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自由を夢見た吸血鬼  作者: もみじ
カナンの英雄
30/136

悪魔の信奉者

その場所は邪悪だった。

天からの祝福である光を、周囲に生い茂っている木々の葉が遮り、あたりは夜のように薄暗い。

そんな中にぽっかり空いた洞窟は、生あるものを飲み込もうというように大きな口を開けて広がっていた。

洞窟の入り口には二つの火が灯されており、それによって周囲にある人影が真っ赤に照らし出されている。


その場所は邪悪だった。

映し出された人々は、灰色のローブに身を包み、中央にある不気味な恰好をした偶像に向けて手を合わせて祈っている。

その姿は、邪悪なるものにその身を捧げる狂信者のようだった。


ガサガサ。

草木が何者かによって揺すられるような音がして、灰色の彼らたちは一斉にそちらに視線を向ける。

その手は一瞬にしてそれぞれの獲物に添えられ、今すぐにでも抜き放てる恰好でだ。

草木を踏みつぶし、音の正体が彼らの前に現れた。


「待ってくれ!俺だ、俺!」


声を上げて現れたのは、山賊のような風貌をした男だ。

さらに男の後ろには三人の男が付き従っている。

男は大きく手を上げて彼らに呼びかけるが、灰色の彼らは獲物から手を離すことはない。

警戒を隠さない彼らに向けて、山賊のような男はさらに言い募る。


「そんな警戒しないでくれよ!これまで協力してきてやっただろ!」


灰色の彼らの中から一人の人物が進み出た。


「何の用でここに来た。お前を呼び出した記憶はないぞ」


しわがれた声が響き渡る。

その声は鋭く、責めるような色が宿っている。

しかし、山賊のような男は動じずに大きな声で答えた。


「ガハハハッ!あんたらが求めていた子供を連れてきたんだ!ほらっ!」


男の後ろから真っ黒なローブに身を包んだ子供が現れた。

しかし、灰色の男はなおも苛立たしく言葉をつづけた。


「子供を引き取るときは団員の者が受け取りに行く。なぜ子供をこの場所まで連れてきた?」


彼らの間では、この場所が外部にばれないように子供を受け取るときは団員を向かわせて受け取っていた。しかし、彼らは直接子供をここまで連れてきたのだ。質問の返答次第では、この男を処分する必要も出てくるだろう。

灰色の者達の間に緊張が走る。

沈黙が落ちる中、ついに山賊のような男がその口を開いた。


「このお嬢ちゃんをここに連れてきたのは......」


男はどこか困惑した声を出した。


「ああ?どうしてだ?俺はどうしてこの嬢ちゃんをここに連れてきたかったんだ?」


男の様子が何やらおかしい。


「いや、ここに連れてくるよう頼まれたんだ。だが、誰にだ?」


混乱している男の様子に、灰色ローブの男も違和感を感じ取った。

あきらかにおかしい。灰色の男は何が起きているのか目の前の男を観察して把握しようとした。

その時に、それは起こった。


「思い出せねえが、確かに頼まれーー」


男の言葉が不自然に途切れた。

男の首から真っ赤な血が、噴水のように勢いよく噴出した。

辺りが静まり返る。


「へ、兄貴...?」

「あ、ああ」

「あっ、兄貴ー!」


首が飛んだ。それも三つだ。

三つの噴水が出来上がった。


「な、なんだ?」


しわがれた声が、真っ赤な闇にこだまする。

灰色の彼らの先には、妖しく輝く不気味な剣が闇の中に浮かんでいた。


「案内してくれてありがとう。でも、もうあなたたちに用はないよ」


惨劇を引き起こした執行人は、灰色の彼らに向かって近づいてくる。

彼らの先頭にいるしわがれた声の持ち主は、思わず一歩後ずさった。

炎に照らし出された黒のローブの口元が、悪意に満ちた笑みをかたどる。


「ぎゃあああああ!」


悲鳴が響き渡る。


「ひっ、ヒィィィィ!」

「ああっ、ああああッ!」


真っ赤な花が咲く。咲き乱れる。

前にいた者から順番に、恐ろしい化け物の近くにいた者から順番に。


「ひぃ、ヒィッ!」


仲間がどんどんと物言わぬ死体になっていく姿をみて、そのうちの一人は死に物狂いで逃げ出そうとした。

まだあの化け物とは距離がある!このままなら逃げ切れるはずだ!

