ジャクソン・クルス
ジェイコブ達は、ジャクソンにマイケルを人質にとられ、言われるままに部屋の中へと入った。
廃ビルの中の一室と言うだけあって、閑散とした部屋である。
ただ、部屋の中には、机やボロボロのソファー、それにカセットコンロなど、生活に必要そうなものは置いてあった。
中でも目を引くのは、机の上に散乱した、食べかけのたくさんのハンバーガーであった。
「全員座れ」
ジェイコブ達にジャクソンが命令する。
やはり、ジェイコブ達はそれに従う他ないのだ。
そして、全員が座ると、ジャクソンは更に不思議な命令を出した。
「お前もだ」
ジャクソンは人質であるマイケルを解放し、マイケルをもソファーに座らせたのだ。
4人並んでソファーに座らされているその光景は、まさに処刑台に並んでいるのと等しい状態である。
しかし、そのソファーの目の前には、食べかけのハンバーガーが並んでおり、それは異様な光景である。
「あー、言うまでもないと思うが、少しでも変な真似をしたら、俺はお前ら全員を瞬時に撃ち殺せるからな」
そしてそれは事実であり、ジェイコブ達は誰一人として動けないのであった。
「喋ってもいいぞ。最初から禁止はしていない」
とても喋れる雰囲気ではなく、黙って従っていたジェイコブ達だったが、全員が疑問に思っていることがある。
「何がしたいんですか?最初に全員撃ち殺すことも可能だったはずだ」
ジャクソンが、わざわざ背後から警告までした意図もわからなければ、部屋に招き入れた意図もわからないのだ。
「それは後だ」
ジャクソンはニヤニヤとしながら、椅子に座って、銃を弄びながら答えた。
それは、ただジェイコブ達を舐めて、遊んでいるようでもある。
「何故気付いたんですか?」
「逆に気付かないはずがないだろう。あっちのビルから見てる奴、バレバレだったぞ」
ジョシュアが驚く。
本人としては最新の注意を払っている気だったのだ。
「あとな。プロのヒットマンなら判明しているであろう隠れ家は使わないし、窓際にも不用心に立たないぞ。気を付けろよ」
それはおかしな話である。
何故なら、ジャクソンは両方やっているからだ。
それは、つまり――
「あなたはプロではないと?」
という事になる。
「いいや、俺はプロの殺し屋だ」
それでは、益々意味がわからないのである。
「ああ、そこにあるバーガーは食っていいぞ。歳を取ると食えなくなるんだ。ガキのお前らにもいつかわかる日が来る」
そう言われても、誰も口にしようとはしなかった。
別にそれは、食べかけだからではなく、やはりジャクソンの意図が全くつかめず、不気味だからである。
そして、その物言いは、まるでジェイコブ達にこれから先があるようである。
「俺も貧民だったからな。食い物は粗末にしたくないんだ。食えよ」
だが、そんなジェイコブ達の様子を見て、ジャクソンは急かしてくる。
仕方なく、ジェイコブ達はハンバーガーを食べだした。
殺し屋に銃で脅されて、ハンバーガーを食べるその光景は、あまりにも異様である。
「ああ、だったらそんなに買って来るなって言いたいんだろう?わかってるよ。だけど、最後に色々なバーガーを食べたかった。それだけだ」
ジャクソンは一人で勝手に語るが、あまりにも聞き逃せない単語をマイケルが拾い上げた。
「最後?」
「ああ、俺は元々別のマフィアの人間でな。下手こいちまったんだ。俺が死ななきゃ家族が殺されちまうんだよ」
それを聞いても、やはり今この場での出来事の意味はわからない。
しかし、ジャクソンが饒舌な理由は、ジェイコブ達にも理解できた。
ただ、死の間際で、話がしたいだけなのである。
「だが、まさかガキ共が来るとは思わなかったよ。会ったのは初めてだが、お前らはカラーズだろ?」
「はい」
ジェザが扱っている子供の集団なんて、カラーズしかないのだ。
「ボブが来てりゃあ、黙って殺されてやったのにな。流石にガキに殺されてやるわけにはいかないんだよ」
それは、些細な殺し屋としてのプライドである。
「もしかして、俺達の扱いに困ってるんですか?」
「それもあるな。だけど、お前らは運がいいよ。これで生き残れる」
ジャクソンは、ずっともったいぶったような話し方をする。
それはやはり、ジェイコブ達には情報が少なすぎて、理解できないのであった。
「どういう意味ですか?」
「言っただろ?俺は別のマフィアの人間なんだよ。今頃俺が流した情報を元にジェザは襲われてるよ。もう全員死んでるかもな。だからな――」
ジャクソンは立ち上がり、割れて風通しのいい窓の方へと向かい、
「こんなところにいる場合じゃないぜ。ボブ」
虚空に向かって、そう言った。
その瞬間に、窓の外にボブが現れ、ジャクソンへと銃を撃ち込んだ。
しかし、ジャクソンも同時にボブへと銃を撃ち返しており、本来部屋の中へと着地するはずだったボブは、そのまま落下していってしまった。
一瞬の攻防であり、ジェイコブ達は何も出来なかった。
しかし、すぐに動き出し、撃たれて倒れたジャクソンを取り囲む。
銃弾を撃ち込まれ、血まみれで、ぴくりとも動かないジャクソンの脈を、マイケルが念のため確認する。
「死んでる」
それが確認できたとなれば、もっと大事な事がある。
「ボ、ボブさんは!」
イーサンが窓から下を見下ろすが、よくわからない。
しかし、ここは4階であった。
撃たれていなくても、重症は免れないはずである。
「急ごう」
マイケルが皆を下へと導く。
ジェイコブは、その前にジャクソンの死体を見た。
ジャクソンが一体何をしたかったのか、何故ジェイコブ達を殺さなかったのか、それは謎である。
ジャクソンの話を聞いた限りでも、ジェイコブ達を殺さない理由にはなっていなかった。
ただ、死に際の話し相手が欲しかっただけなのかもしれないし、ただの気まぐれかもしれない。
だが、ジェイコブは、何故だか敵であるジャクソンが嫌いにはなれなかったのである。
「おい!ジェイク!早く行くぞ!」
「ああ」
ジョシュアに急かされて、やっとジェイコブはジャクソンから目を離し、その場を去ったのだった。




