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自由を夢見た吸血鬼  作者: もみじ
カナンの英雄
31/136

悪魔討伐作戦

カナンの町冒険者ギルド。

その扉が勢いよく開かれ、二人の冒険者が中に入ってきた。

一人は背の高い金髪の青年だ。端正な顔に、冷たく透き通った青い瞳。そしてその手には彼の象徴ともいえる白銀の槍が収まっている。

彼のことはカナンの町の住民ならだれでも知っている、Sランク冒険者の≪雷光≫シュペルだ。

もう一人は、黒のローブを纏った小柄な人物。ローブに付いているフードで顔を隠した人物だ。

彼らが尊敬する人物と謎のローブの人物がギルドに入ってきたことで、周囲の視線が一斉に集まった。


しかし、シュペルは周囲の視線を気にすることなく受付の様子を確認すると、足早に受付嬢のもとへと進んでいった。

そのあとを黒のローブの人物も小さい歩幅で追いかけていく。


「ギルドマスターを呼んできてほしい」


受付嬢は、突然のシュペルの要求に困惑しているようだった。


「それは、どういったご用件で......」

「それはまだ言えないがギルドマスターに会いたい。今すぐにだ」

「はっ、はい!」


シュペルが威圧感を感じさせるほどの真剣な物言いで言うと、受付嬢は頷いてギルドの奥へと駆けて行った。

受付嬢が建物の奥へと消えてしばらくすると老齢の筋骨隆々の男が出てきた。


「雷光殿、どうされた?私に用があるとは珍しい」

「できれば個室で話したい。すぐに用意してくれ」


ギルドマスターはシュペルの表情を見ると、すぐに険しい表情になった。


「分かった。ついてきなさい」


先に進んでいくギルドマスターの背中を見て、シュペルは後ろを振り返った。


「どうした?行くぞ」

「うん」


アイティラもシュペルの後に続いて、ギルドマスターを追いかけた。


***


「さあ、座ってくれ」


ギルドマスターに促されて、アイティラとシュペルは質のいいソファーに座る。

それを見届けてからギルドマスターは、二人の対面に腰掛けた。

ギルドマスターの視線がシュペルに、その次にアイティラへと移っていく。


「そちらのローブの子は初めて会うが、君も冒険者かね?」

「うん、Bランクの冒険者だよ」


アイティラは冒険者プレートを取り出して、小さく振ってみせた。

ギルドマスターはその声を聞いて、わずかに目を見開いた。


「お嬢さんだったのか。その年で冒険者になるなんて、雷光殿よりも早いんじゃないか?」

「?」


アイティラは言われた言葉の意味が理解できず、小さく首を傾げた。

その様子を見てギルドマスターは、どこか懐かしむように目を細めてシュペルを見た。


「ああ、そこの雷光殿も子供といえる年齢から冒険者をやってたんだ。といっても、その頃も今みたいな落ち着いた物言いだったから子供らしくはなかったがね」


「ギルドマスター、そんな話は後でいい。今は急ぎの話があるんだ」


ギルドマスターは過去の思い出を懐かしむように語っていたが、シュペルは本題を切り出そうと、その話を終わらせた。

ギルドマスターも、確かにそうだと頷いた後、先ほどまでの過去を懐かしむ顔ではなく、厳粛なギルドマスターの顔に変化した。


「それで、君が私を呼び出すなんて、いったい何があったんだ?」


シュペルが一枚の用紙をギルドマスター前に置き、ソファーに深くもたれて腕を組んだ。


「この依頼を受けているときに少々面倒な事態に遭遇した」

「ふむ、最近発生している子供がさらわれる事件の調査だな。それで?」


ギルドマスターは渡された依頼書を確認した後、視線を上げてシュペルを見た。

視線を向けられたシュペルは腕を組んだまま、アイティラの方に顔を向ける。

ギルドマスターもシュペルにつられてアイティラへと視線を移した。


「まず、この事件を引き起こしていた連中のアジトをこいつが突き止め壊滅させた。そこで連中の一人を尋問した結果、そいつらの拠点がこの町の中にあることが分かった」

「町の中にだと?」


ギルドマスターは眉を寄せて、眉間に深いしわを作った。


「ああ、それに町の中の拠点には少なくとも仲間が五十はいると言っていた」

「五十...」

「さらに、俺たちが町の外の拠点を襲撃したことがそいつらに伝わったら逃げられる可能性がある。その前に町の中の拠点を制圧したい」


言い終わったシュペルはギルドマスターをじっと見つめたまま返答を待った。


「それで、ギルド側に何を求めているんだ?」

「今ギルド内にいる冒険者達に協力を要請してほしい。そいつらには俺たちが拠点を制圧している間、民間人に被害が出ないように守ってもらいたい。それと、逃げた奴の捕縛もだ。」


