化け物
ここはどこだ。
とても懐かしい感じがする。
「くッ、来るな!
ば!化け物が!」
化け物?
目の前には槍を構えた兵士がいる。
その兵士の周りには、彼と同じ鎧を着た兵士達が臓物をまき散らして無様に倒れこんでいる。
「きれいな赤。血の色は好き。」
どこかから声が聞こえる。
その声はとても透き通っていて、この無残な光景には不釣り合いな幼い少女の声だった。
「わたしの眼とおんなじ色だから。」
その声はとても聞きなじみがある声だ。
だってわたしの声だから。
目の前の兵士はその声を聴いて、恐怖が限界に達したのか叫びながら突撃してきた。
「ミルジア聖王国万歳!!勇者様万歳!!」
少女は、ーーいやわたしは、その兵士に向けて自身の爪を振りかざす。
それだけで、兵士の首は切断され、乾いた地面に血をしみこませる。
倒れた兵士の後ろで剣や槍を構えている大勢の兵士たちが、息を飲み怯えている様子が伝わってくる。
その様子を眺めながらわたしは、血で染まった手をぺろりと舐めて、その幼い少女の顔に不似合いな歪んだ笑顔で嗤った。
「ねえ、もっと血を見せて。ふふっ、ふふふふっ、アハハハハハハ!」
どこまでも澄んでいて、どこまでもおぞましい声が戦場に響き渡る。
***
「..い、お..」
どこかから声が聞こえる。
「おい。おい!」
聞いたことのある声だ。
「おい!起きろ、アイティラ!」
「...!」
大きな声を出されてアイティラは飛び起きる。
目の前には、昨日からともに行動しているオスワルドがいる。
あたりを見渡してみると、森は当たり前のように存在しているし、上空からはあまり好きじゃない太陽の日差しが差し込んでいる。
そんなアイティラに、声の主であるオスワルドが鋭い目を心配そうに細めている。
「おいアイティラ。お前さん大丈夫か?」
「何が?」
アイティラは言葉短く応じる。
「何がじゃねえ。お前さんずいぶんうなされてたぞ。
それはもうやばいくらいに。」
「大げさすぎだよ。
それに夢の内容は覚えてないから、あんまり重要な夢じゃないと思うよ。」
その言葉にオスワルドは納得がいっていないような表情を浮かべるも、それ以上は聞かなかった。
「よしアイティラ。今日は動物を狩りにいこう。
携帯食料もあまり持ってきてなくて、昨日のが最後なんだ。」
その言葉にアイティラは、その少女の顔にふさわしい、純粋な笑顔でうなずいた。




