はそれどころじゃないっ!
「あ~、え~っと。実は俺、今お金持ってなくて」
「えっ!?」
「あ~~~っ!どうしよ~~!これじゃあ宿に泊まるなんて夢のまた夢だっ!う~~っ!」
前途多難ってまさにこのことだよっ!うぅ、こうなったら町についたらすぐ仕事を探さないと。ハァ、先が思いやられる。
「あ、あの」
「はい?」
その時聞こえたリーナさんの声にそちらを向く。
「もし、良かったら私の家に泊まりませんか?」
「えっ!?い、良いんですかっ!?」
まさかの提案に俺は驚きながらも食いついた。
「で、でも親御さんとかもいるんじゃっ!?」
「……両親は、もういないので」
「え?」
「数年前に、流行り病で二人とも。だから今は私が一人で暮らしているんです」
「ッ!ご、ごめんなさいっ!そうとは知らず」
「良いんです。気にしないでください。……それで、どうします?」
「……お、お世話になります」
彼女の両親が居ない事は衝撃だったし、悪いことを聞いてしまったとは思った。でもお金のない今の俺に、まして異世界に転生してきた直後の俺に、彼女以外に頼れる当てはない。ならば、世話になるしかないだろう。 と言う事で俺は彼女に頭を下げた。
その後、俺とリーナさんはエルトの町へ到着。
「それじゃあイクタさん。さきに冒険者ギルドへ行きます。薬草の納品がありますので」
「はい。分かりました」
クエストの報告がある彼女についていき、俺もギルドへと向かった。その道中。
「あの、リーナさんに聞きたいんですけど、冒険者登録って簡単にできます?」
「え?はい。簡単ですよ。登録自体は犯罪歴が無く、16歳以上であると判断されれば誰でも可能です。……もしかして、イクタさん冒険者に?」
「はい。今の俺にできる事と言えば、こいつで戦う事くらいですからね」
そう言って俺は左手でホルスターのダブルバレル・ショットガンを優しくなでる。
「とはいえ、こいつを使うにも色々金が必要でしてね」
「それで冒険者に。なら、私の納品の時一緒に申請書を出しますか?」
「はい。……あっ、でも俺、読み書きができるかな?」
「あぁ、それなら大丈夫ですよ。良ければ私が代筆しますから」
「そ、そうですか?ありがとうございます」
ほぼ同い年の女の子に頼り切り、と言う状況が情けなくて俺は頬が赤くなるのを感じた。ハァ、もし異世界言語があるのなら、早く学んで読み書きができるようにならないとなぁ。
そう思いつつ、リーナさんとギルドに到着した俺は、入ってすぐのラウンジの一角にあった申請書を書くスペースにリーナさんと向かった。冒険者登録はここで申請書を書いて提出すれば良いらしい。読み書きが出来ない人には、代筆をしてくれる窓口があるらしい。
実際ギルドの中に入って、代筆してくれる窓口を見てみるが、結構俺と同い年くらいの子が並んでいたりしている。やっぱり前世の日本ほど識字率は高くないんだなぁ。なんて考えながら、申請書を1枚手に取ると……。
「って日本語やないかいっ!?」
書類にかかれている文字に俺は思いっきり突っ込んだっ!だってそこに並んでいたのは、見慣れた文字列なんだもんっ!ってか漢字まであるしっ!いやこれなら読み書き問題ないけどさっ!
