満足ある死
振り下ろされた鋭い爪を、ジェイコブは横に飛んで避ける。
そして、転がりながら銃を引き抜くと、銃口を魔獣と化したイーサンへと向けた。
しかし、ジェイコブは引き金を引かない。引けないのではなく、引かなかった。
「どうしたジェイク!舐めてるのか?」
そのジェイコブの様子を見て、イーサンは避けるジェイコブを追いかけ、やはり爪を立てて前足をジェイコブに対して振り下ろす。
「くっ……」
しかし、ジェイコブは反撃をせず、次から次へと繰り出されるイーサンの攻撃を、ただひたすらよけ続けるだけであった。
そして、イーサンはそのジェイコブを、ひたすら前足で踏み続けるように攻撃し続けるのである。だが、それはまるで遊びである。ジェイコブも、それには気が付いていた。
「ジェイク!避けるだけじゃ埒が明かないぞ?戦いに来たんだろう!」
ジェイコブからすれば、戦いに来たつもりはない。
しかし、だからといって、今この場で戦いになったことをおかしな事だとは思わないので、反論はしなかった。
「それとも俺が死ぬまで待つのか?」
「そんなつもりは……」
モンスターシードを三本も体に打ち込んだイーサンに、もう後はない。
ジェイコブが戦わずとも、死ぬことは決まっているのだ。
だからといって、マシューに続き、イーサンまで手にかけることは、ジェイコブには出来なかったのである。
「いい加減にしろよジェイク!」
「ぐあっ!」
イーサンは前足による攻撃をやめて、高速で体当たりをする。ジェイコブはそれを避けることが出来ずに、なすすべもなく吹き飛ばされ、壁に体をめり込ませた。
そのジェイコブの前まで、イーサンはゆっくりと歩き近づく。
壁にもたれかかったまま、ジェイコブは銃口を上げて、迫りくるイーサンへと狙いを定める。
「撃てよジェイク!撃たないと俺を殺せないぞ!」
しかし、ジェイコブはやはり引き金を引かないのであった。
その様子を見て、イーサンは心の中でのみ笑う。
「ああ……なんつったけあいつら。そうそう、雑貨屋のカーソンな。あいつは心が弱かったな、一番最初に薬に逃げやがった。次は本屋のグレイソンだ。あいつは流通を止めてやった。花屋のアンソニーは最後まで店やってたっけな。だから手下使って荒らしてやったよ。みーんなおっちんじまえばリリーが薬に逃げるのは当たり前だよな。まあ薬自体は俺がくれてやったんだけどな。次はお前が死んだ後にエミーを薬漬けにするか?ハハハハ!」
わざとらしく煽るイーサンであったが、ジェイコブを怒らせるのには十分であった。
「イーサァアアン!」
ジェイコブの中のモンスターシードの効果は、まだ切れていない。
その効果で、ジェイコブは怒りをコントロールできなくなっていた。
だからこそ、ジェイコブは怒りに身を任せて、引き金を引いた。それも一度ではなく、何度もである。
轟音が何度も鳴り響き、ジェイコブの前に立ち尽くすイーサンの体を、何度も抉る。
「がああああああ!」
イーサンは叫びながら、その場へと倒れる。
その体は、大量の血を流しながら、元の体へと戻っていく。
「はぁ……はぁ……イーサン!」
ジェイコブはイーサンの元へと近寄ると、その体を抱き上げる。
「俺……俺は……」
自分でやった事であるにも関わらず、ジェイコブは涙を流す。
「そんな顔をするなよジェイク……」
最後の力を振り絞り、イーサンは口を開いた。
「俺達はもう自分の足じゃ止まれないんだ……だから、他の奴も止めてやってくれ……」
体は傷だらけであり、苦しいはずなのに、イーサンは微笑む。
「ありがとうよ……ジェイク……」
全てをやり終え、イーサンは満足気な顔のまま、死亡した。




