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イーサン・ジョンソン

 イーサン・ジョンソンは不器用な男であった。

 カラーズの中では一番年上の彼が、本来であればカラーズをまとめるべきであったのだろう。

 しかし、イーサン自身が、自分は向いてないと感じていたし、マイケルというリーダーに向いている男がいたから、イーサンは自分からリーダーになるのを拒んだのである。

 そんな中で、イーサンはカラーズで一番の年上として、全員のために動いてきたつもりであった。

 だがそれでも、歪みだした道は、イーサンの力ではどうしようもなかったのである。


 ジェイコブが死んで、イーサンはアポルネファミリーのボスを任された。

 マイケルがやりすぎているのはわかっていたが、もはやイーサンの声は届かなくなっているのは明白であった。

 だからといって、マイケルに立ち向かったり、逃げたりする気持ちはイーサンにはなかった。

 それに、もうジェイコブは死んでしまったのだし、あとはマイケルに付き合えるところまで付き合う気であったのだ。

 それが、兄貴分としての役割を果たせなかったイーサンの使命であった。


 だから、モンスターシードと魔人の研究を引き継いだことにも、反対したりはしなかった。

 しかし、その研究にエミリーが加わると言われた時には驚いた。

 エミリーが何故、モンスターシードと魔人の研究に加わったのか、イーサンからしてみれば不思議でしかなかったのだから。

 だが、それも深くは問わずに受け入れたのであった。

 

「久しぶりねイーサン」


 イーサンが久しぶりに再会したエミリーは、変わり果てた姿であった。髪はぼさぼさで、目の下に深いクマがあるのだ。

 はっきりと言えば、美しいかった昔のエミリーとは程遠い姿であった。


「あ、ああ」


 しかし、愛する恋人を失ったのだから、それは普通の事だろうと、イーサンはむしろエミリーを憐れむばかりであった。

 

 それから五年が経った頃に、事件が起きる。

  


     ♦



 マイケルがイーサンに、モンスターシードをニューシティ内にばら撒くように指示を出したのだ。

 当然それに、イーサンは反発した。

 モンスターシードは改良され続けているとはいえ、普通の人間が常用したら必ず死ぬものだからである。


「そういえば、イーサン。結婚するだってな?」


 イーサンには、ミリアーノファミリーの時代から支え続けて来た部下の女性が二人いた。

 その二人と、イーサンは結婚する予定であった。


「あ、ああ。なんだよ急に……」


 そう返したものの、このタイミングでマイケルがこの話を切り出したという意味に気が付いていた。


「いや、別に。ただ……幸せにな」


 マイケルは笑顔で言うが、それはつまり脅しである。


「それで、やってくれるよな?」


 イーサンは、マイケルに逆らうことは出来なかった。

  


     ♦



 厳密には、イーサンは直接ホワイトライトストリートにモンスターシードを撒いたわけではない。

 だが、マイケルの圧政と、それに耐えかねて麻薬に逃げる人間が増えることはわかったいたのだし、スラムを中心にモンスターシードによって人が死んでいくのをわかっていてイーサンはそれをやったのだ。

 だから、イーサンは言い逃れをするつもりなどなかった。


 その頃になって、イーサンは、やはり久しぶりにエミリーに会うことになる。

 麻薬や超人化の研究の事などわからないから、任せきりだったのである。


 そして、そのエミリーの変わり果てた姿に、再び驚くことになる。

 いや、正確には変わっていない姿である。

 エミリーは若い頃の姿のままであった。

 

「なによイーサン、驚いたような顔して」


 それに、なんだか声もとても明るかったのだ。

 ただ、イーサンはその時は、エミリーも前を向きだしたのだろうと考えていた。


 しかし、部下から、それは見当外れだという事実を告げられてしまう。


「エミリー様はジェイコブ様を、魔人化によって蘇らせようとしているみたいですね」


 何をそんな馬鹿な。

 そう、イーサンは思ったが、話を聞いていくうちに本気の事なのだと理解する。

 エミリー自身も魔人化し、自分の顔を若い頃に改造したのだ。


「なら、俺のすることは……」


 ジェイコブは、間違いなくマイケルと戦うことになるだろう。

 しかし、なにもなしでは、ジェイコブはただ再び殺されるだけである。 

 そうならないために、ジェイコブに最も必要なものは、戦う意思である。


 イーサンは、自分が悪になり、ジェイコブに殺されることによって、ジェイコブに戦う意思を与えようと考えた。


 そのために、イーサンは五年間、準備をし続けた。

 自分が死ぬために、である。


 それが、イーサンの贖罪であった。


 こんな不器用なやり方しか出来ない男だったのである。


 だから、それをやり遂げて、イーサンは笑ったのだ。

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