「ど、どうしました?イクタさん?」
「うぇっ!?あ、い、いやっ!何でもないですっ!って言うかこれなら俺、読み書き出来ますわっ!」
「え?そうなのですか?じゃあ代筆は……」
「あ~~」
一度書類に目を通してみるが、分からない所は特にない。と言うか、書類なんて大層な物じゃない。書くのは名前と年齢。あとは質問用紙にあるチェックボックスがいくつかある程度だ。
「これなら多分俺一人でも大丈夫ですね」
「そうですか。じゃあ私は薬草の納品をしてきちゃいますね?」
「はい。分かりました」
代筆が必要ない、って事でリーナさんは薬草の納品に。俺は近くにあったペンで書類に名前、とりあえず『ミチオ・イクタ』と書いておく。漢字が使われてるからそっちでもよかったんだけど、まぁ別に良いかって思ってカタカタにした。書類の一部にもカタカナも使われてるから、多分いけるだろ。
「さて、と」
書類の記入を終えた俺は、冒険者登録用の列に並んだ。ってかよく見たら、あちこちに日本語で色々書いてあるなぁ。はぁ、先に気づかなかった俺がバカだったって事か。まぁ良い。読み書きが出来ないのは深刻な問題だが、それが解決してるのなら良い事に違いは無い。
「お次の方~」
「あ、は~い」
列に並んでしばらくすると、ようやく俺の番になった。窓口のお兄さんに書類を提出し、少しだけ質問に答えると……。
「では、こちらを」
お兄さんが渡してきたそれは、軍隊漫画とかでよく見かける識別票、ドッグタグに似ていた。
「これって?」
「それは『ステータスプレート』。いわば冒険者の証となる物です。そのプレートには、名前、性別、年齢。そして現在の冒険者ランクが記載されております。このプレートは冒険者個人を判別するための物でもありますので、紛失しないようお気を付けください」
「分かりました」
「では、これからミチオ様、あなたは冒険者となりますが、その説明をここでさせていただきます」
そう前置きしてからお兄さんによる説明が始まった。
まず、冒険者にはSSSから始まり、S、A、B、C、D、E、F、Gと9つのランク分けがされている。すべての冒険者は例外なくGランクからスタートし、無数の依頼をこなしていくとその実績がギルド内部に保存され、ギルドが上のランクに上がる素質ありと判断されると、次のランクへ上がる事が出来るらしい。
また、冒険者が受ける依頼にもこれと同じ9つのランク分けがされており、自分のランクより上の依頼は基本的に受けられないそうだ。
「と、説明はこれくらいになりますが、何か質問はありますか?」
「そうですねぇ。あ、じゃあ聞きたいんですけど、冒険者としての資格とかって、何年依頼を受けてないと失効、とかあります?」
「いえ。そのようなことはありませんね。ただ、犯罪に加担したなど行為が判明した場合、そのものはギルドから除名処分。更に今後一切冒険者登録を受けられないレッドリストに名前が記載されることとなります」
「へ~~」
「他に何か、ご質問はございますか?」
「え~っと」
大体聞く事は出来たし、他に質問は思いつかないな。
「いえ。大丈夫です。聞きたい事は大体聞けたんで」
「そうですか。では、ようこそ。冒険者の世界へ。これからのあなたのご活躍を期待します」
「どうも」
その言葉を聞き、俺は窓口を離れた。
「さて、これで冒険者登録は終わったし、え~っとリーナさんは……」
ギルドの中を見回すと、入り口の大きな扉の傍に彼女が立っていた。
「おっ、いたいたっ」
俺は足早に彼女へ駆け寄る。
「リーナさんっ」
「あ。イクタさん。どうでしたか?」
「はい。無事登録は終わりました」
自分が冒険者であることを証明するように、俺は貰ったステータスプレートを彼女に見せた。
「それじゃあギルドはもう大丈夫ですし、行きましょうか。私も報酬は受け取り終わったので」
「分かりました」
こうして俺たちはギルドを出て、道中で買い物をしてから帰った。
リーナさんの後ろを付いていき、向かったのはギルドからほど近い場所にある市場だった。様々な露天や店が道具やら食材、野菜やら肉やら魚やらを売っていた。 そこで買い物をするリーナさんだが、ちょっと荷物重そうだな?まぁここは、俺の出番かな?
「あ、リーナさん荷物俺が持ちますよ」
「え?良いんですか?」
買い物を終え、荷物を持ちつつも少し辛そうに息をつくリーナさんに声をかけた。
「もちろんっ。世話になるんですから、これくらいさせてくださいよ」
俺は彼女が買った荷物を持ち笑顔で受け取りその隣を歩く。
「あ、ありがとうございます」
彼女はそんな俺の言葉に、なぜか小さく頬を赤く染めながら答えた。なんでだ?とは思ったけど、まぁ深く考える必要はないかと思い、彼女の隣を歩いている。
それから数十分ほどして、住宅街の一角にある家にたどり着いた。リーナさんはポケットから鍵を取り出し、ドアのロックを解除する。
「さぁ、どうぞ」
「お、お邪魔します」
一人暮らしの女性の家に入る、って今思うと結構緊張するなぁ。現に緊張で心臓が早鐘を打ち、冷や汗も流れている。
促されるまま、静かに中に足を踏み入れる。玄関から入って、近くの扉から中へ。そこはリビングのようになっていて、奥にはキッチンがあった。
