誘い
「カラーズは、私の手足として動き、必ずやミリアーノファミリーの力となるでしょう」
マイケルの言葉に、会場のざわめきは収まり、歓声が湧いた。
「ありがとうございます。それでは次に、最後の発表となります」
マイケルはそう言うと、壇上で横を向く。釣られて、会場の人間達も同じようにマイケルが向いた方を見る。
その、全員の視線が集まる先に、一人の人物が現れた。
その人物とは、その会場にいる人間が誰もが知る、ダッドの娘であるソフィアであった。
ソフィアはマイケルの側まで歩き、マイケルへと寄り添う。
そして、二人は会場の人間の方へと体を向き直す。
「私、マイケル・ホワイトは、ダッドの娘であるソフィアと婚約致しました」
その言葉を聞いて、今までで一番会場がざわつく。誰も予想だにしていない話だったからである。
しかし、誰か一人が拍手をしだし、次第に拍手は広まっていき、いつの間にか会場は大盛り上がりとなる。
「皆さん、ありがとうございます」
それに対して、ソフィアがマイクを手に取り、感謝の言葉を紡ぎ出す。
「へぇー知りませんでしたや。マイケルの旦那も上手くやりましたねえ」
ジェイコブの隣でカレブが、ボーっと壇上を眺めながら呟いた。
そして、もちろんジェイコブも知らなかった。
だが、
「いいじゃないか。俺は嬉しいよ」
二人を知るジェイコブは、素直に喜び、二人を祝福したのだった。
実は、一番最初に拍手をしたのはジェイコブである。
「それでは、話はこれくらいにしておきまして、引き続きパーティをお楽しみください」
壇上ではマイケルとソフィアが頭を下げて、壇上から降りていった。
その二人に、人が殺到する。
当然だ。このパーティの主役なのだから。
こういった人間達の相手も、また仕事の一環なのである。
つまり、ジェイコブには入り込む余地もなさそうではあるのだが、ジェイコブは焦ってはいなかった。
その理由は言うまでもないが、この後にマイケルに呼び出されているからである。焦る必要などないのだ。
「兄貴。これ旨いですぜ。兄貴の分も取ってきましたよ。イヒヒ」
だからジェイコブは、仕方がなくカレブの相手をしながら時間が経つのを待った。
それは、とても長く感じた。
♦
当たり前だが、時間が経てば解散の時間になる。
参加者が出て行く中で、ジェイコブは言われた通りに待っていた。
カレブもいたのだが、空気読んで帰って行った。流石に邪魔をするほど無粋ではない。
辺りから人がいなくなったころに、一人の男がジェイコブへと近づいてくる。
誰かは言うまでもないし、その男を確認したジェイコブは嬉しそうに微笑んだ。
「よう、待たせたな。ジェイク」
「そうでもないさ」
マイケルは一人であった。
「裏から、外に出るか」
「ああ」
ジェイコブは、マイケルに導かれるままに、外へと向かった。
♦
「ここなら誰もいないな」
二人は歩き続けて、人気のない場所まで来る。
その間は無言であったが、ジェイコブは何から話そうか考え続けていた。
しかし、最初に言う言葉は、やはり一つしかなかった。
「おめでとう、マイク」
最初から決めていた通り、祝いの言葉である。
「ありがとうよ」
その言葉を聞いて、マイケルは嬉しそうに笑う。
予想通りの反応だが、ジェイコブもその笑顔を見ると、とても嬉しくなるのだった。
「実は、驚かせようと思って、全部黙ってたんだけどな。全然驚いてないじゃないか。やっぱりお前はクールだよな」
「そんなことないよ。驚いた」
ジェイコブはマイケルの言葉を否定する。
実際にジェイコブは驚いているのだ。カラーズを立ち上げたことも、ソフィアと婚約したことも、両方ともジェイコブからしてみれば驚愕の出来事である。
しかし、それ以上にマイケルの事が誇らしかったのだ。
「それで、話はそのことなんだけどな。カラーズには、イーサンもマシューもジョッシュも、幹部として入る。ここまで言えばわかるよな?」
そこまで言われれば、鈍いジェイコブにだってもちろんわかる。
しかし、ジェイコブは困ってしまったのだ。
正直に言うと、ジェイコブは、そんなことは全然考えていなかったのだ。
「ジェイクも入ってくれるよな?カラーズに。もちろん幹部だし、俺の右腕になってくれ」
「あ……う……」
ジェイコブは答えられなかった。
少し前なら答えられたかもしれない。
だが、ジェイコブはデービッドに、アンダーボスにならないかと言われたばかりで、それも解決していないのだ。
当然だが、カラーズの幹部と、ミリアーノのアンダーボスは両立することは不可能である。
だから、やはり困ってしまうのだ。
「ジェイク……」
マイケルが何とも言えない表情でジェイコブを見る。
そんな顔をされても、ジェイコブには、マイケルの誘いも、デービッドの誘いも、同じくらい大事な事なのである。
「お前は――お前は、今はデービッドさんの部下だしな――即答はしづらいよな」
マイケルはジェイコブに背中を見せて、夜空を眺める。
空を見上げるその顔は――どんな表情をしているのか、ジェイコブからは見えず、少しジェイコブは不安になる。
「まあ、考えといてくれ」
だが振り返った顔は、いつものにこやかなマイケルの顔であり、ジェイコブは安心する。
「話はそれだけだ。早く戻らないとソフィアが悲しい顔をするからな。今日は一緒に帰らないといけないしな」
そして、マイケルはジェイコブを置いて歩き出してしまう。
「あ、ああ」
ジェイコブはなんとか返事をして、マイケルを追いかける。
会場へと戻るまでの間に、前を歩くマイケルが振り返ることはなかった。




