15年ぶりの邂逅
イーサンの死んだ後、ジェイコブはしばらくの間、イーサンを腕に抱いたまま涙を流し続けた。
その間、ジェイコブは一言も発することもなかったし、体を動かす事もなかった。
その静寂に満ちた部屋の扉が開き、二人の人物が入って来たが、ジェイコブはそちらへ目をやることすらしなかった。
「ジェイコブ様」
「こちらを」
そしてその二人が、ジェイコブの目の前まで来てから、やっとジェイコブは顔を上げて、その二人の事を見る。
部屋へと入ってきたのは、イーサンが自分の妻だと紹介した二人であった。
その手には、鍵の様なものを持っており、それはジェイコブへと差し出されていた。
「俺が……俺が憎くないのか?」
しかし、ジェイコブはそれ受け取らずに、二人へ問いかけた。
「もちろん憎いです。殺したいほどに」
「ですが、それがイーサン様の望みでした」
二人は、鍵を差し出したまま答える。
「イーサン様の想いを無駄にしないでください」
「これは、イーサン様からの最後の贈り物です」
ジェイコブは差し出された鍵を受け取る。
それは、車のキーのようであった。
「イーサン様が情報を流したので、じきにレジスタンスが来ます。見つかると面倒でしょう」
「あちらの扉をまっすぐ進んだ先に、その鍵が使える、あなた用の車が置いてあります」
そこまで言われて、ジェイコブは立ち上がった。
そして、抱きかかえたイーサンの死体を、二人へと引き渡す。
「ありがとうございます」
「私達が責任を持って、お墓へと連れて行きます」
はっきりと言ったわけではないが、オリビアや、マシュー達の元へという事であろう。
だが、それに対してジェイコブは何も答えなかった。
本人が望んだとはいえ、イーサンを殺したのは間違いなくジェイコブであり、そのジェイコブを恨んでいることは間違いないであろうから。本来であれば、顔も見たくなければ、声も聴きたくないはずである。
だからこそ、ジェイコブは無言で二人に背を向けると走り出した。
♦
ジェイコブが通路を走っていると、話をされた通りに、大きな音が耳に届いてくる。
レジスタンスというやつらが、工場を破壊しているのだろう。
だが、音はまだ遠く、ジェイコブの元へ辿り着くのは、時間がかかる。
ジェイコブが、そう思った時であった。
「おい!止まれ!」
野太い声が、ジェイコブの耳へと入って来る。
ジェイコブが声の方を向くと、一人の男が、ジェイコブに銃を向けていた。
「お前!誰だったか……見たことあるな?」
そう言った男の顔には、ジェイコブもまた見覚えがある。
しかし、誰だったかは思い出せない。
「ああ!思い出した!15年くらい前にミリアーノの幹部と一緒にいた奴だな!」
それを言われて、ジェイコブも思い出す。
この男は、昔絡んできた警察官である。名前は忘れた。
「それにしちゃあ、若いままじゃねえか。お前も実験体ってことだな?ていうか喋れるのか?さっきから喋らねえけどよ」
喋る余地がないほど、喋られていたし、ジェイコブは喋る気もなかった。
それに、実験体でもない。
いや、実験体ではあるのか、とジェイコブは自虐的に少し口角を上げた。
「何がおかしい」
そのジェイコブの様子を、男は見逃さなかった。
「別に」
それだけ言うと、ジェイコブは走る去る。
状況を考えると、男はレジスタンスなのだろう。
どういった経緯で、警察官からレジスタンスへとなったのかは想像するのは容易である。
しかし、なんにせよ、相手にする必要などないのだ。
「あ!おい!待てよ!」
男は、口では止めたが、ジェイコブを追ってくることはなかった。
それどころではないのだろう。
♦
通路を進み続けると、車庫へと出て、車を見つける。
明らかに、普通の車ではない。
銃と同じように、戦闘用に改造されたものであった。
車の中を確認すると、弾倉やモンスターシードが積んであることが確認できた。
ジェイコブは車庫の扉を開けると、車に乗り込み、キーを回す。
そして、アクセルを踏み込み、走りだした。