ギルドマスターは深く息を吐いた後、ソファーに背をもたれさせた。


「確かに民間人を守ることは重要だ。だがそれは冒険者よりも、伯爵の兵に協力を求めた方がいいんじゃないか?」

「敵が人間だけならばその方がいいが、今回は状況が違う」

「敵が人間だったら......?」


ギルドマスターはシュペルの言葉に引っ掛かりを覚え、その言葉を聞き返した。

シュペルは組んでいた腕を解き、姿勢を起こす。


「今回の敵はーーー」


シュペルは小さく息を吸い込むと、落ち着いた、調子の低い声で言った。


「ーーー悪魔だ」


***


ギルドにいた冒険者たちは、シュペルがギルドマスターとともに建物の奥に消えて行ったことについて口々に予想を言い合っていた。

そんな彼らのもとに、ギルドマスターを先頭にシュペルとローブ姿の人物が戻ってきた。


「聞け!冒険者諸君!」


ギルドマスターが大きな声で呼びかける。


「これより君たちに緊急依頼を与える!」


ギルドに集った冒険者たちの視線が一斉にギルドマスターに集まった。

多数の視線を向けられながらも、ギルドマスターは動じた様子を見せずに彼らを見返した。


「私たちの愛するこの町で、不届きな集団が活動しているようだ。君たちにはその集団の制圧に協力してもらいたい」


ギルドマスターから告げられた突然の内容に、彼ら冒険者は近くにいた冒険者と顔を合わせた。

誰が質問するべきかと、彼らは周囲をうかがっている。


「はいはーい!」


そんな中、ギルドのテーブル席に座った四人パーティーのうちの一人の女冒険者が元気よく手を挙げた。


「その集団ってどんな奴らなんですかー?シュペルさんがいればすぐに制圧できそうですけどー?」


その質問は、彼ら冒険者たち全員が聞きたいことだった。

それだけ、彼ら冒険者たちにとってSランク冒険者の力は大きいものだったし、彼らのシュペルへの信頼は高かったのだ。

だからこそ、わざわざ自分たちの協力が必要な理由を知りたかった。


「この依頼の敵は、悪魔だ」


ギルドマスターの口から突然出てきた言葉に、質問した女冒険者はパチクリと目を瞬いた。


「正確に言うならば、悪魔がとりついた人間だ。その悪魔の力が未知数なのと、敵の人数が多いためにこちらもある程度の人数をそろえておきたい」


その言葉に冒険者たちは納得した。

実力の分からない敵が多数いるならば、ある程度の人数がいた方がいい。

特に町の中ならば、逃げられでもしたら住民に被害が出るかもしれないのだ。


「とはいえ、敵の拠点の制圧はシュペルとこちらのアイティラという子にやってもらうがな」


しかし、その言葉に冒険者たちの顔に疑念が浮かんだ。

成り行きを見ていた厳つい顔の冒険者が、どこか困惑したようにギルドマスターに尋ねた。


「そっちの子は誰なんですか、マスター。その、どっからどう見ても子供に見えますが?」


「それについては問題ない、こいつの実力は俺が保証しよう」


ギルドマスターが話し出す前に、シュペルが口をはさんだ。

まさかの雷光シュペル直々に、実力を認めていることに対して、冒険者たちは驚き半分、疑念半分の視線で、アイティラと呼ばれたローブ姿の人物を見た。

視線を集めたローブの人物の表情は、目深にかぶったフードによって伺うことはできなかった。


「まあ、シュペルさんがそういうなら......」


質問した男は渋々ながら頷いて引き下がった。

静かになった冒険者たちを見渡したギルドマスターは、一度咳ばらいをしたあと、彼らを見渡して口を開いた。


「とりあえず、内容について詳しく話そうと思う。協力の意思がある者は、私の近くへ集まってくれ」


ギルド内にいた冒険者たちは互いに視線を合わせあう。

「私たちは参加するよー」

テーブル席にいた男女混合の四人パーティーが席を立ちあがった。

「俺たちも協力する」

厳つい男たちの三人組も、ギルドマスターの方へと進んでいく。

「僕たちのパーティーも参加します」

「まあ、俺たちの町の中にそんな奴らがいるなんて心配だからなぁ」

「俺たちの町だ。喜んで協力しよう」

次々と冒険者たちは立ち上がり、ギルドマスターの元へと進んでいく。


次々と集まってくる冒険者たちの姿を見て、ギルドマスターはその顔に小さな笑みを浮かべた。


「そうか、感謝しよう。ではこれより、悪魔退治の作戦について説明する!」


冒険者たちはその力強い声に呼応するように、その顔に自信に満ちた笑みを宿した。


その様子を見ていたひとりの冒険者も、仲間に向けて興奮した声音で言った。


「おい、俺たちも参加しようぜ!」


しかし、向けられた彼の仲間は額におびただしい量の汗をかきながら、自身の腕に爪を立てて俯いている。


「お、おい。大丈夫か?」


声をかけられた彼の仲間は、ハッと顔を上げると慌てて席を立ちあがった。


「すまん!俺、この後用事があるからすぐ行かなきゃ」


そういった彼の仲間は慌てた様子でギルドの外へと出て行った。

後に残された冒険者はポカンとした様子で、仲間が出て行った扉を見つめていた。

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