新天地
マイケルと別れたジェイコブは、知らない土地へと向かう。
歩いて行くには遠すぎるため、ジェイコブはバスに乗る。
ジェイコブがバスに乗るのは、その日が初めてであった。
何故なら、幼少期はドリームヒルストリートから出ることはなかったし、カラーズでも、そう遠くまで行く必要がなかったからだ。
しかし、遠いと言っても、バスで移動できる程度の距離であり、そのことに対して、ジェイコブは安堵するのだった。
いつでも、仲間と会える距離だからだ。
バスに一時間ほど乗って降りると、今度は数十分ほど歩き、ジェイコブは目的地へと辿り着いた。
そこは門である。
威圧感のある門ではなく、お洒落な鉄格子の門である。
そして、門の先、遥か遠くに家が見えている。
つまり、一般的な門ではなく、とても大きい門なのだ。
門から先は、塀で囲まれており、大きい門の隣には、人が通れるような通用門と、また別に普通の扉が取り付けられている。所謂長屋門である。
ジェイコブは、普通の扉の横についたインターホンを押した。
すると、扉から男が二人出てくる。
しかし、その手には銃が握られており、扉から出るとすぐに、ジェイコブの胸へと銃を押し当てられたのだ。
「動くな!何者だ?ここがミリアーノファミリーのボスの家だと知って来たのか?」
当然、ジェイコブはそんなことは知らない。
しかし、銃を胸へと押し付けられても、ジェイコブは全く焦りもせずに、相手の男を睨み返したのだ。
「ぷっ……」
銃を押し付けてない方の男が噴き出し、
「ハハハハ!」
一気に笑い出した。
「おいおい!早すぎだろ、ライアンの旦那」
そして、銃をジェイコブに押し付けている方の男も、笑い出したのだ。
「いや、悪い。そいつが随分と度胸があるからよ」
そう言って、ライアンと呼ばれた男は、ジェイコブへと手を差し出した。
「悪いな。新人が来ると言われて、お前を試させてもらった。いい度胸だな。ライアン・スコットだ」
「ジェイコブ・ブラウンです」
差し出された手をジェイコブは取る。
「マイルズ・スコットだ」
そして、銃を手早く収めて、代わりに手を出してきた男とも、ジェイコブは握手をした。
「若いって聞いてたけどでかいんだな。額に当ててやろうと思ったけど、思ったより高かったからやめたぜ。20歳くらいか?」
マイルズがジェイコブに問い、
「15です」
ジェイコブは素直に答えた。
「マジかよ!俺の半分じゃねーか!」
マイルズは30歳のようである。
「ライアンの旦那の10分の1だぜ!」
「おい!俺は化け物か!?」
それは冗談ではあるが、ライアンはかなりの年配であり、ジェイコブの目から見ても、60歳は越えていそうであった。
「爺でマフィアが珍しいか?」
ライアンが問うてきたが、ジェイコブは首を振る。
「ミリアーノファミリーは古いマフィアだ。爺もたくさんいるぞ」
「つっても、ライアンの旦那は若い頃からずっと下っ端だけどな」
「てめぇ!この野郎!」
マイルズがおちゃらけると、ライアンがマイケルの肩に手をまわしてどやした。
その様子に、ジェイコブはすこしだけ微笑む。
「やっと笑ったか。ていうかお前、全然喋らねーな。なんだ?クールが売りか?」
「そういうわけでは……」
「まあ、まだ会ったばかりだ。そのうち口数も増えるだろう?な?」
そう言われても、ジェイコブは困ってしまう。
「努力します」
だから、精一杯そう答えたのだ。
「立ち話もなんだ。中へ入ろう。そろそろ時間だしな」
そう言って、ジェイコブは門の隣にある扉の中へと案内された。
扉の中は普通の建物である。
「上が俺達の住むところで、下はモニター室とか電気室とか倉庫だ」
ライアンは説明しながら、入り口のすぐそばの部屋へと入った。
その部屋には、たくさんのモニターがあり、外の様子が映し出されていた。
「もうわかっていると思うが、俺達の仕事は門番だ」
その仕事を、ジェイコブは喜んでいいのか、どうとらえればいいのかわからなかった。
「まあ、平和な仕事だよ。俺が来てから10年一度も何も起こってないからな」
そう言われると、気楽なのかもしれない。
「そもそも、ここはミリアーノファミリーの街だからな。敵対組織なんて入れねえ。それに、ここは一つ目の門だ。ここの後ろにも三つ目まで門がある。襲撃しようって馬鹿はいねえよ」
まさに厳重な警備というわけである。
巨大なマフィアのボスともなれば、これくらい当たり前なのかもしれない。
その時、電話の音が鳴り響いた。
「ちょうど来たな」
ライアンが言うと、備え付けてあった電話を取った。
「はい。ええ、問題ありません。それでは」
それだけ言うと、ライアンは電話を切る。
「じゃあ押すぞ」
「ああ」
今度はマイルズがそう言うと、ライアンが了承をした。
マイルズがモニターの下にある操作盤の、いくつもあるボタンの中から、一番大きいボタンを押す。
すると、一番大きいモニターに映し出されている、大きい門が開いていった。
「そろそろだな」
少し経ってからライアンがそう呟くと、開いた門を車が通っていくのがモニターに映る。
「よし」
再びマイルズがボタンを押すと、門は閉まった。
「今のはダッドが乗った車だ」
ライアンが解説する。
「ぶっちゃけ、俺達の仕事は実質これだけだな。もちろん監視もするが、さっきも言った通り、なーんも起きやしねえ」
「おい、油断するなよ」
「へいへい」
ライアンが注意するが、マイルズのその様子は、油断しかない。
しかし、実際に10年間何もないというのなら仕方がない事である。
「魔導監視カメラの切り替え場所とかの操作は、まあやってれば覚えるだろう。ダッドが通る時に扉を開ければいい。と言っても、もちろん向こうからも開けるんだけどな」
先ほどマイルズは、扉を開けるのが唯一の仕事と言ったのだが、それすら別にここでやる必要はないということである。
「さて、じゃあ案内の続きをしよう」
ライアンがそう言って席を立った。




