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教会

 休日になると、ジェイコブは必ず射撃場へと向かっていた。

 理由は単純で、自分の銃の腕前が上がれば、それがマイケルの助けになると思っているからである。


「おう、ジェイク。いつもみたいに射撃場か?」


 外に出ようとすると、ライアンが話しかけて来たので、ジェイコブは頷いた。


「たまには別の所に行ったらどうだ?」


 そう言われても、ジェイコブは困る。

 目的もなく、どこかへ行く事なんて、今までなかったからだ。


「例えば教会とかどうだ?」


 何故かはわからないが、ダッドの広い敷地内の中には教会まであるのだ。

 意外とダッドは信心深いのだろうか?とジェイコブは考える。

 しかし、ジェイコブはこの敷地内の教会はおろか、生まれてこの方教会など一度も行ったことがないのだ。


「行ったことないんだ」

「教会にか?一度も?」


 ライアンが驚き、聞き返してくる。

 メリカ王国には、敬虔なリスト教徒が多い。

 なので、教会に一度も行ったことがない人間は珍しいのだ。


「じゃあ行ってくるといい。いい経験になるだろう」


 正直に言うと、ジェイコブからしてみれば興味が全くない。

 だが、ジェイコブは教会に行ってみることにした。

 特に理由はない。ライアンに後押しされたから、それだけだ。

 


     ♦



 とにかく広い敷地を歩き、ジェイコブは教会へと着いた。

 そして驚く。

 教会の裏手の、墓地の広さに。


 遠くから眺めた時には、別の建物の影となっていて気が付かなかったのだ。

 そしてこれこそが、マフィアのボスの家に教会がある理由である。


 ジェイコブは教会に来たわけだが、教会へと入らずに、墓地の方へと歩いて行く。

 それは、偶然見つけてしまったからである。

 ある人物を。


「あの……」


 ジェイコブは、その人物の元まで行くと、迷うことなく声をかけた。


「こんにちは、ジェイコブ君」


 その人物――ファミリーの父親であるダッドは、墓からジェイコブの方へと向き直すと、微笑みながら挨拶を返してきた。

 そして、ジェイコブからしてみれば驚きである。

 一度聞いただけの自分の名前を、ダッドが覚えていることがだ。


「名前を憶えられていたことを驚いているのかね?私はミリアーノファミリーの構成員の名前は全部覚えているよ。何故なら私はダッドであり、全員私のチルドレンなのだから」

「凄いですね」


 そうとしか言えない。


「それより、どうしたんだね。こんな何もない所に」


 別に言いにくい理由があるわけでもないが、ジェイコブは何と言えばいいか困ってしまう。


「散歩です」


 そして、考えた末に出した答えはそれだった。


「ははっ!そうか。私はね、たまにこっそりここに来るんだよ。ここに眠っている多くの者は私の子供達だからね」


 そう語るダッドの顔は、本当に悲しそうであった。それはまるで、我が子の死を悼むようである。


「どうだね、ミリアーノファミリーは?」


 ダッドが話を変えてくる。

 そう言われても、ジェイコブは困る。いいところだとは思うが、まだ1週間しか経っていないのだ。まだ何もやっていないのだ。


「わかりません」


 そう答えると、


「ははっ!ジェイコブ君は素直だな。気持ちがいいくらいだ」


 ダッドはまた笑ったのだ。


「おっと失礼。馬鹿にしたわけではないのだ」


 もちろんジェイコブはそうは思っていないし、不快にも感じてはいなかった。


 それから、少しだけジェイコブとダッドは喋った。

 ジェイコブの幼少期の話とか、カラーズの仲間の話とか、そういうのだ。

 ダッドはミリアーノについて色々とジェイコブに教えた。


「さて、そろそろ戻らないと部下たちが心配するな」


 しかし、それは少しの時間であり、全部は全く話しきれない。


「あの……また来ていいですか?」


 だから、ジェイコブはそう尋ねる。


「ははっ!もちろんだとも――と言いたいところだが、私は牧師ではなくてね。忙しいからたまにしか来れないんだ」

「それでも――来ます」

「そうかい。では会えた時にはまた話そう」

「はい!」


 そんな曖昧な約束をして、ダッドは去っていった。

 そして、そんな曖昧な約束でも、ジェイコブはとても嬉しかったのだ。

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