教会
休日になると、ジェイコブは必ず射撃場へと向かっていた。
理由は単純で、自分の銃の腕前が上がれば、それがマイケルの助けになると思っているからである。
「おう、ジェイク。いつもみたいに射撃場か?」
外に出ようとすると、ライアンが話しかけて来たので、ジェイコブは頷いた。
「たまには別の所に行ったらどうだ?」
そう言われても、ジェイコブは困る。
目的もなく、どこかへ行く事なんて、今までなかったからだ。
「例えば教会とかどうだ?」
何故かはわからないが、ダッドの広い敷地内の中には教会まであるのだ。
意外とダッドは信心深いのだろうか?とジェイコブは考える。
しかし、ジェイコブはこの敷地内の教会はおろか、生まれてこの方教会など一度も行ったことがないのだ。
「行ったことないんだ」
「教会にか?一度も?」
ライアンが驚き、聞き返してくる。
メリカ王国には、敬虔なリスト教徒が多い。
なので、教会に一度も行ったことがない人間は珍しいのだ。
「じゃあ行ってくるといい。いい経験になるだろう」
正直に言うと、ジェイコブからしてみれば興味が全くない。
だが、ジェイコブは教会に行ってみることにした。
特に理由はない。ライアンに後押しされたから、それだけだ。
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とにかく広い敷地を歩き、ジェイコブは教会へと着いた。
そして驚く。
教会の裏手の、墓地の広さに。
遠くから眺めた時には、別の建物の影となっていて気が付かなかったのだ。
そしてこれこそが、マフィアのボスの家に教会がある理由である。
ジェイコブは教会に来たわけだが、教会へと入らずに、墓地の方へと歩いて行く。
それは、偶然見つけてしまったからである。
ある人物を。
「あの……」
ジェイコブは、その人物の元まで行くと、迷うことなく声をかけた。
「こんにちは、ジェイコブ君」
その人物――ファミリーの父親であるダッドは、墓からジェイコブの方へと向き直すと、微笑みながら挨拶を返してきた。
そして、ジェイコブからしてみれば驚きである。
一度聞いただけの自分の名前を、ダッドが覚えていることがだ。
「名前を憶えられていたことを驚いているのかね?私はミリアーノファミリーの構成員の名前は全部覚えているよ。何故なら私はダッドであり、全員私のチルドレンなのだから」
「凄いですね」
そうとしか言えない。
「それより、どうしたんだね。こんな何もない所に」
別に言いにくい理由があるわけでもないが、ジェイコブは何と言えばいいか困ってしまう。
「散歩です」
そして、考えた末に出した答えはそれだった。
「ははっ!そうか。私はね、たまにこっそりここに来るんだよ。ここに眠っている多くの者は私の子供達だからね」
そう語るダッドの顔は、本当に悲しそうであった。それはまるで、我が子の死を悼むようである。
「どうだね、ミリアーノファミリーは?」
ダッドが話を変えてくる。
そう言われても、ジェイコブは困る。いいところだとは思うが、まだ1週間しか経っていないのだ。まだ何もやっていないのだ。
「わかりません」
そう答えると、
「ははっ!ジェイコブ君は素直だな。気持ちがいいくらいだ」
ダッドはまた笑ったのだ。
「おっと失礼。馬鹿にしたわけではないのだ」
もちろんジェイコブはそうは思っていないし、不快にも感じてはいなかった。
それから、少しだけジェイコブとダッドは喋った。
ジェイコブの幼少期の話とか、カラーズの仲間の話とか、そういうのだ。
ダッドはミリアーノについて色々とジェイコブに教えた。
「さて、そろそろ戻らないと部下たちが心配するな」
しかし、それは少しの時間であり、全部は全く話しきれない。
「あの……また来ていいですか?」
だから、ジェイコブはそう尋ねる。
「ははっ!もちろんだとも――と言いたいところだが、私は牧師ではなくてね。忙しいからたまにしか来れないんだ」
「それでも――来ます」
「そうかい。では会えた時にはまた話そう」
「はい!」
そんな曖昧な約束をして、ダッドは去っていった。
そして、そんな曖昧な約束でも、ジェイコブはとても嬉しかったのだ。




