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屋上

 屋上のエレベーターから出た場所は、部屋のようになっている。

 当然そこから出ると外となり、屋上が広がっているのみである。

 100階の高層ビルの屋上ともなれば、その広さは驚くほどであり、自家用と思われるヘリコプターまであった。

 そして外はもう夜となっており、そこから見下ろすと、どこまでも広がっている都会の光が、荘厳に目に映るばかりである。


「おおお……凄いでやすねえ。ヒヒ」


 流石のカレブも、そんな感想を漏らした。


 しかし、もちろんジェイコブは、景色を眺めに来たわけではない。


「それで、こんなところに何しに来たんでやすか兄貴?イヒヒ」


 カレブは卑しく笑う。


「もう演技しなくてもいいぞ」


 そんなカレブに、ジェイコブは言い切った。


「やっぱり兄貴だけはどうにもなりやせんねえ……と言われても、あっしはこれが素なんでやすがね。ヒヒヒ」


 そう言うカレブの様子はいつも通りである。素と言うのは本当のことなのだろう。


「そうでやす。あっしはマイケルの旦那の命令で動いてやした」


 そして、あっさりとカレブは認める。


「いつからだ?」


 最初から怪しい奴であった。

 ジェイコブはカレブに心を許したことはない。


「ヒヒ。兄貴はわかってるでしょう?最初からでやすよ。初めて兄貴に会った時から。……と言っても、最初は兄貴の監視というより、デービッドの旦那の監視の命令でやしたがね」


 つまり、初めて会った時にマランノファミリーにボコボコにされていたのも、演技だったというわけである。


「それで。どうするでやすか?あっしはね、見ていただけでやすよ。マイケルの旦那はあっしが報告しなくても、ぜーんぶお見通しでやすからねぇ」


 いてもいなくても変わらないのは事実だろう。

 更に、カレブは言い訳を続けた。


「それに、こう言っちゃあなんでやすがね。あっしは兄貴にとっていい事しかしてないでやすよ。ミリアーノの時代から兄貴の手助けをして、兄貴が蘇ってから仲間の墓を一緒に掘りやしたよねえ。倒れた兄貴をレジスタンスに運びやしたし、ここまで運転もしやした」


 これは開き直りであろう。

 しかしそう言えば、聞こえはいい。

 だが、ジェイコブ達を騙し、デービッドを見殺しにしたという事に変わりはない。

 何より――


「そのいい事に、リリーの事は含まれないんだな」


 この恩着せがましく話している場面で、そこに触れないのは不自然である。

 そして、ジェイコブの見ていないところで、この卑下た男が何をしているのか、ジェイコブは信用していなかった。


「イヒヒヒ。兄貴はやっぱり鋭いでやすなぁ。でもそれもマイケルの旦那の指示なんでやすよ。兄貴を絶望に落とすためにね。襲えって言われたんでやすよ」


 ジェイコブはわかっている。

 カレブが気持ち悪く笑っている時は、余裕がある時である。

 ここまで素直に話すのもまた、余裕があるからこそである。


「あ、もちろん殴ったりはしてやせんよ。気持ちいい事をしただけでやすよ。ヒヒ。今思い出しても興奮しやすね。兄貴に助けを求めながら喘ぐリリーの姿がさあ。アヒヒヒヒ!!」

「カレブゥウウウウ!!!」


 ジェイコブは怒りに耐えかねて、銃をカレブへと撃ち込んだ。

 しかし、その銃弾はカレブに命中こそしたが、鋭い金属音と共に弾かれる。

 いつの間にか、カレブの体が変化していたのだ。

 全身が、青い宝石のように、変化していたのだ。

 それは、間違いなく魔人化である。


「おっと喋りすぎやしたね。でも、それも最初の方だけでやすよ。薬で逝っちゃってボロボロのやせ細った体になってからは楽しめなくなったんで、真面目に介抱してたんでやすから感謝して欲しいくらいでやすねぇ」


 恩着せがましいというのは、まさにこのことだろう。

 そこまで追い込んだ、張本人のくせして。


 ジェイコブは静かに、銃をホルスターに収めた。


「そうそう。無駄な事はやめやしょう。あっしは兄貴の事は嫌いじゃあない。むしろ好きなんでさあ。あっしの体に傷をつけることは出来ないんですし、あっしも兄貴の事は攻撃しやせん。ただ見るだけでやす。ヒヒ」


 饒舌に語るカレブを横目に、ジェイコブは銃の代わりにモンスターシードを三本取り出す。


「え?兄貴?何をしてるんでさあ?」


 そして、それを首筋に当てると。


「俺は」


 三本全てを体へと打ち込んだ。 


「お前のその――気持ちの悪い笑い方が嫌いだったんだ」


 体中にモンスターシードが行きわたり、力が湧いてくるのを感じる。

 そして、その力を――怒りを――そのままカレブへと解き放った。


「ちょっ……まっ……」


 鈍い音がして、カレブの体がジェイコブに殴りつけられて宙を舞う。

 だが、カレブは地面で滑りながら体制を立て直す。


「ヒヒヒ。びっくりしたでやす。流石の兄貴もやっぱりあっしに傷は――」

「うおおおおおお!」


 だが、ジェイコブの怒りは止まらなかった。

 カレブの上から拳を握って殴りかかると、何度も、何度も、何度も、何度も――カレブを殴り続ける。


「ヒイイイイイイ」


 カレブの体は床へとめり込んでいき、更にその宝石のような体に亀裂が入っていく。

 それでもジェイコブは、カレブを殴り続けた。


 あまりにも激しいその攻撃に、床が抜けて、ジェイコブとカレブは下のフロアへと突き抜けてしまう。

 そして、下のフロア――100階でジェイコブは、ボコボコにしたカレブを持ち上げて立ち上がった。


「半殺しで許してやる」


 そしてジェイコブは、ボロ雑巾となったカレブを、フロアの端へと放り投げた。

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