目覚め
ジェイコブは自分の名前を呼ぶ声に気が付く。
それは、小さく微かなものだとおもったのだが、段々と大きい音になるように感じる。
「――イク。ジェイク」
長い。
長い暗闇の中にいた気がするのだ。
その暗闇から、ジェイコブは呼び覚まされた。
ジェイコブが瞳を開けると、エミリーの顔が映る。
「ジェイク!目を覚ましたのね……良かった……」
エミリーは涙を流し出す。
「エミー……どうしたんだ……」
ジェイコブはベッドに横になっており、その状態のまま、手だけを動かしてエミリーの瞳から涙をぬう。
その時、ジェイコブはエミリーに何か違和感を感じる。
しかし、それが何かジェイコブにはわからなかったのだ。
「だって……嬉しくて……」
エミリーは、ジェイコブの手に自分の手を重ねた。
その様子を見て、ジェイコブは口の端を持ち上げる。
「記憶はある?」
エミリーに言われて、ジェイコブはハッとする。
まるで遠い記憶が呼び戻されていくように、マイケルとのやり取りを思い出していく。
「そうだ!マイク!」
「動いたらダメ!」
ジェイコブが勢いよくベッドから体を起こすと、体に繋がれていた注射器やチューブ等がいくつか外れた。
それによって、自分の体にいくつもの医療器具が繋がれている事に気付き、ジェイコブは驚いた。
「これは……」
それに、ベッドの周りには見慣れない機械が沢山置いてある。これも医療関係のものであろう。
「生きるか死ぬかって所だったのよ……安静にしないと駄目よ」
エミリーは無理やりジェイコブをベッドへと寝かし返すと、外れた医療器具を付け直していく。
「あ、ああ……なんでエミリーが?」
「……死にかけのジェイクをイーサン達が私の勤務する病院に運んできたのよ。マイケルはいなかったわ」
ジェイコブがエミリーの言う事を疑うことはない。
「あれからどれくらい経ったんだ」
「……一か月ね。寝たままだから心配したのよ」
それだけ長く起きなければ、誰だって心配するだろう。
「そうか……ごめん。ありがとう」
ジェイコブの真っ直ぐな感謝と瞳に、エミリーは目を逸らす。
「とにかく、しばらく安静にしてね……この家からは出たら駄目よ……私は少しやることがあるから……」
エミリーは逃げるように部屋から出ていく。
それを、ジェイコブは不思議そうに見送るのであった。
とりあえず、言われた通りに横になったままのジェイコブであったが、落ち着いてみると体の調子がおかしい事に気が付く。
不調なのは当たり前である。一か月も体を動かさなかったのであれば、むしろ普通に動く方がおかしい。
しかし、それとは別に、まるで自分の体が自分の体ではないような感覚をジェイコブは感じていた。
それでも、どうする事も出来ないので、言われた通りにベッドに横たわり続ける。
しばらくすると、不自然なほど強い眠気が襲ってくる。
「ああ……」
まどろみの中、ジェイコブは先ほどエミリーに感じた違和感が何かに気が付く。
先ほど見たエミリーは、まるで若い頃のエミリーの様だったのだ。
それは些細な事である。体調や化粧で変わるような、些細な変化である。
だから、ジェイコブはそんなことは気にせずに、再び眠りに落ちたのであった。