「荷物はこのテーブルの上にお願いします」
「あ、は、はいっ」
おっと。人の家をじろじろ見まわすのは失礼だよな。やめやめ。 俺は彼女に促されるまま荷物をテーブルの上に。
「じゃあまずは部屋の方に案内します。お父さんがもともと使ってた部屋なんですけど、良いですか?」
「か、構わないんだけど、良いのかな?俺がその、リーナさんのお父さんの部屋を使っちゃって?」
「大丈夫ですよ。部屋は定期的に掃除してますし。部屋も使ってあげないと可哀そうですからね」
そう言って彼女は小さく笑みを浮かべている。が、その笑顔はまるで、寂しさを紛らわせようとしているような、そんな偽りの笑みのような気がした。
「さぁ、どうぞ」
「失礼します」
案内された部屋におっかなびっくり入る。そこにあったのは、普通の部屋だ。クローゼットにベッド、机があるだけのシンプルな部屋だ。
「ベッドは今シーツとか持ってきますね。クローゼットもあるんですけど、もう物は入ってないんで自由に使ってください」
「あ、はい」
「じゃあ私、シーツ取って来るので」
「あぁそれなら手伝いますよっ!」
その後、彼女を手伝ってシーツを部屋に運んだ。それが終わる頃には、日も傾き始めていた。
「イクタさん。これから夕食の準備をしますので少し手伝ってもらって良いですか?」
「あ、はいっ」
と言う事で夕食の準備をする彼女の指示に手伝いながら、手を動かしていると……。
「ふふっ」
「リーナさん?どうかしました?」
不意に彼女が笑みを浮かべている事に気づいて、声を掛けた。
「あっ、ごめんなさいっ。何だか誰かと一緒に料理したりするの、久しぶり過ぎて。こういうのも良いなぁって思ってしまって」
「あ」
そうだ。彼女は両親を失ってから一人でここで暮らしているんだ。その寂しさも当然あるだろう。だったら……。
「そうですね。まぁ世話になってる俺が言うのもあれですけど、こんな事で良ければ手伝いますよ」
「え?良いんですか?」
「そりゃもうっ。世話になってるのはこっちですから。男手が必要な時はぜひ頼ってくださいよっ!」
「ッ。ありがとう、ございます。イクタさん」
「へへっ、お安い御用ですよ」
居候させてもらうとはいえ、傍で誰かが悲しそうにしているのを見たくはない。だから俺がここにいる間は、彼女が寂しくないように、出来る事をしようと俺は決心した。
その後、俺とリーナさんは揃って食事を取った。
「あの、イクタさん。少し良いですか?」
食後にお皿を片付けていると、リーナさんが真剣な表情で問いかけてきた。
「はい、何でしょう」
軽い話題じゃないのはその表情を見ればわかるからこそ、俺は皿洗いの手を止めて彼女と向き合う。
「イクタさんは今日から冒険者になりました。加えて、イクタさんは不思議な武器を使っていて強い。だからこそ、お願いがあるんです。私と、パーティーを組んでくれませんか?」
「パーティー。つまりチームを組むって事ですよね?」
「はい。……正直、いつも依頼を受けている薬草採取の報酬だけでは、生きていくのがやっとなのです。お金が貯まる時もありますが、何かあればすぐに使ってしまうのが現状で。だから、イクタさんには私とパーティーを組んでほしいんです。どうでしょう?」
彼女は不安げな様子で俺を見上げている。しかし俺の答えは決まっている。
「そりゃ、もちろん良いですよ。俺なんかで良ければ」
「えっ!?良いんですかっ!?」
どうやらリーナさん、俺が即座に快諾するとは思ってなかったんだろう。その証拠に心底驚いた様子だ。が、仮にも世話になってるんだ。となれば断る理由もないし。
「何しろ俺は今まさにリーナさんに世話になってる身ですからね。って言うか、俺も滅茶苦茶初心者なんで、一人だと心細いなぁなんて考えてたんですよ。だから、チームを組んでくれるって言うのなら、むしろ願ったり叶ったりですよ」
そう言って俺は笑みを浮かべながら頷く。
「い、良いんですか?自分で言うのもあれですけど、私はまともに戦えませんよ?」
「構いませんよ。こうして出会ったのも何かの縁かもしれませんし。だから俺の方からもお願いします。俺と、パーティーを組んでください」
そう言って俺は彼女に対して頭を下げた。彼女の驚き僅かに息を飲む音が聞こえてくる。数秒して。
「イクタさん。どうか頭を上げてください」
彼女の言葉を聞き、顔を上げると彼女はとても安堵したような優しい笑みを浮かべていた。
「そう言っていただけると、私も嬉しいです」
「じゃあ」
「はい。今日から私とイクタさんで、パーティーを組みましょう」
彼女は嬉しそうに笑みを浮かべながら頷くと俺に右手を差し出してきた。
「今日からよろしくお願いします、イクタさん」
「えぇ。こちらこそ。よろしくお願いしますっ」
対して俺も、笑みを浮かべながら彼女の右手を取り握手を交わした。
こうして異世界に転移して1日目。早くも俺は冒険者パーティーを作る事になったのだった。
第3話 END
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