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初めての殺し

 それは、いつも通りジェイコブが銃の訓練をしている日の事だった。

 訓練場のドアが開き、デービッドが姿を現す。


「よう、やってるな」


 そして、気さくにジェイコブに話しかけて来たので、ジェイコブは軽く会釈をして返した。


「もう当たるようにはなったな」


 デービットは機械を動かして、紙の的を手元へと引き寄せる。

 的には、しっかりとジェイコブが撃った分だけの穴が空いていた。

 と言っても、まだ人が印刷された場所に全て当たっているというわけではなく、端の空白の部分にも当たっているので、まだ一人前とは言い難いだろう。


「じゃあ行くぞ」


 それだけ言うと、デービッドはジェイコブを置いて歩き出した。

 ジェイコブは、デービッドが外に出るまで、ぼーっと見ていたのだった。


「っておい!着いて来いよ!」


 しかし、すぐにデービットは戻って来て、ジェイコブを叱った。


 そこまで来て、ようやくジェイコブはデービッドが言ったことを理解する。


「あの……」


 しかし、ジェイコブはまだ勤務中であり、空き時間に銃の訓練をしに来ただけなのだった。


「ああ、もうあいつらには話をつけてある」


 そしてやはり、それだけ言ってデービッドは歩き出してしまう。

 ジェイコブは、その後を急いで追ったのだった。


 デービッドの後をついて行くと、車が置いてあり、


「乗れ」


 と言われたので、言われた通りにジェイコブは車の助手席に乗る。

 そして、デービッドの運転で車は走り出した。


 車は、いつもジェイコブがいる門を通り過ぎ、街へと出て行く。

 ジェイコブは、実のところ車に乗るのは初めてであった。

 しかしはしゃぐこともなく、黙って、なんとなく外を眺めていた。


「あっ!そういや、ちゃんと銃持ってきたよな?」


 そう言われても、ジェイコブは自分の銃を持っていない、訓練所で使っているのは、備え付けてあるものだった。

 そして、それと同時に、行き先も告げられていなかったが、これから向かう先には銃が必要だと暗に言っているのと同等だった。


「いえ……」

「なんだよ、仕方ねえな……」


 そう言うと、デービッドは片方の手で運転しながら、もう片方の手でくるくると銃を回しながら出して、ジェイコブの方へとグリップを向けた。


「ほらよ」


 言われるがままに、ジェイコブはその銃を受け取る。


「無くすなよ。俺のお気に入りなんだ」

「はい」


 そう言われると、流石のジェイコブも緊張してしまうのだった。


「さて……」


 デービッドはタバコに火をつけて吸いだす。


「ここ、ニューシティは広い。メリカ王国の中でも一番広い。そのニューシティを牛耳っているマフィアが三つある事は知っているな?」


 その問いに、ジェイコブは首を振った。


「それくらい知っとけ……ニューシティの三大マフィア。その一つは、もちろん俺達ミリアーノファミリーだ。そして、もう一つはアポルネファミリー。最後にマランノファミリーだ」


 ミリアーノファミリー以外の名前をジェイコブは知らなかった。

 しかし、知っていないといけない事なのは間違いないので、忘れない様に記憶する。


「アポルネは比較的友好的なんだが……あっ、友好的って言っても、比較的ってだけだ。敵だからな」


 デービッドは念のため釘を刺しておく。


「ただ、マランノははっきり言って過激派だ。うちとの衝突は絶えない」


 ここまで話されれば、ジェイコブにも話が見えて来た。


「今から俺らのシマで好き勝手に薬の商売をしてたマランノの連中を殺しに行くってわけだ。ただでさえ、うちのシマを荒らしてるのに、うちでは禁止の薬まで売りさばかれちゃ面目立たねえ」


