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鉄の掟

 最初に呼び出されて以来、ジェイコブは何度かデービッドに呼び出され続けていた。

 と言っても、最初のように銃撃戦になることは少なく、ただデービッドの横に立っているだけで終わることもしばしばあるくらいであった。

 それは大きい争いがないという事でもあり、さらに言うならここニューシティでは、三大マフィアがそれぞれ力を持っており、その均衡は崩れていないという事でもある。


 その日も、ジェイコブはモニタールームでライアンやマイルズと門番の仕事をしていたのだが、デービッドに呼び出されたのだった。


「またアンダーボスに呼び出されたのか?」

「ああ」

「死ぬなよ」


 もう二人も送り慣れたものではあるが、死ぬなよというのは本心である。アンダーボスであるデービッドに着いて行く事が危険なのを、それだけ理解しているからである。


「じゃあ行ってくる」


 しかし、そんな心配をよそに、ジェイコブはさらりと出て行くのだった。

 


     ♦



 そして、いつものようにデービッドの車に乗り込み、街を走っていた。


「ジェイク。そろそろ運転覚えろよ」


 デービッドは結構お喋りであり、車に一緒に乗っていると、よくジェイコブに話しかけてくるのであった。


「でも免許が……」


 そもそもニューシティでは免許は16歳からしか取れないので、15歳のジェイコブには免許を取ることは不可能だった。


「馬鹿かお前?マフィアがルール守ってどうすんだよ。免許なんていらねえよ。警察に止められたらミリアーノファミリーの名前を出せばいい」


 そうは言うものの、デービッドは一応正式な免許証を持っているのだった。


「でも練習する方法がないので……」

「それもそうか。ダッドの家にサーキットでも作ってもらうべきだったな」


 意外にもデービッドはあっさりと引き下がり、冗談まで飛ばす。

 そもそもデービッドほどの地位にもなれば、部下に運転させるのは容易いことである。

 それをせずに本人が運転をしている辺り、デービッド自身が車の運転を嫌いではないからでもあるのだ。


「今日は、お前の仲間がいる所に行くぞ」

「え?」


 突然言われた言葉に、ジェイコブは困惑する。


「名前は忘れたが、一部の金の流れを扱っているところだ」


 それは、間違いなくマイケルのところである。


「マイケルですか?」

「そうそう、そんな名前だったな。顔は思い出せないけどな」


 そもそもデービッドとマイケルはかなり前に一度会ったきりである。覚えていなくても仕方がない。


「なにをしに?」


 しかし、ジェイコブからしてみれば、それがもっとも重要であった。


「前から何度も言っているが、ミリアーノファミリーで最もやってはいけない事は裏切りだ」


 急にデービッドが語りだした。ジェイコブからすれば、それは何度も聞いた話ではある。


「そりゃあどこでだって裏切りは禁止さ。だけどアポルネファミリーよりも、マランノファミリーよりも、何よりもうちの裏切りに対して厳しい。どこよりもうちは家族の絆を大事にしてるんだ」


 しかし、今この場でこの話を出されるのは、とても不穏である。


「ここまで言えばわかるな?ジェイク?」


 ジェイコブは嫌な予感を感じ唾をのみ込んだ。


「そのマイケルってやつ――のところで裏切り者がでた」


 デービッドはとても含みのある言い方をした後に、勝手に小さく笑い出した。

 それはつまり、ジェイコブを驚かしただけということに他ならない。


「驚いたか?」

「少しだけ」


 まさかマイケルに限って、そんな考えが少しはあったのは事実である。

 しかし、ジェイコブは同時にマイケルを信じてもいたのだ。


「着いたぞ」


 そして車が止まった先は、事務所と言うよりはアパートのような場所であった。

 

 やはり、ミリアーノの構成員がその建物の下におり、車から降りたデービッドへと駆け寄る。


「こちらです」

「おう」


 そして、案内されるがままにデービッド達はアパートへと入っていき、その中の一室へと更に入る。


 その先にいたのは二人の男である。

 片方はジェイコブも良く見知った男。マイケルである。

 そしてもう片方は、全裸で縛られた全く知らない男であった。


「おい」


 デービッドがマイケルの方を向いて呼びかける。その顔は少し変な顔をしていた。


「はい?なんでしょう?」


 異変に気付き、マイケルも少し困った顔で返事をする。


「こいつはなんで全裸なんだ?」

「はい!服も多少の足しになるかと思いまして脱がせました!」


 マイケルはニコニコとしながら答えた。

 この男は、組の金を盗んだため、その足しにするためにということである。

 

「なんだ。そう言う事か。てっきりお前の趣味かと思って焦っちまったぜ」


 デービッドが安堵したように溜め息をつく。


「ははっ!俺はノーマルですよ」


 マイケルは楽しそうに笑う。機嫌がいいのだ。


「あ、あの……」


 全裸で縛られた男が小さく声を出した。

 その瞬間、マイケルがその男を蹴り飛ばした。


「誰が声出していいって言った?」


 マイケルの顔は先ほどまでと打って変わって、とても冷徹な顔であった。


「まあ、落ち着けよ。よくやったマイケル。よく報告してくれたな。それにしたって少し手際が良すぎるのは気になるけどな」


 今回、組の金に手を出した裏切り者の報告をし、捕え、金目の物を押さえたのは全てマイケルがやったことである。

 ただ、そのあまりの都合の良さに、デービッドは不信感をあらわにした。


「アンダーボスのお手を煩わせてはいけないと思いまして。事前に準備したのです」


 それに対して、マイケルは飄々と答える。


「ちっ!まあいいか」


 そしてデービッドは、全裸の男の側に行く。


「おい、鉄の掟はわかっているな?」

「は、はい……」


 男は震えながら答える。


「マフィアになる人間なんてクズしかいねえ。だけどどんなクズでも、家族だけは裏切っちゃあいけねえよな?」

「は、はい……」


 男は下を向いたまま、デービッドの顔も見ようとしない。それだけ恐ろしいのだ。


「じゃあ選ばせてやる。自分でやるか、俺にやられるかだ」

「た、助けてください……」


 男は小便を勢いよく漏らしながら命乞いをしだした。


「わかった」


 そして銃声が鳴り響く。

 デービッドが男を撃ったのだ。

 弾丸は、男の心臓を貫き即死させた。


「何度も言うようだが……」


 デービッドが男の死体から、マイケル達の方を向き直す。


「こうなりたくなかったら、家族は裏切るなよ」


 そして、釘を刺した。


「はい!もちろんです!なっ?ジェイク」


 マイケルは威勢よく返事をすると、ジェイコブの肩に手を乗せる。


「もちろんです」


 それにジェイコブは当然続いたのだ。


「絶対にミリアーノファミリーは裏切りません」

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