抗争
マイケル達は急いで廃ビルの階段を下り、ボブの元へと向かった。
ボブは仰向けに空を見上るように倒れており、しかしその体からは、思ったほど出血はしていなかったし、それに――
「良かった!生きてる!」
息もしているのだった。
「うるせえぞ……ガキ共……」
それに、意識もあるようであった。
撃たれたであろう傷は、肩のみであり、そのため出血は酷くなかった。むしろ4階から落ちた傷の方が重症である。
そしてそれは、間違いなく生死に関わる傷であり、ボブは喋るのも苦しそうである。
「今、病院へ――」
「やめろ……」
そう言いながら携帯を取り出したマイケルを、ボブが制止する。
「ギャングがいけるわけねえだろ……」
そんな事は言っていられない状況ではないが、ボブは否定する。
「話は聞いていた……俺になんてかまうな……早く行け……」
「でも!」
話しの真偽だってわからないのだし、マイケル達には、ボブを置いていく事には抵抗があった。
「餞別だ……持っていけ……」
そう言って、ボブはマイケルに銃を渡す。
「……わかりました」
余りにも頑ななボブの様子に、マイケルは決断した。
「行くぞ」
マイケル達は走り出す。
振り向くことはしなかった。
その姿を、ボブは満足げに見送ったのだ。
♦
ジャクソンの隠れ家から、カラーズのアジトまではかなり遠い。
走りながら、マイケルは携帯で、アジトにおいてある携帯に電話をかけるが、誰も出ない。
「本当に抗争なんて起きてるのかな?」
ヤクザやらギャングやらマフィアやらの抗争など、そうそう起きるものではない。
だから、マイケル達は、ジャクソンの言葉は嘘ではないかと思っていたのだ。
「わからない。だけど……」
誰も電話を取らないのはおかしいのだ。
それは、マイケル達を心配させるのには、十分な理由だった。
「ジェイク。これ持っといてくれ」
マイケルが、ジェイコブに銃を投げ渡した。
ジェイコブは、それを受け取りはしたものの、困惑する。
それは、自分が持っていていいのかという考えである。
「お前が一番射撃が上手そうだ」
そのジェイコブの考えを見抜いて、マイケルはそう付け足した。
「確かにな」
「ジェイコブは見かけによらず繊細だからな」
イーサンとジョシュアもそれに賛成する。
ジェイコブは銃など撃ったこともないが、仲間からそう言われると、不思議と銃を持つことがしっくりくるような気がするのだった。
♦
マイケル達は走り続け、ついにカラーズの小屋の近くまでやって来る。
この頃になると、どこからか銃声が聞こえ始め、実際に抗争をやっていることを疑う事は出来なくなっていた。
そして、ついにマイケル達はカラーズのアジトへとついたのだ。
「おいおい……」
しかし、カラーズのアジトは扉が吹き飛び、外から見ても荒らされたとわかる状態であった。
「エミー!」
それがわかる距離に来た途端、ジョシュアが焦り、叫びながらアジトへと駆けていく。
当然、マイケル達もそれに続くのだ。
当然のことだが、アジトの中は外よりもひどかった。
物が無造作に散らかされ、ベッドや本棚なども倒れていたのだ。
そして、その中心で、マシューが横たわっていた。
「マシュー!おい!大丈夫か?」
ジョシュアが駆け寄るが、マシューは酷い状態であった。
顔は殴られたようで、ぼこぼこに腫れまくり、服は靴の蹴られた
しかし、マシューの体が温かく、呼吸をしているのを確認する。
生きている事がわかり、ジョシュアは安堵する。
「生きてるぞ!おい!マシュー!起きろ!」
「うっ……」
名前を呼ぶ声が届いたのか、はたまた乱暴に揺らされたかはわからないが、マシューは目を覚ました。
「マシュー!何があったんだ?エミーはどこだ!?」
ジョシュアが目を覚ましたマシューに対して、口早にまくしたてた。
「いってぇ……」
しかし、目を覚ましたマシューの第一声はそれである。
気を失う程に、ボコボコにされていれば当然である。
「すまん……」
ジョシュアが気を遣って手を離す。
「エミー……エミーとリビアは何とか逃がしたよ。でも、どこに行ったかはわからないや……」
それを聞いて、マイケル達はひとまず安堵する。
「何があったんだ?」
「周りがすげー騒がしくてよ……何があったのかはわからないけど、最初にエミーとリビアは裏口から逃がしたんだ。それで俺は、正面から様子を見ようとしたら、銃を持った奴らが入って来て……」
そこから先は言うまでもないだろう。
そいつらに、マシューはボコボコにされたのだ。
「よくやったぞマシュー!」
しかし、エミリーとオリビアが逃がしたのは良い判断であった。
「へへ……俺、初めて背が低くて良かったと思ったよ。あいつら俺をぼこぼこにしたけど、ガキをうつのは弾の無駄だってよ……まあその後もガンガン殴られて気絶しちまったんだけどな……」
命があるだけでも運がいいというのは、まさにこのことである。
背の高いジョシュアやジェイコブだったら、ガキとは言われずに問答無用で撃たれて死んでいたかもしれない。
「とにかくここは危険だ。ホワイトライトストリートに行こう。エミー達もそこにいるかもしれない」
正直に言うと、ホワイトライトストリートも安全ではないだろう。
早く、ジェザのシマから出たいのは山々だが、エミリーとオリビアの所在がわからないのでは、そういうわけにもいかない。
「歩けるか?」
「なんとかな……」
そう言うマシューは強がっており、実際には歩くのも難しそうであったので、イーサンとジョシュアで持ち上げるようにして、歩き出した。
♦
カラーズのアジトは、ジェザのシマの中でもわりかし端の方にある。
だからか、襲撃したであろうマフィアに会うことなく、ホワイトライトストリートへ着くことが出来たのだ。
しかし、カラーズのアジトにまで手が回っていたということは、ジェザギャングがどうなっているのかは想像に難くなかった。
「無事だったかガキ共!」
ホワイトライトストリートも、荒らされてはいたが、そこの住民達は無事の様であった。
マイケル達を確認した住民が、マイケル達に駆け寄った。
そもそもここは、ジェザのシマの中と言ってもただの商店街である。
だからこそ、無事であったのだ。
「なんとかですけど」
マイケルは強がって笑った。
「エミリーなら匿ってるぞ!本屋にいる」
「本当ですか!ありがとうございます!」
狙われているギャングの一員を匿うのは、かなりリスクが高かったはずである。
感謝してもしきれない程である。
そして、その言葉を聞いたジョシュアは、すぐに本屋へと駆けだした。
「エミー!」
そして、外から大きな声を出して呼ぶと、エミリーが本屋から飛び出してきて、ジョシュアの隣を駆け抜け、後ろから来たジェイコブに抱き着いた。
「ジェイク!」
それでもジョシュアは、エミリーが無事で安堵したのだった。
しかし、エミリーの次の言葉で、再びマイケル達に緊張が走った。
「リビアが私を逃がすために囮になったの!」




