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靴磨きの少年

 ジェイコブが生まれてから10年が経った。つまり、ジェイコブは10歳になったのである。

 7歳の頃から母の助けをしたいと考えていたジェイコブは、8歳の時から靴磨きを始めていた。

 何故靴磨きかと言えば、単純に他にやれることがないからだ。

 8歳の子供を雇ってくれるところはないし、何かを売ろうにも元手がなかった。

 だから、使わなくなった、出来るだけ綺麗な布を洗い、靴磨きを始めたのだ。


 スラム街であるドリームヒルストリートでは、靴磨きの客自体も少ないし、悪い大人達から難癖をつけられて売上金を巻き上げられることも多かった。

 だから、スラム街を出たばかりの、表通りで靴磨きを行っていた。

 しかし、世間の目は厳しかった。


「おい!邪魔だ!」


 ジェイコブは、その日も靴磨きをするために、1回1ドルの看板を掲げて、客を待っていた。

 すると突然、高級そうな服を着た太った男に、ジェイコブは蹴り飛ばされた。


「やだあ、可哀想よ。子供じゃない」


 その行為に対して、男の手に纏わりついている女性が、その太った男をたしなめた。

 だが女は、クスクスと笑っているのだ。本気でたしなめているわけではない。


「ふん!子供だろうが関係ない。汚らしいガキがいていい所じゃないんだ!スラムに帰れ!」


 そう言って、男と女は去っていった。

 そんなことをされても、ジェイコブは無言で看板を立て直し、客を待ち続ける。


「おい、そこで犬の糞を蹴ってしまったんだ。頼む」


 すると、客がどかりと足を土台に乗せて来た。


「はい」


 ジェイコブは、どれだけ汚い靴だろうと、文句一つ言わずに綺麗にしていく。

 拭くのに使う布は、娼婦達のゴミ捨て場から拝借したものだ。


「終わりました」

「ふん、ほらよ」


 客は1ドル札をジェイコブに投げると、黙って去っていった。

 靴磨き自体はすぐに終わるが、客は滅多に来ない。

 ジェイコブの見た目がみすぼらしいというのが大きいのだろう。

 だが、それはジェイコブにはどうしようもできないし、ジェイコブには他に出来ることもないから仕方がないのだ。


 そして、夕方になる頃には、1ドル札が10枚。ジェイコブの手元にあるのだった。

 それを持って、ジェイコブは家へと帰るのだ。

 

 ハンナは、ジェイコブが靴磨きでお金を稼いでいるのは知っている。

 最初は反対したが、あまり遅くならない事を条件に許可することで落ち着いた。

 だから、ジェイコブが家に帰ると、ハンナはいつもにこやかに迎えるのだった。


 しかし、その日は違った。

 家の前まで来ると、母の嬌声が聞こえてきたのだ。

 それはつまり、ジェイコブが帰ると、もう母の仕事は始まっていたのだ。

 そしてそれは、いつもより早いのだった。


 だが、夜になれば、嫌でも母は隣で仕事をするのだし、待っても仕方がない。

 だから、ジェイコブが黙って家へと入ると、太った男が裸の母の上に被さり、母はその下で嬌声を上げていた。

 太った男は、ジェイコブを一瞥すると、舌打ちをした。


「ちっ!タイミングがわりいな」


 この太った男をジェイコブは知っていた。

 最近、随分と母に入れ込んでいる男だ。

 週に何度も来るのである。

 だが、この男は、ジェイコブの事は気に食わないようであった。

 そして、ジェイコブの方も、何故だか男の事はあまり好きではなかった。


「あん!そんなこと言わないでよジェームズ」


 男の名前はジェームズと言う。

 メリカ王国で言うなら、一番多い名前であるし、本名かどうかは怪しいところである。


「俺はガキは嫌いなんだよ」


 そう言うと、ジェームズは、カーテンを閉め切ってしまう。

 それでも、カーテン越しに影が映り、ジェームズとハンナが繋がり合っているのは見える。


「あああああ!」


 そして、ハンナの影が上となり、ハンナが大きい声を上げて、再びジェームズへと奉仕を始めるのだった。


 今は相手がジェームズであるというだけで、それは母と子が生きていくために毎晩行われている行為であり、ジェイコブはその行為自体は特段嫌だとは考えない。

 

 しかし、それとは別に、母に迎えてもらえなかった事が、ジェイコブとしては少し残念だったのだ。

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