アイティラ
「わしの名は、オスワルド・ブルーデスという。
お前の封印を解いた魔術師だ。」
「ふういん?」
老人オスワルドの言葉をきいた封印されていた存在は、何の話か分からないように聞き返した。
その反応に眉をしかめたオスワルドはさらに質問する。
「お前さん、自分が封印されていたことは覚えているか?」
「うーん、覚えてない。」
この言葉にオスワルドはさらに眉をしかめる。
「ならどこまで覚えている。」
封印されていたそれは、自身の記憶を振り返る。
だが思い浮かべようとも全く頭に浮かんでこず、手掛かりはないものかと布切れ一枚も纏っていない自身の体を見渡した。
自分の体は痩せこけていて、こじんまりとしていた。胸は小さいものの僅かに膨らんでおり、その下を見る限り自分は女であるらしい。
自身の頭に触れてみると、さらさらとした髪の感触がして、視界の端に映った髪の色は濃い黒色をしている。
自身の姿を確認していると、確かにこの体には見覚えがあり自分の体だと素直に納得できる。
しかし、なぜか自身の記憶といったものが全く思い出すことはなかった。
そうして少女はそのことを眉をしかめているオスワルドに伝える。
「全然覚えてない。」
オスワルドはなぜか落胆した様子で何やら呟いている。
よく聞くと、「封印の解除が不十分だったのか?」や「目覚めたばかりでまだ記憶が混濁している?」などといった言葉が聞こえる。
そうしてしばらく思案していたオスワルドは顔をあげ、裸の少女に言い放った。
「とりあえず何か思い出したら教えてくれ。
それよりいつまでもその格好なのはよくないな。」
そう言い、オスワルドは自身のローブを少女にかぶせた。
少女がそのローブの感触を確かめ、匂いを嗅いでいると、オスワルドはどこかに離れていった。
しばらくしてオスワルドは戻ってくると、その手の上に大量の木の枝を抱えていた。
何をするのだろうと、少女が観察していると、オスワルドは手に持っていた木の枝を地面に放った。
そしてその木の枝のほうを向いて、オスワルドは何かを呟いた。
その瞬間、木の枝に火が付き燃え出した。
その様子を静かに見ていた少女にオスワルドは言い放つ。
「おい、そんな暗い場所にいないでこっちに来い!」
その瞬間少女は気が付いた。森の中開けた上空を見上げると、月が上っているのが見える。
だが少女には、今が夜であるにもかかわらず、まるで昼間のように明るく見えていた。
とりあえず今はその問題を後回しにして、少女はオスワルドと不恰好な焚火のもとに行く。
「おい、お前さん。
そういえば名前を聞いていなかったな。何て名前だ?」
少女はとっさに名乗ろうとするも、自分の名前が思い出せない。
「自分の名前、わからない」
「名前まで覚えてないのか、不便だな。
よし!わしがお前さんの名前を考えてやろう。」
そういってオスワルドは考え込む。
うーん、うむむ。などと考え込んで小一時間ほどたったころ、ようやくオスワルドは口を開いた。
「よし、お前さんの名前はアイティラだ。」
少女はその名前を復唱する。
「アイティラ...。」
「意味としては、アイがお前さんの特徴的な赤い目を示していて、ティラは帝国のある土地の言葉で女王を意味する言葉だ。なかなかいい名前だとは思わないか?」
少女は、アイティラ...アイティラ...と何度もつぶやいてから顔を上げる。
「とってもいい名前だと思う。ありがとうオスワルド。」
少女、アイティラに初めて自身の名前を呼ばれたオスワルドは、その鋭い目を細めて満足そうにうなずいた。




