ライオン
ショーを始めると言ったエイデンは、ボディガードへと合図を送ると、そのボディガードは急いで1階へと降りていく。
しばらくすると、ステージの檻の中でストリップしていた女達が外へと出て行き、その女達に男達は群がっていく。
そして入れ替わりに、男が一人連れられて、ステージの檻の中へと乱暴に入れられた。
その男の見た目は酷いものである。
髪がなく、歯もボロボロで、裸で、体中から出血していた様子がある。最も、今は血は止まり、乾いているようではあるが。
「あの男は?」
マイケルがエイデンに聞いた。
「まさに今話していた当事者ですよ。ウチのシマでモンスターシードを売り捌いていた愚か者です」
「つまり、アポルネファミリーの構成員ですか?」
「拷問して情報を聞き出したのですが、本人は否定していましたね。窓口になっただけだと。実際のところはどうでしょうね……とにかく情けなく命乞いするものだから、面白くなって生かしてやったのですよ」
その言葉の通りに、男はステージの上で情けなく、「出してくれ」と大声でわめきながら檻を叩いていた。
しかし、マランノの者達は、それを面白がって、逆に外から檻を叩いて驚かして遊んでいる。
その様子を見れば、ジェイコブにも何故ステージに檻が必要なのか簡単に理解できた。
最初はストリップしている女達を守るためかとも考えていたのだが、それだけではなく、人同士を争わせるためにも必要としている檻なのである。
しかし、ジェイコブのその考えすら、完璧な答えではない。
檻の囲まれたステージの中に、追加で、台車で運ばれてきた檻が入れられる。
そして、その檻の中にはライオンが入っていた。
まだ放たれてこそいないが、いつかは裸の男とライオンの戦いが始まるのだろう。
つまりは、これこそがショーなのである。
そして、スピーカーからショーの司会者の声が響きだす。
「へいへい!今日も!馬鹿やってんな糞やろー共!」
その言葉に、ジェイコブ達の目下にいるマランノファミリーは沸く。
「悪趣味だな」
しかしデービッドは、ぽつりと言葉をこぼした。
「そうですか?ウチでは好評のショーなんですがね」
しかし、やはり、エイデンは涼しい顔で流す。
その間にも、ショーは進行する。
「さあ!好きな方に賭けろ!さあ!さあ!10:0だぁー!」
当たり前だ。裸の人間とライオンでは勝負にならない。
だが、何が楽しいのか、マランノの構成員は大笑いをする。
「さて、それじゃあ始めますか」
エイデンがそう言うと、手元のスイッチを入れる。
すると、ライオンを閉じ込めた檻が遠隔操作で開き、ライオンがノソノソと檻から出てくる。
「ちなみにこちらのライオン。三日間食事が与えられていません」
司会の言葉に、マランノの連中はやはり爆笑する。
反して、裸の男は、その言葉を聞いてライオンから出来るだけ遠い位置で震え上がるしかなかった。
ジェイコブは、その様子を何とも言えない表情で眺めていた。
ただ、どう考えればいいのかわからないのである。
別に腹が立つというわけではない。そもそも、ジェイコブ自身も、既にたくさんの人間を殺してきているのだから、今更関係のない他人の生き死にに興味があるというわけではない。
少しは可哀そうだと思う心もジェイコブの中にもあるのかもしれない。しかし、それはジェイコブ自身にもわからないのだ。
だからジェイコブは、ただボーっと眺めているだけであった。
「おおっと!ライオンが餌を見つけてしまったようだ!」
司会者がテンション高く喋る。
餌と言うのはもちろん裸の男の事であり、ライオンはゆっくりと裸の男へと接近しているのだった。
そしてライオンが、まさに今、男に襲い掛かろうとしたその時であった。
「ジェイク。撃っていいぞ」
マイケルのその言葉を聞いた瞬間に、ジェイコブは目のも止まらぬ速さで銃を引き抜き、引き金を三回引いていた。
三発の銃弾は、2階から1階へと駆け抜け、ステージを囲む檻の格子の網目を抜けて、全ての弾丸がライオンの目を打ち抜いた。
そしてライオンは、倒れ込み絶命する。
銃弾が、目を抜けて脳へと達したのだ。
響き渡った銃声に、騒がしかったフロアは一瞬にして静まり返る。
流石のエイデンも、デービッドも驚いた顔をしており、マイケルとジェイコブだけが涼しい顔をしていた。
「ああっと!どこからか飛んできた銃弾がライオンを撃ち抜いたぁぁああ!」
しかし、司会が適当な解説を再開すると、フロアは再び騒がしさを取り戻す。
意外にも、「やるじゃねえか!」とか、「命拾いしたな」とか、好意的なものが多かった。
はっきりと言うと、皆酔っているし、麻薬でイカレている者も多く、なんでもいいのだ。
「すいません。あれもらってもいいですか?」
そんな中、マイケルはエイデンにサラっとそんなことを言う。
ジェイコブは既に、銃を懐に収めて座っていた。
あれと言うのは、もちろん裸の男である。
「え、ええ。まあ別に構いませんよ。盛況のようですしね」
エイデンは気を取り直して、やはり冷静に答える。
「ライオンの方の弁償も、後日送金させていただきます。では」
そう言って、マイケルは頭を下げて下の階へと降りていく。
ジェイコブはすぐさまそれに続き、少し遅れてデービッドも正気に戻って着いて行った。
「やるじゃねえか」
デービッドはマイケルに追いつくと褒める。
敵地のど真ん中で銃をぶっ放したジェイコブではあるが、指示を出したのはマイケルである。
「重要参考人ですよ。マランノファミリーの言う事をそのまま信じていいかわかりませんからね。利用価値はありそうだと思っただけです。それより勢いのままに出てきましたし、とっとと帰りましょう」
そして、三人は檻へと近づき、檻の扉を開けた。
その瞬間に、裸の男がジェイコブの足元へと縋り着いてくる。
「助けていただきありがとうございやす兄貴!俺、一生兄貴について行かせてくだせぇ。ひひ……」
そして、そう言ったのだった。
しかし、兄貴と呼ばれたジェイコブは困る。
「兄貴ってお前……俺より年上だろ?」
「はい!25になりやす!」
ジェイコブが20歳なので、少し年上である。
しかし、裸の男は畳みかけてくる。
「ですが!兄貴に命を救われなかったら今頃ライオンの腹の中でさあ!この命兄貴の為につかわせてくだせえ!くひひ……」
裸の男は卑屈に笑う。
ジェイコブが困っていると、マイケルがジェイコブの肩に手をかけた。
ジェイコブは、マイケルが助けてくれると思い、嬉しそうな顔をする。
「だとよ、良かったな。兄貴」
しかし、マイケルは一言茶化して、そのまま外へと向かった。
「弟分が出来て良かったじゃねえか。兄貴」
更に、デービッドも同じように茶化すと、マイケルの後へと続く。
「イヒヒ。こんなこええとこいられやせん。早く追いましょうや。兄貴」
そして、流れるように仲間に加わる男に、ジェイコブはため息をつくしかなかったのだった。




