マシュー
マシューは、間違いなくカラーズの中でも、最も仲間重思いな人間であった。
だからこそ、後悔も多かった。
子供の頃に捨てられたマシューは、親の顔を知らない。
マシュー自身もいつかはわからない程子供の頃、マシューは孤児院に拾われた。
そして、その孤児院でも、マシューはジョシュア以外の仲間と仲は良かったのである。
だから、本当はマシューは全員で逃げ出したかった。
しかし、結局はジョシュアと二人で逃げ出すこととなる。
だが、そのおかげで、マイケルやジェイコブと出会う事が出来た。
それは、マシューにとって幸運であり、不運でもあったのであろう。
カラーズでの生活は、マシューにとってとても楽しかった。
マシューにとって少年期は、間違いなく人生で最も楽しかった時である。
だからこそ、オリビアが死んだときに、マシューはとても悲しんだ。
そして、もう二度と仲間を死なせない。
そう誓ったのだ。
しかし、その誓いは12年後にあっさりと破られることとなる。
ミリアーノファミリーに入ったマシューは、ミリアーノの諜報部の配属となった。
体の小さいマシューには適任であった。
マシューは得た情報をマイケルに言われ、マイケルに流していた。
それは、ミリアーノに対する裏切り行為である。
しかし、それでもマシューはマイケルを信用していた。
マイケルも、悪い事には使わないと言っていたから。
そしてそれは、12年間続いた。
その時には、マイケルはアンダーボスの候補であったし、マシュー達はジェイコブとエミリーを除いて、マイケルの部下として働いていた。
そして、運命の日はやってきてしまう。
マイケルが、ミリアーノ内にカラーズを作り、ジェイコブを仲間に入れると言ったのだ。
ジェイコブだけが最後に誘われた理由を、マシューは知らない。
しかし、マシューはジェイコブが断るとは思っていなかったし、またカラーズとして集まれる事が嬉しかったのだ。
だが、ジェイコブはそれを断ってしまった。
それはマシューからしても以外ではあるが、仕方がない事だと思った。
それに、離れ離れになるわけではないのだ。
だから、マシューは事態を深刻には見ていなかった。
しかし、マイケルは言ったのだ。
ダッドを殺し、ミリアーノを乗っ取る。
ジェイコブも殺す。
そう言ったのだ。
それを聞いた時、マシューはもちろん反対した。
しかし、マイケルはもう全てに根回しをしていたのだ。もちろん、イーサンもジョシュアも。
マシューは悩んだ末に、イーサンに助けを求めた。
そして、イーサンはそれを聞き入れた。
しかし、どうにもならない事はあったのだ。
気が付いたら全ては進んで、もう止めることは出来なかった。
マイケルを止めても、ジェイコブに全てを話しても、止まることはなかっただろう。
そして、ジェイコブは死んだ。
その死に際に、マシューは目を瞑り、手を伸ばしたが、もちろんそんなことは何も意味もなかったのだ。
ただ、後悔するだけであった。
その後、マシューはマイケルに言われるがままに、ミリアーノファミリーのボスとなった。
と言っても形だけである。
マイケルの言う通りに、ミリアーノファミリーを動かしていただけである。
それでもと言うべきか。だからこそと言うべきか。それから10年間、マシューはミリアーノのボスとして何事もなく過ごせた。
だからこそ、守るべき仲間が再び増えてしまったのである。
だから、ミリアーノファミリーを守るために、魔人化の手術も受けた。
それに、マイケルにはもう敵はいなかったのだ。もはや問題も起きるはずもなかった。
しかし、起こるはずのない問題が起きた。
起きてしまったのだ。
♦
その日、マイケルに呼び出されたマシューはとんでもない話をされた。
「なあ、マシュー。ジェイクに似た奴が、ホワイトライトストリートをうろついてるらしいんだ」
いきなりの事で、マシューは驚き、狼狽した。
「え?それってどういう……」
マシューが、ジェイコブの名前を聞いたこと自体10年振りであった。
示し合わせたわけではないが、全員がジェイコブの話を、まるでタブーのようにしなくなっていたからでもある。
「いやあ、死人が生きてるなんておかしい話だろ。笑えるよな。ハハハッ!」
マイケルが大声で笑う。
こんなに上機嫌なマイケルをマシューが見るのは、子供時代以来である。
「そ、そうだな。ハハ……」
マシューはとりあえず合わせて笑っておく。
カラーズのボスになってからのマイケルは、余りにも容赦がなかった。それは全てに対してである。味方にも、敵にも。
このニューシティに生きる誰もが、カラーズのボスであり、ニューシティの市長であるマイケルを恐れているのだ。
「でな、ミリアーノにはそいつをぶっ殺してきて欲しいんだ」
話の流れで考えれば、そうなるのはわかりきっていたし、マシューには今更断る理由もなかった。殺しの命令など、何度も聞いてきたのだから。
「あ、ああ。わかったよ。じゃあすぐ取り掛かるから」
そう言って、マシューはそそくさとマイケルの元を去ろうとする。
「待て待て。念を押して置くが、例え本物でも殺して来いよ。出来なかったら……わかるな?」
こんな念を押されたのは初めてである。
それに、本物なわけはないのだ。
ジェイコブは死んだのだから。
♦
しかし、何かが気になったマシューは、誰にも告げず一人だけで様子を見に行くことにした。
そして、そこにいたのは間違いなく本物のジェイコブであったのだ。
一目見ればわかる。
間違いようがないのだ。
だが、だからこそマシューは苦悩した。
もうマシューはミリアーノのボスである。
ここでジェイコブを殺さなければ、マイケルにミリアーノをどうされてしまうのかわからない。
そして苦悩の末、マシューはモンスターシードを三本同時に自分へと打ち込んだ。
魔人化をして戦ったことは何度もあったが、必ず戦う前に一本打つ。それだけであった。
三本同時に打つったのは、理性を飛ばしてしまおうと思ったのだ。
しかし、それでも、マシューはジェイコブとは戦えなかったし、リビアの墓を破壊することも出来なかったのである。
マシューは意識が朦朧としていても、仲間思いである事には変わりなかったから。