木々が乱立する森の中に逃げようと、男は足を踏み入れーー


「がっ!?あっ!」


男は自分の腹を見ると、そこからは短剣が突き出ていた。

目を見開いて男が後ろを振り向くと、そこには投擲した格好のままこちらを見ている化け物の姿があった。

その姿を最後に男は死んだ。


***


アイティラは灰色のローブの集団を殺しまくった。

初めは沢山いた彼らも、残りあと三人になってしまった。

彼らはおびえた表情で、アイティラのことを見て後ずさる。


「あなたたちも、すぐお仲間のところに連れてってあげる。みんな一緒の方が嬉しいでしょ?」


アイティラは彼らに剣を振り下ろし、無慈悲にその命を刈り取ろうとする。


「待て」


どこかから声がかかった。感情を感じさせない声だ。

アイティラは声の方を振り返り、その人物に視線を向ける。


「誰だっけ。Sランクの...」

「......シュペルだ」


そこには槍を携えたSランク冒険者のシュペルがいた。


「どうしてここにいるの?」

「君を追ってきたんだ」


アイティラの瞳が鋭くなる。


「邪魔する気?」

「いや、違う。全員殺すなと言いたいだけだ」


少女はおびえている三人の灰色ローブたちに剣を突き付けたまま、シュペルを見る。

シュペルは青く輝く瞳を向け、平坦な声で説明した。


「全員殺したらこいつらから情報を聞き出せない。だから殺すな」


アイティラは納得したように頷き、剣を下ろした。

シュペルはその様子を確認してから、アイティラと灰色ローブの三人に近づいてくる。


「ランクは?」

「......Bランク」


シュペルは眉をよせてアイティラを見る。


「本当か?先ほどの戦いを見る限り、もっと上だと思ったんだがな」


それだけ言うと、シュペルは三人の灰ローブに向けて冷たく言い放った。


「お前たちの仲間はほかにいるのか?」

「い、いないっ!」

「......ここには二十人ほどしかいない。それに、ここだけでなく周囲の町でも子供が消えている。他にも仲間がいるだろう?」

「ほっ、本当だ!ここにいるので全員だ!」

「......」


灰色ローブは、他に仲間はいないと言い張っている。だが、本当かどうかは分からない。


「ねえ、私が聞いてみてもいい?」

「できるのか?」


シュペルはその目に疑惑の色を浮かべて問う。

しかしアイティラは気にすることなく、灰色ローブの前へと進んだ。

アイティラが彼らに近づくと、彼らはより一層怖がった。


「たっ、たとえ脅されたとしても、お前たちに話すことはないぞ!」

「あは、そんなに怖がらないで」


アイティラは自身のフードを手で持ち上げ、灰ローブの一人と目を合わせた。

アイティラの真っ赤な瞳が妖しく光る。


「大丈夫だから、私の言うことを聞いて?」


灰色ローブの男が首を縦に振った。


「まず、あなたたちは何者?」

「私たちは、悪魔崇拝教団の一員です」


アイティラの質問に対し、抵抗することなく話し出した男に、仲間の二人が憤った。


「お前!教団を裏切る気かっ!」

「それ以上は話すな!」


しかし、男はアイティラを見上げたまま動かない。

二人の声は男には届いていないようだった。


「......どんな魔法を使った?」


その様子を見ていたシュペルは、どうして男が急に口を割る気になったのか訝しむようにアイティラを見た。


「それは秘密。それよりも聞きたいことはない?」


シュペルはわずかに眉を寄せると、男に向き直り質問をした。


「お前たちは、なぜ子供を攫った。子供たちは今どこにいる?」


聞かれた男は立ち上がり、洞窟の方を指さして言った。


「奥に行けば分かります」


シュペルとアイティラ灰ローブ三人に立つように命じると、彼らを先に歩かせて洞窟の中に入っていった。火によって赤く照らし出された洞窟の中は、ひどい腐敗臭に満ちていた。


「これは......」


シュペルはその端正な顔をしかめると、その先にあるものを見て歯を食いしばった。

そこには、無残に切り裂かれた子供が十数人と、地面に打ち捨てられていた。

灰色の男はシュペルの様子を気にすることなく淡々と説明を進めていく。


「ここで我らは儀式を行います。子供の身体に悪魔を宿らせる儀式です。ここにいる子供たちはその儀式に失敗したからこうなりまーー


感情を感じさせぬまま語っていた男に、突然シュペルが掴みかかった。

男の首を掴むシュペルの力はどんどんと強くなっていく。


「......無実の人間を殺してなぜそんなに平然としていられる。お前たちには人の心がないのか?」


シュペルは先ほどまでの冷たい瞳に、怒りの熱を宿して言った。

首を絞められている男が必死にシュペルの手から逃れようとするも、力の差によって引きはがす事が出来ない。

男の抵抗が弱くなってきたところで、シュペルは男を離した。


「お前たちの仲間はほかにどこにいる。居場所を言え」


首を絞められた男は、必死に空気を取り入れながら、息も絶え絶えに言った。


「我らの.......本当の......拠点は......カナンの町の......中にあります」

「なに?」


思いがけない男の言葉に、シュペルは目を見開く。

灰色の男の仲間二人は、拠点の場所を話した男を睨みつけている。


「私たちは...そこで...悪魔の復活を...」

「立て、そこまで案内しろ」


シュペルは冷たい声で命じると、息を整えている灰色の男を無理やり立たせる。

シュペルはアイティラを見てから言った。


「君も先ほどの戦いを見る限り戦力になる。一緒についてきてくれないか」

「うん、もちろんいいよ。私も冒険者だからね」


シュペルは灰ローブ二人を先に歩かせて、洞窟の外へと出て行った。

アイティラも、呼吸が落ち着いてきた灰ローブを伴って、シュペルの後を追いかける。


「それにしても、町の中に拠点を作ってもばれないんだね」

「それは匿ってもらってますから」

「誰に?」

「伯爵です」

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