レジスタンス
静かな部屋で、ジェイコブは目を覚ました。
天井があり、背中に感じる感触は柔らかい。
その感触から、自分がベッドに寝かされている事をジェイコブは認識する。少なくとも屋外ではない事を理解する。
体を起こそうとしたのだが、とにかく体中が痛み、軋み、頭も驚くほど重く感じた。
それでもジェイコブは、気を取り直して強引に体を起こす。
そして周囲を見渡すと、やはりジェイコブはベッドに眠らされており、部屋の中は医務室のような作りであった。
しかし、複数あるベッドに人はおらず、ジェイコブだけが包帯を巻かれて眠らされていたようである。
ジェイコブは間違いなく気を失うまでは、ジョシュアと戦っていた。
誰かがジェイコブの治療をした、という事である。
心当たりと言えば、カレブくらいしかいない。
他にジェイコブの介抱をするような人間は、エミリーしかいないのだから。
「おう、起きたか」
しかし、そう言いながら部屋へと入って来た人物はジェイコブの知らない人物だった。
「あんた……」
だが、よくよく見ると、どこか見覚えのある顔である。
「オリバーだ。レジスタンスのボスをやっている」
昔会った警察官。少し前に会ったレジスタンスである。
しかし、ボスだとは思わなかった。それでもそれは、ジェイコブには関係ないが。
オリバーが、ジェイコブを助けた事は間違いないのだろう。
その理由はわからないが、挨拶くらいは返そうとジェイコブは考えた。
「俺は……」
「ジェイコブ・ブラウンだろ?」
オリバーが、ジェイコブの言葉を遮る。
「覚えていたのか?」
少し前に会った時は、覚えていない風だったはずである。
「覚えているわけないだろ。何年前の話だと思ってるんだよ。俺は昨日の晩飯だって覚えてないんだぜ?」
オリバーは見た目通り大雑把な人間のようである。
「あいつに聞いたんだよ。お前の事を心配していたんだぜ。その……ほら、あいつだよ。そろそろ来るんじゃねえかな?」
オリバーはいまいち要領を得ない言い方をするが、間違いなくカレブであろう。
そして間髪入れずに、予想通りカレブが扉を開けて部屋へと入って来る。
「あ、兄貴!平気でやすか!!」
カレブは起き上がったジェイコブを確認すると、すぐさまジェイコブの元へと近寄って来た。
「寄るな」
余りにも近くまで寄ろうとしたので、ジェイコブはそれを押し返す。
その様子を見ながら、オリバーは咳ばらいをして話を続ける。
「話は大体聞かせてもらったぜ」
カレブが話したのだろうが、お喋りで困った奴である。
そして、助けた理由もジェイコブは理解した。
敵の敵は仲間という理論であろう。
「そうか。助けてもらった事には感謝する。だが、悪いが行かせてもらう」
しかし、ジェイコブからしてみれば、レジスタンスの都合などどうでもいいのだ。
だから、ジェイコブは立ち上がると、軋む体を無理矢理動かし歩き出した。
「おいおい、待てよ。助けた事を恩に着せるわけじゃないが、話くらい聞いて行けよ」
「俺にはあんたらと話すことはない」
ジェイコブは頑なに拒む。
実際に、今ジェイコブが考えている事はマイケルの事だけである。
「マイケル市長の所に行く気だろうが、その体じゃ辿り着く前に力尽きるぞ。それに、関係のある話だ」
「兄貴。少しだけ聞きましょうや」
関係がある、と言われてジェイコブは止まる。
もう部屋の扉の近くまで来ていたジェイコブだが、壁に寄りかかり、話を聞く姿勢を見せた。
「あっしが先にいいですかねい?」
何故だかカレブが割り込んできたが、オリバーは勝手に頷き、ジェイコブに聞く気がなくても話が進む。
「ジョシュアの死体ですが、ちゃんと仲間の元へ埋めてきやしたぜ。イーサンの墓もありやした。一応、兄貴を待とうかとも迷ったんですがね……」
「そうか」
それは、まあジェイコブからしても良かった。
「それで、次は俺だ。今外では俺達レジスタンスとカラーズの抗争が起きている。このニューシティ全体でだ。お前には悪いが、マイケルはやりすぎたんだよ」
「ああ……」
それは確かに、ジェイコブには予想出来なかったことである。
「そこで、俺からの提案が一つだけある」
オリバーはもったいぶりながら、指を一つだけ立てる。
どうせ一緒に戦えと言う話だろうと、ジェイコブは考える。
「好きにしろ。お前の持ってた装備は車に置いてある」
それは、ジェイコブからすれば、少し意外な言葉であった。
しかしそれは、ジェイコブを利用するだけ利用すると言う話であるのはすぐにわかる。
つまり、一緒に戦えとそう変わらない話である。
だが、どちらにしろ――
「言われなくても好きにするさ」
ジェイコブのやる事は決まっていた。
ジェイコブはそれだけ言って、自虐的に笑いながら部屋を出る。
「あ、あっしも行きやすぜ!ていうか、あっしがいないと車の場所わからないでしょ。待ってくだせえ」
そのジェイコブを、カレブが慌てて追う。
その様子を見て、オリバーは笑った。
それは、自分の思惑通りに話が進んだからではない。
ただ、ジェイコブの真っ直ぐさに、オリバーは笑ったのだ。




