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門番

「待て!俺だ!撃つな!」


 ジェイコブ達に背後から近付いてきた人物は、両手を挙げながら敵意がない事を示す。

 その顔を見て、ジェイコブは驚いた。


「ライアン!マイルズ!」


 それは、かつて長い間ジェイコブと、ダッドの家の門番を務めた仲間であった。


「お、おお……まじで」

「ジェイク!ジェイクじゃねえか!」


 ライアンは言葉を失う程ほど驚き、マイルズはジェイコブの元へ走って来て、ジェイコブの肩を抱いた。


「おっと……」


 勢いよく肩を組んできたマイルズに、ジェイコブは少し姿勢を崩してふらつく。


「なんだフラフラじゃねえか。でも良かったぜ……死んだって聞いてたからよ」


 ジェイコブからは見えないが、肩を組むマイルズは静かに涙を流していた。その顔を見られたくなかったからこそ、マイルズはジェイコブの横まで来たともとれる。

 涙こそ流していないが、歓喜しているのはライアンも同様である。


「俺達、お前の葬式にだって出たんだぜ。でも、同時にダッドも死んでよ……もう滅茶苦茶よ」


 それはわかっているが、ジェイコブはどう説明しようか迷う。


「その……悪いな……」


 だから、とりあえず謝るだけ謝った。


「まあ、なんだその……お前の様子を見れば何かあったのはわかるよ」


 今、この状況で、車でタワーに突っ込んできた人間が尋常ではない事は誰にだってわかることである。

 そして、ジェイコブは昔の姿のままである。歳を取っていないのだ。

 それに対して、マイルズも老けたし、ライアンも――元々じじいだからあまり変わってないようだが――老けたのだろう。


「二人はなんでここに?」


 聞くまでもないと言えば、聞くまでもないのだろう。

 二人ともミリアーノファミリーの構成員なのだから、そこまで不思議ではない。

 だが今は、誰も居ないホールに、二人だけがいるのは不自然でもある。


「俺達は今も昔も門番よ。ここで門番してるのさ」

「まあ門番って言うか、守衛だけどな」


 そう言われると、ジェイコブも生きていれば、同じように門番をやっていたのかもしれないと考えたりもする。

 しかし、それはもう考えても仕方がない事だ。


「ジェイコブ、お前は……まあ、聞くまでもないか」

「もう10年門番をやって来たけど、車で来場してきた奴は初めてだよ」


 そう言って、二人は笑った。

 その平和な様子に、ジェイコブも微笑んでしまう。


「それで、なんでここには誰もいないでやすか?」


 カレブが横から口を挟む。


「なんだカレブ。いたのか」


 ライアンが白々しく言った。


「酷いでやすよ」


 カレブがそう返すと、みんなで大笑いする。


「一部の構成員には退館命令が出たんだけどよ。一階では、何故かボスから俺等だけは残るように言われたんだ」

「正直こんな状況で残りたくなかったんだが、お前にまた会えたから残って良かったよ」

「それは俺もだ。会えて良かった……本当に……」


 もはやこの二人は、ジェイコブの数少ない生き残っている知り合いである。


「でも、上に行くんだよな?」


 それは、もはや聞くまでもないだろうが、念を押すようにライアンは聞いた。


「ああ」


 ジェイコブも真剣な顔つきで頷く。


「そうか。止めはしないが、気を付けろよ。上の方には戦闘員が結構残ってそうだ」


 ジェイコブに戦う気はなかったが、マイルズとライアンがカラーズの一員である以上、退けなければいけない可能性も考えていた。

 しかし、そうならずにジェイコブはホッとする。


「ライアンもマイルズも、ここを離れたほうがいい」

「命令違反は殺されるんだけどな。そんなことは言ってられなさそうだな」


 マイルズが肩を竦める。


「ああ。それで悪いんだが……俺が昔話していた、ホワイトライトストリートのリリーの事を覚えているか?」

「ん?ああ、少しだけなら」

「リリーは、その……麻薬で少し普通じゃない状態なんだが、助けてやって欲しい。頼む!」


 ジェイコブは頭を下げる。

 二人とリリーが会った事がないのは心配ではあるが、他に頼める人間がいなかった。


「ふっ、頭を上げろよジェイク」

「俺達に任せときな」


 二人からは頼もしい返事が返って来る。


「外は危ないから、この車で行ってくれ」


 ジェイコブは乗って来た車を指し示す。


「いや、それはいい。俺達の車は駐車場に止めてある。壊れてなけりゃな」

「俺達を舐めるなよ?何年マフィアをやって来たと思ってるんだ。逃げるくらいわけねえさ」


 二人は笑いながらそう言う。

 そして、ライアンはさらに続けた。


「それに、この車は、お前が帰るように置いていけジェイク」


 正直に言うと、ジェイコブには戻るという選択肢はなかった。


「ああ、その――」

 

 だが、そう言われて、否定する事はない。


「ありがとう」


 そして、ジェイコブは素直に感謝の言葉を口にした。


「いいってことよ」

「必ず帰って来いよ」


 ライアンとマイルズはそう言い残して去っていく。

 ジェイコブは感謝をしながら、その後ろ姿が見えなくなるまで見続けたのであった。

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