エミリーの夢
ジェイコブとエミリーの二人は、大通りにやって来た。
「今日はジェイクにお願いがあるんだけど」
そして、エミリーはそう切り出した。
ジェイコブには、あまりそう言ったお願いをエミリーから言われた記憶がない。
だが、どんな願いだろうと、仲間からの願いであるなら断る理由など、ジェイコブにはなかった。
「なんだ?」
「携帯を買って欲しいのよ。今日給料をもらったってマイクが言ってたから。いつもマイクを通して連絡してたらマイクだって忙しいから大変でしょう?」
そしてそれは、ジェイコブからしてみれば断る理由のない願いであった。仲間といつでも連絡が取れるのは大事な事なのだから。
「そういえば口座を作って来いって言われたな」
「そうなの?じゃあ口座を作って、それから携帯を買いに行きましょう?身分証明書はあるわよね?」
身分証明書はあるというか、ミリアーノが偽造してくれたものがあった。
その辺りも、エミリーはマイケルから聞いてあったのである。
「ああ」
「じゃあ行きましょうか」
エミリーが先導して、ジェイコブが付いて行く。
昔は、エミリーはこんな感じではなかった。もっと物静かであった。しかし、ジェイコブと触れていくうちにこうなったのである。
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それから、ジェイコブの銀行口座を作り、携帯を購入したころには、それなりの時間が経ってしまい、二人は夕食を取るために安いファーストフードの店へと入っていた。
「私ね、学校に行くことになったの」
「へぇ」
「ママが、あの男と別れてから裁判を起こしてて、慰謝料ふんだくったみたい。驚きよね。あの、私が殴られてるときも部屋の隅で震えていただけのママがさ……」
エミリーに遠い目でそう言われると、流石のジェイコブもなんて返していいかわからずに口をつぐんだ。
「でもママは私がいなくなってから、凄く後悔したんだって、だからすぐにあの男と離婚して、すぐに裁判をした。それで私とやり直そうと思ったんだけど、その時には、私がどこにいるかもわからなくって困ったみたい」
「じゃあ」
「うん、ジョッシュとマイケルがママを見つけてくれて良かったのよ。それで、今からでも遅くないから学校に行こうって言われたの」
それは、とても丸く収まっているという事で、凄く良いことであるとジェイコブは考える。
「良かった」
だから、素直に気持ちを伝えた。
その素直な言葉に、エミリーは顔を赤くする。
「うん。私は学校に行って、大学にも行って、医者を目指すわ」
これが、今日エミリーが、ジェイコブに伝えたかったことである。
「医者?」
「だってみんな無茶するじゃない。だから、みんなが怪我した時に、私が治して上げるの」
ジェイコブはとても感心する。
何故なら、ジェイコブは先の事など微塵も考えていなかったからだ。
「エミリーならなれるよ」
「ふふ……ありがとう。頑張るわ」
そんなとりとめのない話を続けながら、二人は食事をする。
「ジェイコブは何の仕事を任されたの?」
「俺は門番だ」
「門番?」
「ダッドの家の門番」
「へぇ、危ないの?」
「いや、全然」
「そう、それなら安心だわ。あら、もうこんな時間ね」
そして、いつしかいい時間になってしまう。
「母さんが心配するのよ。極端よね」
エミリーはこれからホワイトライトストリートで花の受け取りだってしないといけないし、ジェイコブもここから帰るのには時間がかかる。
だから、今日はお開きというわけである。
「じゃあ」
「うん。私の番号登録しといたから、絶対に電話してね」
エミリーは釘を刺して置く。そうしないと、ジェイコブは平気で数週間も連絡してこないと思っているからだ。
「ああ、わかった」
「ふふ……絶対よ。じゃあまたね」
そして、そのジェイコブの返事が嬉しかったのか、エミリーは微笑みながら手を振る。
それにつられてジェイコブも手を振り、二人は別れたのだった。