 殺す。と聞いても、ジェイコブは特別、何か思うところはなかった。


「そういや、人を殺したことは?」


 その問いに、ジェイコブは少し迷う。


「……あります」


 殺したというよりは、相手が勝手に死んだからだ。


「なんだ。じゃあいいか。頼むぞ」


 15歳のジェイコブに人殺しの経験があることに、デービッドは何も突っ込まなかった。

 スラムで生きて来たなら、それくらい普通であるからと考えているからである。


 それから車は走り続け、目的地へと辿り着くと止まった。


「着いたぞ」


 デービッドが車から降りると、近くにいたミリアーノの構成員が走って来る。


「アンダーボス!お疲れ様です!」


 そして、深々と頭を下げた。


「おう」


 デービッドは軽く、手を挙げて返事をする。


「包囲完了しています」

「よくやった。じゃあ、今から10分経ったら突入しろ」

「はい!」


 そして、ミリアーノの構成員は走っていった。


「じゃあ、俺らも行くぞ」

「はい」


 その様子を静かに見ていたジェイコブは、やはり静かに返事をして、デービッドに着いて行くのだった。


「まっ!俺も鬼じゃねえ。今日は裏口の見張りだ」


 デービッドは少しの時間をかけて歩き、ジェイコブを裏口へと導く。

 当たり前ではあるが、何の変哲もない建物に着いている、何の変哲もない扉である。


「運が悪けりゃ、敵が来ないだろう」


 デービッドからしてみれば、ここまで来て、何もなく帰るなどつまらないことである。

 だから、運が悪ければと言ったのだ。


「ダッドは来るんですか?」


 ふと、ジェイコブが訪ねた。


「来るわけないだろこんな小さい争いに。ていうか危ねえから構想には出張ってほしくないんだよ。でも、大きい抗争になると、ダッドは行くって聞かなくてよ」


 それはつまり、こないだの争いは、大きい抗争だったということである。


「さて、時間だな」


 デービッドが時計を確認して少しすると、建物の中から銃声が聞こえて来た。

 デービッドは暇そうに頭に手を当てて、壁に寄りかかってくつろぎだす。

 それは、自分は手を出さないという意思の表示だとジェイコブは感じ、裏口の側で銃を構えて敵を待ち構えた。


 そして、いつしか建物の中から銃声がやんだ。

 それでも、ジェイコブは銃を降ろしたりはしなかった。


 待ち続け、そしてついに、裏口が開くと、男が一人だけ裏口から飛び出してくる。


 その瞬間、何度か轟音が響き渡り、男の体に銃弾が命中し、血を流しながら男は倒れた。

 ジェイコブが撃ったのだ。


 デービッドが、ひゅーっと口笛を吹く。


「もう少し迷うかと思ってたぜ」


 ジェイコブは冷たい目で、銃を構えたまま男に近づき、倒れている男を足でひっくり返す。

 そして、絶命している事を確認する。


 その時、たくさんの足音が建物内から聞こえ、裏口へと男達がやってきた。

 確認するまでもなく、ミリアーノの構成員だと判断し、ジェイコブはやっと銃を降ろした。


「お手を煩わせてすいません。アンダーボス」


 死体を見て、ミリアーノの構成員の一人が言った。


「いや、やったのはそいつだし、ちょうどよかったよ。終わったのか?」

「はい」

「そうか。じゃあ、あとの処理は頼む。帰るわ」


 デービッドは頭に置いていた手をポケットに突っ込み歩き出すが、ジェイコブは迷う。

 自分もただのミリアーノの構成員の一人なのだから。


「お前も来るんだよ」


 そう言われてやっと、ジェイコブは急いでデービッドの後を追ったのだった。


 そして、来た時と同じように車に乗る。


「あの……」


 道中でジェイコブは、借りていた銃を差し出した。


「ああ、やるよ。今日は良く出来てたぞ。また頼む」


 その何気ない言葉全てが、ジェイコブには嬉しかった。お気に入りと言っていた銃をくれたことも、褒められたことも、次があることもだ。


「ありがとうございます」

「ふっ……ホルスターは自分で買えよ」


 そんな純粋に喜ぶジェイコブを見るデービッドもまた、楽しくてしょうがなかったのだ。

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