襲撃直前
そして襲撃の日の夜となる。
モンスターシードの精製所は、アポルネファミリーのシマの中でもスラム街の奥にあった。
作戦開始まではもう間もなくと言うところとなり、ジェイコブとデービッドとカレブは襲撃地点から少し離れたところで車の中で時間が経つのを待っていた。
「ダッドの説得。大変だったな」
デービッドがそう呟いた。
「ええ、予想はしていましたけど、やはり自分も行くと言われましたね」
当たり前だが、三人で来ているわけではなく、ミリアーノの構成員を多く動かしている大規模な抗争である。
どうしてもダッドに話を通さずにはいられなかった。
「アポルネのボスなんて誰かもわかりやせんくらい人前には出ませんけどねぇ……ミリアーノファミリーのボスは別のマフィアの間でも有名ですよ。隠れ武闘派って言われるくらいです」
やはり、武闘派マフィアと言えばマランノファミリーではある。
しかし、ミリアーノもそれなりに武闘派であり、ボスであるダッドも優し気な風貌や性格の陰に隠れた闘争心を持っていると思われているのである。
「だけど流石にそろそろ歳だし、落ち着いてもらわねえとな」
「へぇ、いくつ何ですかい?」
カレブがあまり興味がなさそうに聞く。
「もう50歳だな」
「へぇ~、まあそんなもんですやね」
カレブは特に驚くようなことはない。
遠目に見たダッドの年齢はそれくらいか、もっと上だと思ったからである。
「今回はソフィアの誕生日があったから助かりましたね」
「お嬢様な」
ジェイコブの言葉に、横からデービッドが突っ込む。
しかし、ジェイコブからしてみれば、本人からはソフィアと言われるように言われており、デービッドからはお嬢様と言われるように言われており、板挟み状態で困っているのだ。
「パーティの前に万が一があったら大変だから、って説得で何とかなってよかったぜ」
あるいは、ダッド自身も老いを感じているのかもしれないが、デービッド達にはそれはわからないのだ。
「そういえば、ドンパチやって警察とか来ないんですかい?」
ふと疑問に思ったことをカレブが聞く。
「こんなスラムの奥まで来るもの好きな警官はいねえよ」
デービッドがタバコに火をつけながら言う。
それに、例え来たとしてもミリアーノだと言えばいいだけである。
「そろそろ時間ですね」
カレブが車の時計を確認しながら言った。時刻は、23時55分である。
モンスターシードの精製所は4か所あるため、2か所はマランノファミリーが、2か所はミリアーノファミリーが同時に襲撃する手筈である。
そして、2か所あるという事は2部隊に別れるという事であり、片方はワイアットとマイケルが、もう片方はデービッドとジェイコブが受け持つ形となる。
「まずは先行部隊が突入する。俺達はひとまず待機だ」
これも事前に決めていたことだ。
しかし、抗争と言っても襲うのは製薬所である。
アポルネの護衛がいるはずではあるが、大規模な争いにはならない可能性も大きかった。
「何事もなく終わるといいんですがねえ。ヒヒヒ」
それはその通りではあるのだが、カレブが言うのは何か嫌だとジェイコブは感じる。
「よし、時間だな」
そして時間がやってきた。
デービッドは車を走らせる。少し離れた場所なので、今から向かえばちょうどいいくらいである。
それでも、しばらくすると、遠巻きながら銃声が聞こえだす。
「なんだ?思ったより派手にやってるな」
銃声の数があまりにも多すぎる。
その時、デービッドの携帯が鳴りだし、すぐにデービッドは携帯に出る。
『デービッドさん!一大事です。こいつら――』
中途半端な所で、電話は切れてしまう。
「ああ、くっそ!やっぱ簡単には進まねーな。急ぐぞ!」
そう言ってデービッドはアクセルを踏み込んだのだった。




