逃走
建物を破壊しながら突然現れたそれは、一体どこに潜んでいたのかもわからない。
しかし、その見た目は化け物としか言い表せないものであった。
その見た目は人の様であれ、体の表面は赤黒く、体中に横に亀裂が入っている。
そしてなにより、とにかく大きかったからである。
ジェイコブも体が大きい方である。しかしその化け物は、ジェイコブの更に二倍はありそうな巨体であった。
「ひいい!なんでやすか!」
カレブは一目散に逃げだした。
だが化け物は、逃げ出すカレブには目もくれずに、ジェイコブを見続けていた。
「ううう……」
化け物は、その巨体からは想像できない程小さく唸りながら、やみくもに腕を振り回しだした。
しかし、その拳はジェイコブへは届かず、周囲の建物を破壊する。ジェイコブが避けたわけではなく、ただ当たらなかっただけである。
その建物と言うのは、当然ホワイトライトストリートのものであり、元々老朽化が進んでいた建物は、大きい音を立てながら崩れ出す。
「おい!やめろ!」
例え、もう誰もいない建物だとわかっていても、その行為をジェイコブは許すことは出来なかった。
だからこそ、ジェイコブは自分よりも圧倒的に大きい化け物へと殴りかかる。
冷静になって考えて見れば、昔にも似たような事があった。
それは、モンスターシードを使った人間である。
ここまで巨大ではなかったが、状況を考えれば、これが魔人と言うものなのであろうとジェイコブは考える。
そして、それならば、ジェイコブも魔人なのである。
つまり、ジェイコブの拳も、この魔人に効くはずである。
「なにっ!」
しかし、ジェイコブの攻撃はあまり効き目がなく、強靭な巨大な体の前に弾き飛ばされてしまう。
殴った瞬間に、攻撃が効かなかったその理由をジェイコブは感じていた。
力がうまく入らないのだ。
そして、その理由にも瞬時に気が付いた。
エミリーは言った。モンスターシードがないとジェイコブの体は維持できないと。
そして、最後にエミリーがジェイコブに注射を刺したのは昨夜である。
つまり、ジェイコブの体に力が入らないのは、モンスターシードが足りないからである。
「うう……」
ジェイコブが一度離れても、魔人はゆったりと暴れ続ける。
そうすると、当たり前の事であるが、ホワイトライトストリートは荒れていくのだ。
リリーがいる場所から、少し離れた場所で良かったとは思うが、それでもこの状況をジェイコブは是としなかった。
「くそっ!」
ジェイコブは走り出す。いや、逃げ出したのだ。
魔人は、間違いなくジェイコブを狙っている。
理由はわからないが、ジェイコブが逃げれば、追ってくるはずである。
「う……」
ジェイコブは巨大な魔人の足元をくぐり走り抜ける。
魔人は、暴れるのをやめ、後ろへと走り抜けていったジェイコブを追いかけだした。
やはり、その動きはどこか緩慢であり、ジェイコブは捕まることなく、追いかけっこが始まったのであった。




