苛つき
ダッドは怒りに満ちていたが、すぐさまマランノファミリーと全面抗争と言うわけにはいかない。
互いに規模が規模である。
実際に抗争が始まってしまったら、それは抗争とは呼べず、もはや戦争である。
実際にそれが起きてしまったら、長期に渡り戦争が続き、どれほどの犠牲が出るかわからない。
ニューシティはそれほど広くはないが、互いに10万人ほどの構成員を抱えているのだから。
だからミリアーノファミリーは、まずはマランノファミリーのボスであるエイデンの捜索に手を尽くした。
このタイミングで姿を消したという事は、デービッド殺しに関与しているのは間違いないと考えたからだ。
しかし、全面抗争を避けながらという事もあり、表立ってエイデンを捜索することは出来ず、中々エイデンを発見することが出来なかったのだ。
ジェイコブも当然ながら自分の足で捜索をしていた。
だが、何も進展がなく、怒りのやり場がない。その状況はとてももどかしかった。
「くそっ!」
ジェイコブは壁を殴る。
そこは、マランノファミリーのシマの中ではある。
ただ、ジェイコブが怒りに任せて殴った壁は、どこの何かもわからないビルである。
「落ち着いてくだせえ兄貴」
カレブがジェイコブを諫める。
こんなにも苛ついているジェイコブを見るのは、カレブは初めてであった。
ジェイコブはいつどんな時でも冷静だったからである。
「これが落ち着いてられるか!」
そもそも捜すと言ってもあまり派手に捜せない以上、出来ることは限られる。
情報屋に聞いたり、マランノの構成員が集まりそうなところを捜したりだ。
しかし、マランノの構成員を見つけたからと言って、片っ端から殴って回るわけにはいかない。
デービッドの殺害をきっかけに、マランノが全面抗争を狙っている可能性だってあるのだ。
下手に火種を大きく出来ないのは、ジェイコブにだってわかってはいる。
だからこそ、どうしようもなく苛ついてしまうのだ。
「まあまあ、とりあえずこの辺りはもういいですやね。ヒヒ」
カレブは宥めているつもりだろうが、ジェイコブにはそのカレブの笑いが耳障りであった。
「お前がこの辺りを捜そうと言い出したんじゃないか!」
完全に八つ当たりであるが、それだけジェイコブには余裕がなかったのだ。
その時、ジェイコブの携帯が鳴りだす。
それはマイケルからであり、ジェイコブはすぐさま電話に出た。
『よう、ジェイク』
マイケルの声は微かに反響しており、どこか閉鎖された空間にいるように感じる。
「どうしたんだ?」
『見つけたぜ、エイデン』
その言葉に、ジェイコブは興奮して聞き返した。
「なんだって!どこだ!」
その声は、自然と大きくなってしまう。
『落ち着けって、それがなんと昔モンスターシードの精製所があったところだ。ダッドには先に伝えたよ。近い場所にいたみたいですぐに来るってさ』
当然である。ダッドもジェイコブと同じように、はらわたが煮えくり返っていたのだから。
かつて、デービッドと共に戦ったモンスターシードの精製所は、今はマランノファミリーのシマの内である。
しかし、その場所はジェイコブがいる場所からは遠かった。
「すぐに行く」
それでも、ジェイコブはそう言うと、すぐさま車へと向かって駆け出した。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ兄貴!」
背中にかかるカレブの声を無視し、ジェイコブは走り続けた。




